Day1
現世に降り立って6時間は経つという物の男に話かけるものは誰一人としてはいなかった。天使から聞かされた制約と利点を一つ一つ思い出す。
≪制約≫
1・自分の姿は他人は感知する事ができない。
2・だからといって犯罪行為を行うと権利は失われ地獄と呼ばれる場所へ連行される。
3・現世の人物に直接干渉してはならない。
4・期間は最大1週間。
≪利点≫
1・夢に出る事なら可能。
2・頭に想い浮かべた人物の側に移動する事が出来る。
3・物には触れる事は出来が気づかれないまたは、元の場所へただしておくこと
気持ちに整理をつけ、目を瞑りまずは両親の顔を思い浮かべる。すると男が育った家へと瞬時に移動する。何となく乾いた雰囲気が家中からした。
仏間の方から鐘の音が聞こえ向かうと母親が1人手を合わせ静かに祈っていた。自分の写真に目をやると自分の顔ではないような気がする。
(ふてくされた写真なんかかざるなよ…、もっと他にあっただろ…)
その後一人事のようにぶつくさと呟いている。引き止めれなくてごめんだの、変わりに自分が死ねば良かっただのと…。
男は母親に対しごめんと一言つぶやくと自身の部屋へと向かった。
部屋は最後に自分が使った時のままだった。衣服等はそのままぬぎちらかしたまま、机の上にあるものは片付けられていない。
まるでこの一室だけ時間が止まっているように。
男は側に転がっているノートを手に取りおもむろにページを開く。学生時代の下らない落書きですら懐かしく感じた。
「ははっ…、下らねぇ…、何だよこれ…、面白くねぇな…」
一つ一つ過去の思い出に浸っていると不思議と涙が出て来た。自分はもう生きる事が出来ないのだと。
机の上にあった煙草を手に取りポケットにしまうと男は外にでた。
「元々俺の物だし文句はないだろ。」
煙草に火をつけるとなんだか不味い。3年も放置していたため劣化している。ワインのようにうまくはならないらしい。
夜になると男の父親が仕事から帰って来ていた。食事時だというのに依然重苦しい雰囲気のままだ、依然は二人であっても楽しく会話しながら食べていたというのに二人とも目からは生気が感じられなかった。
「俺の…せいだよなぁ…忘れろっていうのが無理だもんなぁ…」
夜も深くなって両親が寝始めると男は行動にでる。夢の中に入り込むのだ。半信半疑で念じると何もない真っ白な空間が広がりその場に両親と男が一人立っていた。母親は男の姿を見るとその場で泣き崩れた。
「時間がないんで道中は省くが俺は元気にしている…であってんのかなぁ?」
とひょうきんな態度で話す。父親も泣かぬまいと耐えていたが息子の声を聞いた瞬間涙がこぼれ落ちていた。泣いている両親を慰め励ます。自分を育ててくれた事など一通りの感謝を述べる。
「とまぁ、こんな感じだが俺の事に対してはどこかで割り切ってほしい。俺だけにかまけてないで弟の面倒もしっかり見てやってほしいってのが俺の今の心境だ…。最後に、ごめん…」
父親にあの世でもちゃんと飯を食っているのかと心配されたりはしたが、そもそも死んでいるので飯を食べる必要がないということを伝えた。この言葉がツボに入ったようで父親は昔のように大笑いして、母親にせっかく夢に出てきてもらっているのにと言われ怒られしまう。
母親に机の上の煙草を勝手に持ち出した事を告げると、死んでまで煙草を吸うなと注意を受けた、生前自分が生きていた時のように…
最後に男は告げる。
「親不孝ものですまない…」
家族の楽しいだんらんは終わり両親はやがて目覚める。しかし朝食を迎える時には昔のように目に活気が帯びていた。このままでは国を守って死んだ息子に合す顔がないと。
男は両親の会話を聞くと一人外で泣いた。しかしずっと泣いてはいられないまだ自分の死でくすぶっている人間はいるのだから。