フルータの場合9
「料理が出来るなら、お菓子くらい簡単に作れるなんて、思っているんじゃないだろうな?」
パティシエ用の調理場を借りるにあたり、宮廷料理人のパティシエに挨拶をする事になった。だが、パティシエのフルータに向けての態度は良いとは言えない感じであった。
「いえいえ……私は昔、近所の主婦を相手に料理の作り方をレクチャーしていましたので、簡単なものなら作れるだけなのですよ」
パティシエの態度を見ても、嫌な顔を一つしないで答えた。本心では、お菓子作りには自信があり、そこらのお菓子職人には負けないくらいの自信があるが、卑屈な態度をとっておくフルータ。
「わかるかい? お菓子というのは、料理ができればだれだってできるものじゃない。特別な才能や、センスと美的感覚が必要なのだよ」
重ねてそう言ってくるパティシエ。
「そうですね、ボクも一度街のパティシエの所でお菓子作りを学んでいた事がありますが、見ても楽しいし食べても美味しい。すばらしいものを作りますね。感服したことがあります」
フルータがそう言うと、『ふん……街のパティシエね……』と言い、不機嫌そうにしてパティシエが言う。
「まあ、ここの機材を使うくらはいいだろう。物を壊すなよ……」
最後にそう言い捨てるパティシエ。それで、厨房から出て行くワケでもなく、フルータが、お菓子をつくる所を監視し始めた。
『どう思っているんだろうな?』
フルータは、パティシエの行動を見て思う。
単純にフルータが機材を壊さないか? を、監視しているだけか? それとも、ほかの人間のお菓子作りを見て、勉強をしようと思っているのか?
『とりあえず、作り始めればわかるか……』
そう考え、フルータは菓子を作り始めた。
後ろから、フルータの事を見つめてくるパティシエ。彼は老齢で他にパティシエの仲間もいない。そろそろ引退を考えてもいい年齢であるのだという噂を聞いていた。
「小僧……なかなかいい腕をしているじゃないか」
フルータの背中を見つめ続けるパティシエはポツリと言った。
「そうですか? ありがとうございます」
警戒をしながら、フルータは言った。いきなり何を言われるのか? と、思ったフルータは体を固くした。パティシエの老人は言う
「だが、調子に乗るんじゃねぇぞ。おめえくらいの事ができる奴は他にもいる」
「そ……それはご忠告どうも……」
そうフルータが返すと、パティシエは黙ってフルータの様子を監視し続けた。




