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剣と厨房。二人の成り上がり。  作者: 岩戸 勇太
ラディンの場合
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ラディンの場合 3

 それに、嫌気がさした男は、自分の親指を自分で叩きつぶした。

 そして、もう剣を握ることはできないと、周りから認められ、一人で故郷の街に帰ったのだった。

「俺は何度もその男に言われたよ。『動きが早いだけ』『鋭さがない』『戦地になど向かえば即座に死ぬことになる』その言葉を誰かに言ってやりたいとか思っていたんだが……」

「口は災いの元だよ……」

 ラディンの言葉に、レナードが言う。レナードはラディンの口の悪さをたしなめた。

「あいつと一緒に居た頃は、気兼ねなく好きなことを言いまくっていたからな……」

 ラディンはそう言う、あのフルータと一緒に憎まれ口を叩きあっていた頃が、なんとなく懐かしく感じてきた。

「もしかして、最近厨房に入ってきたっていう、新入りの料理人の事かい? あの子は筋がいいっていって褒められてたよ」

 レナードがそう言う。

 それを聞いたラディンは「ケッ……」と顔を歪めながら言ったのだ。

「あいつは相変わらず処世術を心得ているんだな。胸糞悪いぜ、あんなコウモリ野郎は……」

「はは……随分と口が悪いね……」

 いきなり、ラディンの口調が下品なものに変わったのを聞き、レナードは、苦笑いをした。

「あの子の方も、随分な皮肉屋だって話だよ。親友同士だったら、そういうところも似てくるものなのかな?」

「あの子の方も……か」

 フルータの事を指し、そう言われたという事は、自分だって皮肉屋と思われているという事だ。ラディンはレナードの事をじっ……と見た。

「なんだい?」

 レナードは、ラディンの様子を見て、不思議そうにして言った。

「いや、なんでもない」

 ここは、故郷とは違い、話し相手はフルータのような皮肉屋ばっかじゃない。

 その事を再認識したラディンは、レナードと一緒になって王宮の廊下を歩き続けた。

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