表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

そして…

 男が好きだという趣旨を綴った文を送ってから早や2年程がたった。それまでくだらない事をお互いに言い合っていたがそれ以来音沙汰なしであった。

 男は今日も携帯の履歴を見るが返信は無い。風の噂ではその後都会のどこかで就職したとの事だけであった。

 

 それから半年後、国際情勢が悪化し自国の同盟先の国が戦争を起こし男の住む国にも危険が及んだ。何でも自国の軍の三分の一の人数を同盟国へと派遣するとの表明があるらしい。

 男は迷わず志願した。例え自分が死のうとも侵略者たちに愛する者、愛した者を奪われたくないという意志の元からである。


***


「家族の反対を押し切って軍に入ったのは後悔してないさ…、友達もそれなりに出来たしな…」


 ボロボロとなった服を見回し男は一人つぶやく。

 その場で男に言葉を返す者はいない。


***


 男が出立する前日に友達や家族に対して連絡を取っていた。もしかしたらこれが最後になるかもしれないから。

 そして最後に好きだった人に対してもう一度最後の文を送った。

 内容は三ヶ月後に地元で会えるかどうかと自身についての事、戦地に行くことについては伏せた。

 かくして男が所属する部隊は戦地へと向かう。


 二ヶ月後、男が配属された部隊は一番死傷率が高い部隊だった。今日も日中の真っ最中に辺りに銃声が響き渡る。

 土嚢裏で男は同じく生き残っていた同期の一人に話しかける。


「今日は辛いな…、お互い今日まで良く生き残れた。帰ったら酒でも一緒にどうだ?」


 男の問いに対し友人は首を横に振る。


「遠慮しとく。お前さ帰ったらその人に会いに行けよ。その後ならいくらでも付き合うよ。」


 と軽い冗談を交わしながらこの状況の中乾いた笑いが零れる。


「それもそうだな。その為にはこんな所じゃ死んでられないな…」


 男がそう喋った瞬間だった。盾にしている土嚢が爆発し、両者とも土嚢事体が数メートル地を飛び吹っ飛ぶ。

 男が自分の左腕に激しい痛みを感じ、目をやると肩から血が滝の様に流れ、あるべき物がそこについていない。無事だった仲間に声を掛けられその場で考えられつく処置を受けた。

 男の目には自分の介抱に必死になっている友人の後ろで、こちらに銃を向けて走ってくる敵の姿が見えた。無事な方の腕で銃を掴み自力で立ち上がり友人を払いのけ反動を物ともせず引き金を引いた。銃弾を受けた敵兵はその場でグニャリと音を立てず崩れ去る。


「すまない…、助かった。でもお前。」


 必死になって痛みに耐え、息を切らしながら男が答える。


「まだ…大丈夫だ…死んじゃいない。早く衛生兵の元へ…」


 友人に片方の肩を担がれゆっくりとその場を後にしようと走り出す。

 先程撃たれた敵兵は死力を尽くしたのだろう、自分を撃った男にめがけて

容赦なく引き金を引く。その場で敵は事切れたが…


 懸命に自分の名を呼ぶ声が聞こえ男は友人の顔を見る。


「よし目を閉じるなよ…!そうだゆっくり呼吸しろ、必ず俺がお前を連れて帰ってやるからな。だから絶対に目を閉じるなよ!!」


 別の土嚢裏でよりかかる様に自分は寝かせられていた。背中に弾丸を受け自身の体を見て恐らくは助からないだろうと思った。何より血を流しすぎている。痛みは嘘のようになくなっていた。それどころか物凄く眠い。だが気力を振り絞り―――


「良いんだ…、もう…、何となく分かるんだ俺はもう恐らく助からない…」


 弱々しい声にならない声で答える。


「お前らしくもない!帰って片思いの子に会いに行くんだろ⁉」


 友人の言葉に無理に笑顔を作り、言葉を返す。


「悪ぃ…、もう声もあんまし聞こえないんだ…、だから…、みんなに…、すまないと伝えてくれないか…?両親にはありがとうと…弟にはがんばれと…最後に…」


 言葉の途中で男は眠る様に息を引き取った。友人の叫びが子守歌のように聞こえてきたそんな気がした。

 あぁ短い人生だったが悪くはなかったかなと薄らと走馬灯が浮かぶ。


***


「で…、俺は死んだんだよな…。だからこんな格好をしている。アイツ生き残ったかな…?」


 暗い闇の中成長した自分を見て一人自問自答を繰り返す。ここは一体どこなのか?自分は今何をしているのか?段々とスポットライトのような光が消え男の目の前が真っ白になる。そして男の耳元で頭に響く無機質な機械的な声がした。


≪死亡者№3986751 これより裁定を開始します≫

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ