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第5話

 目を開けると、そこはいつもの見慣れた自分の部屋だった。

 枕元の目覚し時計を見ると、針はもう10時を回っている。


 だいぶ寝過ごしちゃったな…。

 ベットから起き上がると、右手に何か持っているのに気付いた。

 名刺…?

 それは夢の中でもらった天使の美晴さんの名刺だった。


 「やっぱり、夢じゃなかったと言うことか…」


 僕はベットから起き上がると、名刺を自分の机の上に置いた。

 それから、憂鬱な気分を振り払うようにぐっと背伸びをする。


 気持ちを切り替えるために顔を軽く叩く。

 まずは自分の体がどうなってしまったのかを確かめよう。

 とにもかくにも現状を分析しなくては。


 パジャマの上下を脱ぎ、Tシャツとボクサーパンツだけの姿になる。

 うーむ、これって何か彼氏の部屋に泊まって着る物がなくて、彼氏の服を借りた女の子みたいな感じがするな。


 バカなことを考えつつもクローゼットを開け、扉内側の姿見鏡に自分の全身を映す。そこには女の子となった自分の姿が映し出されていた。

 視線がやや下がった感じがするから、身長は縮んでしまったらしい。

 つややかな黒い髪の毛は男の時より少し伸びてボブっぽい感じになっている。可愛らしい顔立ちと相まって、より幼い印象を与えていた。ひょっとして、高校生には見えないんじゃないだろうか。

 Tシャツを見ると、胸の部分がはちきれそうなほどに膨らんでいる。正確にサイズを測っていないのでわからないが、DかEカップはあるんじゃないかな。

 美晴さんの趣味が入っているみたいだけど、僕は別に大きさとかは関係なくて、自分が好きになった女性のサイズが一番の好みになると思ってるんですけどね。でも、まあ、大きいのも嫌いではないです。大は小をかねると言いますし。

 腰のあたりに手を置いてみるとウエストが綺麗にくびれていた。本当に男の時とは体つきが変わってしまっているんだと思う。

 体を捻って後ろ側が見えるようにしてみると、キュッと上がった丸いお尻が見えた。これは結構良いプロポーションと言えるのかな?ちょっと胸が大きすぎな気もするけど。


 そんなことをやっていると、僕の部屋のドアをノックする音が聞こえた。


 「優、起きてる?聞きたいことがあるんだけど、入ってもいいかな?」


 お姉ちゃんの声だ。いつまでも起きてこなかったから、呼びに来たのかな?


 「うん、起きてるよー。ちょ、ちょっと待ってて!」


 僕は慌ててパジャマのズボンを履き、上着を着込んだ。高速でプチプチとボタンを止めていく。

 ただでさえ、女の子の姿に変わっているんだ。下着姿でいたらさらにビックリさせてしまうだろう。


 「だ、大丈夫ー。もう入っていいよ」

 そう答えてから、うっかりしていた自分に気付く。

 女の子の姿に変わってしまった僕を見て、お姉ちゃんはどう思うんだろうか。気味悪がったりしないだろうか。

 確か美晴さんは僕が女の子に変わってしまったことを家族には伝えると言っていたけど…。


 「それじゃ、入るわねー」


 ドアを開けてお姉ちゃんが入ってきた。


 僕のお姉ちゃんの名前は、東雲怜香しののめ・れいか

 僕とは2つほど歳が離れている。

 腰まで伸びた長い黒髪、切れ長の瞳と整った顔立ち。170cmという女性にしては高めの身長とスレンダーな体つきは、モデルをしていてもおかしくないプロポーションだと言える。

 容姿端麗に加えて、成績も優秀でテストは常に上位をキープ、運動神経も抜群で非の打ち所が無い。

 しかも、この春から僕が通う高校の生徒会長も務めている。僕にとっては自慢のお姉ちゃんだ。


 そのお姉ちゃんは僕を見ると、ピシリと固まっていた。

 うう、やっぱり気味悪がっているのかな?お姉ちゃんに嫌われるのはわかっていてもなんか嫌だな…。

 ヤバい、なんか悲しくなって涙が出そうになってきた。


 お姉ちゃんの方を見てみると、体がふるふると震えだしてきていた。

 あれ、何かお姉ちゃんの様子が変わってきたぞ?

 目がなんかキラキラと輝いてきて、顔がぱーっと明るくなってくる。

 …今度は別の意味でヤバい。これはお姉ちゃんが新しいオモチャを見つけた時の顔だ。


 「ゆ、優ちゃーん!」

 「うわっ!」


 突然、お姉ちゃんが僕に飛びついてきた。

 僕の頭をなでながら、顔にほおずりしてくる。


 「か、可愛いー。何この可愛い生き物は!天使から聞いた時はなに変な冗談言っているのこのおっさんとは思ったけど、優ちゃんがこんなに可愛くなっちゃうなんて!おっさんグッジョブ!可愛いは正義よ!」


 どうしよう、お姉ちゃんが壊れた。言っていることがよくわからない。


 「しかもなに、このけしからんおっぱいは。むむ、私よりもおっきいじゃない。まったく誰に断っておっきくしているのかしら」


 お姉ちゃんが僕の胸を揉みしだいてくる。

 ちょっ…やめっ…び、敏感になっているんだから、も、揉まれるとなんか変な感じに…。


 「…あぅ…くぅ…。お、おねえちゃん…おっぱい揉むのやめ…」


 僕の言葉にハッとなって、お姉ちゃんはおっぱいを揉むのをやめてくれた。少し僕から離れる。

 僕はへたりと座り込んでしまっていた。胸をかばうようにして、涙をにじませながら、少しにらむような感じでお姉ちゃんを見上げる。


 「ひどいよ、お姉ちゃん…。」


 僕の様子を無言で見ていたお姉ちゃんは携帯を取り出すと僕の姿をパシャリと写真に収めた。


 「ちょっ、何写真撮っているのお姉ちゃん!」

 「可愛かったから」


 いや、当然でしょ?という顔で言われても僕はどう反応したらいいんだ。

 お姉ちゃんは携帯を素早く操作して画面を見て満足した後、携帯を閉まった。

 まさかとは思うが、待ち受けにしたんじゃないだろうな…。


 「ごめんごめん、優のあまりの可愛さに我を忘れてしまったわ。…本当にごめんね」


 どうやらまともなお姉ちゃんに戻ってくれたようだ。

 ただ、怖いけどこれは一応聞いておかなくちゃ。僕はお姉ちゃんに問い掛けてみた。


 「その、お姉ちゃんは気味悪く思わないの?僕、女の子になっちゃったんだよ」


 お姉ちゃんはにこりと笑って僕に近寄ると、右手で僕の頭をなでてくれた。


 「何言ってるの?私が可愛い弟を気味悪く思うことなんてないわよ。たとえどんな姿になってもね」


 ああ、やっぱり僕はお姉ちゃんが大好きだ。お姉ちゃんはいつだって僕に優しくしてくれる。

 女の子になっていろいろ大変かもしれないけど、お姉ちゃんがいれば乗り越えられそうな気がしてきた。わからないことはお姉ちゃんに聞こう。


 「優、あなた朝ご飯まだでしょう?お父さんが用意してくれたから、まずは食べちゃいなさい」


 そういえば、朝食がまだだった。腹が減っては戦はできぬとも言うし、まずはお腹を膨らませることを考えるか。


 「わかった。着替えてから行くよ」

 「パジャマのままでいいわよ。今は男物の服しかないでしょう。でも、そのままだと風邪引いちゃうわね」


 お姉ちゃんは一度自分の部屋に戻ると、薄手のカーディガンを持ってきて、僕にかけてくれた。


 「とりあえずそれを着ていなさい。女の子の服は今日にでも私が見立ててあげるから安心しなさい。手取り足取り胸取り教えてあげるわ」


 な、なんだろう、お姉ちゃんの嬉々とした表情にちょっとだけ悪寒がした。


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