フルータの場合 24
そこで言葉を止めるレイティ。それに合わせ、セルダがその言葉の続きを言い出す。
「やっぱ、君が街の出だっていうのがね……『街から出た奴なんかの料理には負けたくない』って、みんな思っているんだ」
セルダが言う。その言葉を言うとき、セルダ自身もあまりいい気はしていない感じであった。どうも、少し不愉快な感じで言っていた。
「そんな事気にしなくてもいいのに。私なんて、フルータの料理を認めているからこんなにゾッコンになっているんだよ」
そう言い、フルータの胸に顔を摺り寄せてくるレイティ。彼女がフルータの事を好いているのは、嘘偽りのない本音であるらしい。自分の料理が、すでに認められているというのは、フルータにとっても嬉しいことであった。
「そんな事、ボクらに認められる事じゃない! 王宮で培ってきた努力の数々が完全に否定されているようじゃないか!」
セルダは熱の篭った様子で言う。
「努力よりも結果だと思うけどねぇ……結局美味しい料理を作れればいいんでしょう? コックっていうのは……」
レイティが言う。『それを言われると……』と、いった感じで振り上げた拳を下ろしたセルダは続けて言う。
「料理長だってそうだ……よく休みを取って、街の料理を食べに行っている。勉強熱心と言えばそうなのかもしれないけど……『なんだ! 王宮の料理はマズいのか!』って、思う人も少なからずいて……」
「その、男のプライドを捨てないから、どんどん王宮料理は時代から取り残されていくんでしょう?」
「取り残されてなんかいない! 僕らの作る料理は最高の料理だ!」
「だけど、王族を始め、他の人らもそう考えてくれるか? って、いうと……?」
レイティが質問口調でセルダに聞く。
セルダは唇を噛み、答えに窮しているようだ。
「また、街の料理人と王宮料理人に料理勝負をさせようなんて話も上がってる……その戦いで負けたら、完全に僕らの面目は丸つぶれだ……」
「料理長みたいに、街に行って料理の研究をすればいい話に思えるけどね。私からしたら……」
レイティが言うのに、セルダは言葉に詰まった。だが、すぐに気を取り直して「つまるところ……」と言い、言葉を切り出した。
「君の存在は料理場にとっては危険なんだ。うまく使えれば有益だけど、毒にもなり得るって事だよ……」
「それに、最近。兵士たちが、野戦食の味について文句を言い出すようになってきたらしい。街から適当な料理人を雇って送るつもりらしいけど……」
「それに、あのサリルが一枚噛んでいるって話だけどね……なんせ、前線で今戦っている軍団長はサーファスといって、サリルはその娘だっていうし……」
セルダとレイティが言う。
「サリルに気に入られると、戦場にまで引きずり込まれるって事もありえるんだ……」
それは、フルータとしては勘弁いただきたいところだ。折角、宮廷料理人になったというのに、戦地なんかに送られるようじゃ、今までの苦労が水の泡である。
「そういえば……」
フルータは思い出す。今日の朝に『大勢の料理を同時に作ったことはあるかい?』と、料理長から聞かれていたのだ。
大勢の料理というのは、兵士たちの野戦食の事である事は容易に想像できる。
「ヤバいじゃない!」
「間違いなくヤバいな……」
レイティとセルダは二人ともそう言う。
自分の身に、危険が迫っているのを、肌で感じたフルータ。寒くもない季節のはずであるが、フルータの体に寒気が襲ってきた。




