フルータの場合2
「さて、厨房の他の人は……」
フルータは、周りを見回した。
自分は、近所の主婦達に料理を教えていた経験がある。人の心を掴むような方法には長けているつもりなのだ。
『あの子なんてどうだ?』
フルータは次の獲物を物色していた。そこに、一人の女の子が目にとまった。
「かわいい子じゃないか……」
フルータは、ついついそう口走る。
彼女は皿を洗っているところだった。手にはいくつもの絆創膏をしており、手があかぎれだらけになっているのが分かる。
だが、やはりフルータだ。その後に考える事といえば、結局こうである。
『あの子はどのような家の子なんだろうか? 両親は何をしてるんだろう? 逆たまなんかも狙えるんなら、その方がいいが……』
ラディンと同じく、そういう考えに落ち着き、とりあえず、その子に声をかけるのはやめておこうと思う。
その子はフルータの視線に気付いていた。その子は、自分に背を向けるフルータを見て、なにやら『ぼう……』っとした顔をしていた。
「お前ってダメなんだって言われているぞ。なんでも芋の皮むきもロクにできないとか……」
まかない料理を食べながら、隣に座っている少年からそう言われるフルータ。
「まかない料理だって、本当は新人の役目なんだよ。それなのに、あの人は『あいつの作るもんなんか食えるか!』って……」
「あの人……やっぱりこの厨房でも有名なのかい?」
「まあね……やたら大口をたたくかと思えば、仕事はそこまで出来ないし……そのくせ新人いびりや、人をバカにしたりするのも大好きで……」
その人の名はランダル。この厨房でも有名な問題児であるという。
「なんか、嫌な人に目をつけられたな……これから大丈夫か?」
『大丈夫に決まっているだろう……あの人は僕の術中の中さ』などとは思っているが、そんな事を口に出しはしない。
「ボクも自分がまだ未熟者だというのは分かっている。これはいい勉強だ」
優等生らしい言葉を言ったフルータ。これは、自分の作戦であるなどという事など、つゆにも出さない。
「そういえば、君の名前を聞いていなかったな。ボクはフルータ。君は?」
「セルダだ……これからよろしく」
そう言い、フルータはセルダに向けて手を差し出した。それに合わせて、セルダも手を握り返す。




