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第8話

 お父さんはアゴに手を当てて考え込むような感じで答えた。


 「はい、この住民票だけではなく優の中学生の時の学生証も確認してみたのですが、性別は全て女性になっていました」


 そう言ってお父さんは僕の中学校の学生証も封筒から取り出す。

 手にとってその学生証を見てみると、性別欄が女性になっていた。


 「つまり、優に関する個人情報の性別が全て、女性に書き換えられているようです」


 僕の体だけじゃなくて、僕に関する情報は全て女の子に変わってしまっているということか。

 あらためて美晴さんが天使だということを思い知らされる。こんなの神様でもない限り無理だよね。


 「それから、優のことを知る私の友人たちにも電話で聞いてみたのですが、皆さん優は昔から女の子だったと答えました。…もうボケが始まったの?とまで言われましたよ。ですが、これで優が男の子だったことを知っているのが私たち家族と優の友人たちだけというのも本当のようですね」


 お父さんの友人というと、あの人たちか…確かに嘘を言うような人たちじゃないし、本当なのかもしれない。

 ということは、僕の三人の友達以外はみんな僕を元から女の子として見ているということか、

 中学の時のクラスメイトとか街でバッタリ会う事もあるかもしれないから気をつけないと。


 「それで優、ここからが本題なのですが…」


 お父さんはテーブルの前に手を組んで、話を続ける。


 「優は明日から学校でしたね」

 「うん、高校の入学式だよ」


 そう、いろいろあって忘れそうだったけど、明日は僕の高校の入学式だ。

 …そういえば、僕は男子と女子、どっちの枠で高校に通うんだろう。情報が書き換えられているとすると、女子?明日から女子高生になるってことなのかな?

 そんなことを考えていた僕にお父さんは驚愕の一言を投げかけた。


 「入学式には出ないで良いです。優、明日から1ヵ月間、学校はお休みしなさい」


 「ええっ!」


 僕は飛び上がって驚いた。

 入学式に出なくて良いって…それに1ヵ月学校をお休み?僕、高校生活を結構楽しみにしてたんだけど…。

 それにそんなに休んだら、僕、クラスで孤立しちゃうんじゃ…。いじめとかあったらいやだなあ。

 お父さんの言っていることがなんだかよくわからなくて混乱している僕に代わって、お姉ちゃんが質問してくれた。


 「お父さん、理由を聞いても良い?」

 「ええ、まず入学式を欠席する理由ですが、ぶっちゃけますと、明日入学式に出席するための優の制服がありません。男子の制服はあるのですが、服までは変わっていなかったみたいですね」


 服までは変わらなかったのか…。そういえば、クローゼットの中にあった服は全部男の時のものだった。何か中途半端な対処だな、美晴さん。


 「それから、1ヵ月学校をお休みする理由ですが、優は今日の朝、女の子になったばかりです。男の時とは普段の生活も立ち居振る舞いも違うでしょう。優、正直言って、あなたは明日から女の子として学校に通えますか?」


 「ちょっと…いや、かなり難しいと思う…」


 僕はうつむきながらも正直に答えた。

 確かに、お父さんの言うとおり、明日から学校に通い始めるのは無理がありそうだ。

 明日から女子の制服を着て通うとかハードルが高すぎる。いきなりスカートなんて履けないよ。


 「そうでしょう。ですから、この1ヵ月の間に女の子として生活できるように訓練しましょう。素敵な淑女になれるよう、私が鍛えてあげます」


 うぐっ!すてきなしゅくじょになるためのくんれん…。

 中学生になったばかりのお姉ちゃんが受けてたのを昔見たことがあるけど、あれを僕もやるのか…。

 お姉ちゃんの様子を見ると、あの時の訓練を思い出したのか、顔が青ざめて体がガクガク震えてる。


 でも、これから女の子として生きていくと決めたんだ。頑張ってやらなくちゃ…

 体は女の子でも心は男の子、僕は決意を固めるとお父さんに言った。


 「うん、頑張るよ!お父さんよろしく」


 満足そうに頷くお父さん。…あれ、男らしく困難に立ち向かった結果、素敵な淑女になるというのは正直どうなんだろ?


 「お父さん、優の女の子としての教育はともかく、優の服はどうするの?下着とかも必要になるでしょう?」


 お姉ちゃんが指先をあごに当てて、小首をかしげる。


 服かー。女の子の服って正直何をどう選べばいいのかさっぱりわからないんだけど。それに下着ってブラジャーとかショーツとかか…さらによくわからない。


 「すみませんが、怜香が選んであげてくれませんか?あやめさんもいませんし、男の私ではその辺りはわからないですから」

 「そっか、お母さんもいないし、私しかいないか…。わかったわ」


 お姉ちゃんはお父さんに頷き返した後、僕に振り返った。


 「優、後でサイズを測らせなさい。とりあえず間に合わせられるものは、今日私が買ってくるから」

 「う、うん…。いいけど、セクハラはやめてよね」


 僕は胸を揉まれたことを思い出して、お姉ちゃんから体を引いた。


 「そんなことしないわよー」


 顔をにんまりとさせながらお姉ちゃんが手をわきわきさせる。

 何て説得力の無い光景だ。


 「服は試着してみないとわからないこともあるから、今度の土日にでも一緒に服を買いに行きましょう。…そういえばお父さん、優の服ってほとんど新しく買うことになるけど、お金って大丈夫なの?」


 お姉ちゃんが心配そうにお父さんに聞いた。そうか、女子の制服も買い直さないといけないし、いろいろと物入りになっちゃうんだ。

 うーん、こんなところでも迷惑かけちゃうのか…。


 「お金の方は心配ありませんよ。ちょっと臨時収入がありましてね」


 お父さんはテーブルの上に新聞を広げると、隅のコーナーを指さしてから紙切れを置いた。


 「この紙切れって…宝くじ?…まさか!」


 お姉ちゃんが驚きの声を上げる。


 「そのまさかです。百万円当たっていました。一応物入りになると思って、天使の方には話を通していたのですが、こういう形で入ってくるものなのですね」


 ひゃくまんえん?す、凄い!僕、宝くじでこんな大金が当たるところ初めて見た。

 それだけあれば、資金としては確かに十分だ。


 「はー。あのおじさん、天使って言うのだけのことはあるわねー」


 宝くじを見ながらお姉ちゃんはうむうむと感心していた。

 お父さんは宝くじをポケットにしまうと、僕たちに向かって話しかける。


 「優、学校には私の方から連絡しておきます。病気のため1ヵ月ほど家で療養することにしますから。怜香、学校で先生に優のことを聞かれたら、その時はよろしくお願いします」

 「わかった、お父さん」

 「わかったわ、うまくやっておくわよ、お父さん」


 お父さんの言葉にお姉ちゃんと僕はそれぞれ頷く。


 「それでは優、お昼ゴハンを食べたら、早速始めましょうか。ふふ、腕が鳴りますね。どこに出しても恥ずかしくない素敵なレディにしてあげますよ」


 …お父さんがやけに乗り気で怖い。僕は普通の女の子になれればそれでいいんだけど。



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