第2話
「…さん、東雲さん、東雲優さん」
なんだろう、せっかくいい気持ちで眠っていたのに…。
僕は呼び掛ける声に応えるべく、しぶしぶ目をあけた。
光が差し込んでまぶしい。
ゆっくり目を開けると、そこはさっきまで寝ていたはずの自分の部屋ではなく、真っ白い部屋の中だった。
しかもベットに横たわっていたはずなのに、今はパイプ椅子に腰かけている。
目の前を見ると、よくオフィスにあるような事務机があった。
その机にはスーツを着た男性が座っている。
年齢は40から50ぐらいだろうか?眼鏡をかけ、少しふっくらとした体つきをしている。
机の上を見ると、右端に課長と書かれた三角席札があった。
課長さんなんだろうか?
その男性は温和そうな笑みを向け、こちらに話しかけてきた。
「ああ、良かった、気付かれましたか。話の途中で目を覚まされてしまったので、困っていたのですよ」
男性は手に持っていたファイルを開き、その中にファイリングされていた書類をこちらに見せた。
「ご安心ください。手続きの方は全て完了しています。念のため同意書の方をご確認いただけますか?」
僕はその書類を手にとって内容を確認してみた。
えーと、なになに…。
同意書。
天界生死部出生課課長美晴殿。
私は下記の内容に同意します。
女性への転生。
西暦XX年XX月XX日。
東雲優。
「な、な、なんじゃこりゃー!」
僕はその内容に驚き、声を上げてしまった。
同意書と呼ぶにはお粗末すぎる内容もそうだけど、女性への転生ってなんだ?
女性といえば、今の自分の体は女の子のままになっている。
うう、せめて夢の中だけでも男の子の体に戻ってほしかった…。
「ど、どうしたんですか?急に大きな声を出して。何か書類に不備でもありましたか?」
男性が慌てた感じでこちらの様子をうかがっている。
女の子のままの自分、書類にある女性への転生という言葉…。
ひょっとして、自分が女の子になってしまった原因はこの人にあるのだろうか?
「あ、あの、すみません。この書類に女性への転生とあるんですが、これはどういうことですか?」
「は?あの、先ほどご説明したとおり、貴方を女性へと転生するということですよ。その書類はそれに関する同意書になりまして」
男性がぽかんとした顔で答える。
「今の貴方の姿を見てもらえればおわかりだと思いますが、女性への転生も完了しています。手続きはすべて終わっていますので、安心して第二の人生をお過ごしください」
そう言って、男性は僕の手から書類を取りファイルに入れなおすと、スーツのポケットから名刺を取り出した。
「何かありましたらこちらにご連絡くださいね」
僕は男性から名刺を受け取った。名刺には「天界生死部出生課課長 美晴」と書かれている。
スーツの男性は、机の上で腕を組むと、
「最後にご質問などはありますか?」
と僕に聞いてきた。
僕はおずおずと右手をあげ、男性に答える。
「…あの、ここはどこですか?…あなたは誰ですか?…僕はなんで女の子になってるんですか?」