フルータの場合3
フルータは、セルダからこの厨房の事を、聞き出せるだけ聞き出した。
ここの料理長は、普段は温厚だが、料理のことになると性格が一気に変わる。
料理の話を始めたら、彼を止めることができない、などと言われている人だ。
今は、皿を洗っているフルータは、セルダから聞いた事を頭の中で整理し始めた。
『そういう事が、先に聞けたのはよかった』
それを聞いていなければ、フルータは、ごますりなんかを行っていたかもしれない。料理長は、ごますりなんかのあさましい行動は嫌うのだという。
「それに、あの子の何が危険なのだと言うんだろう……」
フルータは考える。自分の目に止まったあの子の事を聞いたときセルダはあの子は『危険』であると言い、『絶対にやめたほうがいい』などと言って、フルータに釘を刺したのだ。その時の事をフルータは思い出す。
今は調理の合間にできた、空いた時間だ。まかない料理を作り、それを食べている最中の話だった。
「あの子が気になるの? やめたほうがいい……」
セルダは、思いっきり首を振り、手を振る。そうしながら言った。
「どうしてだい? あの子ってどんな子なの?」
そうフルータが聞くとセルダは声を小さくして言う。
「『危険』なんだよ……あの子は……」
セルダがそう言う。
「なにー? 私の話をしているの?」
その子が、フルータとセルダの後ろに立ってそう声をかけてきたのだ。
その言葉を聞くと、セルダはビクンと体をはね上げた。
「な……何の事かなぁ……? レイティ?」
ぎくしゃくとした動きで振り返りながら、そういうセルダ。フルータも、セルダに続いて後ろを向く。
やたらとニコニコしたあの女の子が立っていた。
『名前を聞く手間がはぶけたか……』
冷静になってそう考えるフルータ。『あの子はレイティっていう名前なんだ……』と、呑気にもそう考えていた。
「あんまり新入りの子に変なことを教えないでよ。私の印象を悪くして、何か狙ってでもいるの?」
やたらとニコニコした顔をして言うレィティ。
「そ……そんな事ないよ……」
セルダはしどろもどろになりながら、そう声を絞り出す。
「そりゃ怒るよ。人の事を『危険』だとか言ったら……」
フルータもそう言う。レイティの様子を見て、セルダが必要以上にビビリすぎなんじゃないか? と、フルータには見える。
「そうそう、まったく……新入りのキミも、こいつの言う事なんて、間に受けなくていいからね。こいつは私の事が、どうも嫌いらしくてさ……」
そう言いながらセルダの足を踏みつけるレイティ。
『危険ってのはこういう事か……そりゃ、セルダにとっては危険だろうけど、余計な事を言った、セルダの方が悪いな。この場合……』
そう考えながら、セルダの事を見るフルータ。
「なんだよ! その目は……」
セルダは非難するような目で、フルータの事を見る。そうすると、レイティはセルダの事を押しのけた。
椅子から押しのけられたセルダは、床に転がる事になった。
「不憫な……」
フルータは、その様子を見てそう言った。




