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第3話

 スーツの男性…美晴さんは僕の質問を聞いて驚いているようだった。


 「えー、ひょっとして…先ほどまでのことを覚えてらっしゃらないのですか?」


 コクンと僕はうなずく。


 美晴さんはハンカチを取り出し、額の汗をぬぐった。

 動揺しているようだ。それは僕も同じだけど…。


 「わかりました。仕方ありませんね、もう一度ご説明しましょう」

 「お手数をおかけしてすみません」

 「いえいえ、では今度は忘れないようにしてくださいね」


 何しろこれからの人生にかかわってくる事だ。

 僕は一つたりとも聞きもらさないように真剣な眼差しを美晴さんに向ける。


 「それでは、ここはどこ?に対する答えですが…、ここは天界になります。天国とも言われておりますな。…ああ、貴方が亡くなったわけではありません。私どもの都合で一時的に魂だけこちらに来ていただいています」


 驚いた僕の顔を見て説明を加えてくれたらしい。

 天界って言われてもピンと来ないけど、自分の体のことを考えると納得せざるをえないところか…。


 「次にあなたは誰?に対する答えですが…、私は天使の美晴と申します。天界の中で人の生死を司る部署、その中でも出生に関することを管理しております」


 …天使?

 天使ってもう少し若い感じで頭に天使の輪っかがあって、羽があるのをイメージしていたけど、どこをどうみても普通のおじさんにしか見えないな。


 「最後にどうして貴方が女の子になっているのか?と言いますと…」


 本題に入ったようだ。

 僕が一番に聞きたいのはそれだ。

 何で女の子になっちゃっているのか…。天使の気まぐれとか言う事はないだろうけど。


 「私どもの不手際が原因なのです。貴方は今男性として生きておられますが、本来は女性として生まれてくるはずだったのですよ」


 「な、なんだってー!」


 僕は本当は女の子として生まれるはずだっただって?

 不手際…ということは手違いが何かか?

 それにしたって単純なミスじゃ許されないことだろ…。


 「説明させていただきますと、私どもの課では、誰がいつどこでどのように生まれるかを決めております。人は環境によってその後の人生を大きく左右されてしまいますからね。慎重に作業を行っているのですが、ごく稀にミスが発生してしまうことがあります」


 ミスが発生しちゃうんだ…。

 天使ってミスしないと思ってたけど、そこは人間と同じなのか。


 「別の家族と取り違えてしまったり、生まれる時代を間違えたり、そして貴方のように性別が違ったりですね。それらのミスにあった貴方達被害者を救済するために、私たちは5年に一度、出生履歴のチェックを行っています。俗に言う、棚卸しですね」


 棚卸し…僕たちは商品とか荷物と同じ扱いなの?


 「そこでミスが発覚した人に対して、天界までお呼び立てし、フォローをしているわけです」


 「フォローとはどういったことをしているんですか?」


 美晴さんは眼鏡をクイッとあげ、答える。


 「はい。まずは今までの生活を続けるか、本来あるべき姿に戻るかを選んでいただきます。5年に一度チェックしているとはいえ、そこで全ての被害者をチェックできるとは限りません。気付かずに十年、数十年と過ぎている方もいらっしゃいますから」


 そうか、確かに数十年生きて結婚して子供もいる状態だと、戻っても仕方ないしな。


 「今後のことを決めていただいた後、それに沿った補償をさせていただいております。変更なしの場合は、今後の人生を無病息災で過ごせるよう補償を。変更ありの場合は、無病息災に加え各種サポートなどを行っております」


 「各種サポートというのはなんですか?」


 「本来生まれるべき姿に戻ると言うのは、今までの人生を一度リセットするのと同じことになります。その後の人生を幸せに過ごせるように、その方にボーナスというか能力を付与させていただいております。例えば、容姿的にはイケメンとか美女、金銭的に困らないようにするとか、オリンピック選手並みの身体能力を持つとか、頭脳明晰にするとかですね」


 なんか美味しすぎるような気もするけど、今まで築きあげた人生と引き換えだと思うと難しいところだな。

 ところで…。


 「僕が美晴さん達のミスで男の子として生まれたのはわかりました。でも、何で僕はもう女の子になっちゃってるんですか?美晴さんの話では、男の子のままでいるか、女の子になるかを選べるんですよね?…僕は出来れば男の子のままがいいんですけど…」


 美晴さんが僕の言葉を聞いてさらに驚いていた。


 「えっ…。選ぶも何も貴方はもう既に選んでいるんですよ」


 何を今さらというような顔で美晴さんは言葉を続ける。


 「僕は女の子になります。女の子になりたい。女の子になるべきです…と言っていましたよ、貴方は」


 「へっ…」


 なんだそりゃ?僕はそんな事を言った覚えはないぞ。

 僕が呆けていると、美晴さんは机の上で手を掲げて指先を動かした。

 すると、僕の目の前に1メートル四方の半透明な四角が現れる。

 そこに映像が映し出された。

 ディスプレイなのか?これ…。

 その映像を良く見ると、この部屋を斜め上から見るような感じで、僕と美晴さんが映っている。


 そこでは僕が腕を振って熱弁していた。


 「僕は女の子になります!女の子になりたいんです!女の子になるべきなんです!」

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