フルータの場合5
自分の席についたセルダは、スプーンを使ってまかない料理を食べ始める。
「ただ、覚え方が雑で、分量とか焼き時間とかを、まったく間違った覚え方をしていたり……」
そこまでセルダが言うと、レイティは、またセルダを床に叩き伏した。
「あのねぇ、料理の塩の量とか、焼き時間とかなんて、食材の状態やその日の気温なんかで、変えて当然なの。いっつも同じ量しか使わないのがおかしいのよ」
その言葉には、フルータも同意する。
「そりゃそうだ。覚えたとおりの事しかできないなら、その方がおかしい」
レイティはうんうんと頷く。
『それはそうだけどな……』
そう、周りの料理人達は言う。何か、レイティの言葉には含みがある感じだ。
『どういう子なんだ? この子は……?』
皿洗いをしていたところを見ると、まだ入って間もない子なのだろうが、この腫れ物に触るような扱いを受けているこの子事は、どうやって見ればいいのか、分からなかった。
「ねえねえ、フルータ君ってどんな子が好み?」
レイティが聞いてきた。今の厨房は後片付けをしているところだ。
後片付けというのは新人がやることであり、新入りの三人であるセルダとレイティ、そしてフルータの三人しかこの厨房にはいない。
「やめとけ……」
隣で一緒になって皿を洗っているセルダが、フルータに向けてそう言いながら肘でフルータの脇腹をつついた。
「どういう意味だ?」
そう言いながら、フルータは、皿の水けを拭き取っているレイティに向けて新しい皿を渡した。
「そうそう……フルータ君と仲良くしようって考えているだけなんだから、邪魔しないでくんないかな……?」
レイティはセルダの後ろまで歩いてきて、セルダの首を羽交い締めにして絞め始めた。
「それは、さすがにやりすぎじゃあ……」
フルータは、レイティの行動をたしなめるが、レイティは、ギラリとした目でフルータの事を見た。
多少の事ではビビらないフルータであるが、それでも尻込みをするくらいにその視線は鋭かった。
「まあ、いつもちょっかいを出してくるからね。これくらいやらないと、こっちの気がすまないよ」
そう言いながら、セルダの首を絞めるレイティ。セルダは、レイティの腕を叩きながら、「ギブ……ギブだって」と言っていた。
レイティがセルダの首から手を離すと、セルダは、その場で倒れ込んでいった。
「まったく……変な事ばっかり言って……」
「お前が変なんだよ、ちっとは自覚しろ……」
それでも反骨心を見せ、レイティに向けてそう言うセルダ。
「まったく……」
そう言いながら、レイティは皿を磨く作業に戻っていった。
「セルダの言う事なんて、気にしないでいいからね」
レイティは、最後にそう言い、それから黙々と皿を磨き続けた。




