プロローグ
女は後悔していた。返事を送れなかった事を。仮に今返したとしてももう返事は絶対に返ってくる事はない。その者はもうこの世にはいないからだ。
一人暮らししている女の家のインターホンが静かに鳴り響く、玄関では大柄な男が立っていた。女は静かに家に招き入れどこか上の空で来客の男にそっとコーヒーを差し出す。コーヒーを差し出された男は女を気遣う様に話す。
「兄さんの事はもう忘れろって、仕方なかったんだ…。だからさ…その人と一緒になりなよ。死ぬまで引きずる気か?」
男の問いに少し間をあけてから女が戸惑い気味に返す。
「でも…、それは…、あの人を裏切ったような気がして…。」
女の言葉に男は少し感情的になって言葉を返す。自身にも言い聞かせるような感じに…
「勘違いするなッ!兄さんはアンタにそんな思いをして欲しくて戦場で散った訳じゃないんだッ!俺やアンタの幸せのために戦ったんだ!いい加減前を向いて歩け!こんなの兄さんは望んじゃいないッ!!」
しばらくの沈黙が生じた後、そうねと一言返し再び黙り込む。
この一連のやり取りを側で見ている者が二人いた。しかし何故か二人には気づかなかった。というよりもまるでその場に元から二人しかいないかのように…