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第19話

 「さーて、今日は何にしようかしらね」

 「私はパスタにしようかなー」


 食券の券売機の前でお姉ちゃんとアカハ先輩がメニューを選んでいた。

 食堂に来る前の間ずっと手をつないでいたから、みんなジロジロとこっちの方を見ていた。全く恥ずかしい。


 この学院の食堂は500人ほどを収容できる広々としたフロアで、長テーブルと椅子が規則正しく配置されている。食堂の外にも丸テーブルとイスがあって、晴れた日などはそこで食事を取ることもできそうだ。

 食堂のメニューは豊富で、日替わりのランチに和食、洋食、中華などの定食。パスタにうどんやそば、ラーメンなどの麺類。カレーやチャーハン、オムライスにかつ丼・天丼などの丼もの。ケーキやアイスなどのデザートもあったりする。しかもそれらが学生のための食堂のためか、値段が格安だ。


 お姉ちゃんは日替わりランチ、アカハ先輩はカルボナーラに決めたみたいだ。先輩の呼び名は食堂に来る途中でアカハと呼ぶようにと直されてしまった。

 カナたちはもう食券を買ってカウンターの方に向かっている。僕も早くメニューを決めないと。

 どうしようかなとメニューの並ぶボタンを見る。日替わりランチの煮込みハンバーグ定食も美味しそうだけど…むっ、なんだこの「ふわふわとろとろオムライス」というやつは。普通のオムライスより100円も高いけど、凄い心が引かれる。よし、これにしよう。

 500円玉を入れて、「ふわふわとろとろオムライス」のボタンを押す。食券が出てきたので、それを受け取るとカウンターへと向かった。

 ここの食堂の仕組みはメニューによって注文を受け付ける場所が違っていて、ランチならランチ、麺類なら麺類のカウンターにいるおばちゃんに食券を渡して注文する感じだ。メニューによって料理が出てくる時間が違うので、日替わりランチや麺類などは料理が出てくるのが早く、僕が注文したオムライスのような特別メニューだと出来るのに少し時間がかかるようだ。


 まあでも大好きなオムライスですよ。しかもふわふわとろとろなオムライスですよ。いかん、待っている間でも顔がにやけてくる。


 「はい。お待ちどおさま」

 「ありがとうございます」


 おばちゃんがオムライスとサラダを持ってきてくれたので、トレイにそれらを乗せる。おお、デミグラスソースがかかっているのか。見た目がもうふわふわしている感じがする。

 トレイを持ってお姉ちゃんやカナたちのいるテーブルを探そうとキョロキョロと食堂内を見回す。うーん、見当たらないな…。


 「あのー」

 「はい?」


 トレイを持ったままうろうろとお姉ちゃんたちを探していたら声をかけられた。振り向くと見知らぬ男子生徒が立っている。ネクタイの色は1年生か。クラスの中にはいなかったと思うから別のクラスかな?


 「東雲さんですよね、今日から登校している。俺は1年A組の者なんですが、良かったら俺たちとお昼食べませんか?見たところ一人のようですし、ちょっと話してみたくて」

 「え、えっとあの…」

 「あ、そのトレイ持ちますよ。さ、どうぞどうぞ」


 その男子生徒が僕が答える前にトレイを持とうとする。なんて強引なんだ。まずは僕が話すのを聞いてほしい。お姉ちゃんたちと一緒に食べるのに…。


 「ちょっと待って下さい。僕はお姉ちゃんたちと一緒に…」

 「遠慮しなくても大丈夫ですよ」


 こいつ聞いちゃいねえ。トレイをつかみつつ、僕のおっぱいを見ているし。やっぱり下心見え見えの視線は気持ち悪いな。ここはローキックで態勢を崩しつつハイキックで吹っ飛ばしてみるか?


 「そこの貴方、何をしているのかしら」


 凛とした声に僕と男子生徒の動きが止まる。この声には聞きおぼえがある。顔を声の方に向けると、そこには腕を組んで赤いフレームの眼鏡をくいっと直している榊原先輩の姿があった。絶対零度の眼差しとでもいうのだろうか、鋭い眼光で男子生徒を睨みつけている。


 「ふ、副会長…」

 「榊原先輩、こんにちわ」

 「はい、こんにちわ。それで、そこの貴方、東雲さんに何をしていたのかしら?」


 榊原先輩は僕には笑顔を向けたが、男子生徒には変わらず険しい表情を向けている。


 「あ、あの、し、東雲さんと一緒にお昼を食べようと誘っていたところで…」

 「そう、それは悪かったわ。東雲さんは私たちとお昼を食べることになっているの。今日は遠慮していただけないかしら」

 「はっ、はい!す、すみませんでしたー!」


 男子生徒が勢いよくその場を離れていく。おっ、おっかねー。榊原先輩は怒らせないようにしよう。


 「東雲さん、大丈夫だった?」

 「はっ、はい。榊原先輩、ありがとうございます。でもどうしてここに?」

 「貴方が来るのが遅いから探しに来たのよ。私も今日は会長たちと一緒にお昼を食べることになっていたから。雪見と一緒に席を取っておいたの」

 「そうだったんですか」


 会長と副会長と書記って生徒会役員が勢ぞろいだな。カナたちは大丈夫だろうか、精神的に。


 「それにしても、ああいうのはきちんと断らないとダメよ」

 「はい。これから気をつけます…」

 「早く行かないとご飯が冷めちゃうわね。会長たちが待っていますし、行きましょう」


 榊原先輩の後をついていくと、お姉ちゃんとカナたちは食堂の奥の窓際のテーブルにいた。すでに食べ始めているようだ。長テーブルの窓際の席から向かい合う形で、榊原先輩と見たことの無い女子生徒、お姉ちゃんとアカハ先輩、一つ席を空けてカナとちえりさん、一番外側にノブヒコと哲宏君がいる。あの空いた席に座れということかな。


 「遅かったわね、優。オムライスなんか頼むからよ。ヤッピーに探しに行かせてよかったわ。それで何してたの?」

 「同じ学年の男子生徒にナンパされてました」


 お姉ちゃんの言葉に榊原先輩が答える。ナンパって…まあそう言われてみればそうなのかな?


 「なっ…なんですって!やよい、その男子生徒の名前と学生番号は?うちの優に手を出そうとするなんて、泣いたり笑ったりできないようにしてやるわ!」


 お姉ちゃんがテーブルを叩いて立ち上がる。


 「ふむ、校則に新しいルールが必要かね。東雲優に手を出した男子生徒は市中引き回しの上打ち首獄門とか?」


 アカハ先輩がフォークにパスタをくるくると巻きつけながらお姉ちゃんにそんなことを答える。時代劇じゃないんだから…。


 「それいい案ね。次回の生徒総会で提案にあげましょう。やよい、早速提案書の作成を。優に手を出す男子生徒は全て敵よ」


 お姉ちゃんの暴走が止まらない。そんな提案が通ったら僕に話しかける男子生徒がいなくなっちゃうじゃないか。


 「はあ、会長も書記もあまりバカげたことを言わないでください。冗談にしては性質が悪いですよ」

 「やよい、私はいつでも本気よ」


 ドヤ顔で腕を組み、ポーズを決めるお姉ちゃんの姿に榊原先輩はがっくりと肩を落とした。うう、こんな姉ですみません。榊原先輩の苦労がわかる気がする。アカハ先輩はお姉ちゃんを止めるよりさらに暴走を加速させるような感じだしな。


 「まあ…今回の件は大丈夫でしょう。私も睨みを効かせましたから、もし次があったら今度は容赦しません」

 「そう、やよいがそういうなら今回はやめにしましょう。優も気をつけるのよ」

 「わ、わかった」


 結構容赦してなかった気がするけど、あれよりもさらに上があるのか。榊原先輩は本当に怒らせないようにしよう。


 「優、突っ立ってないで座りなさい。早く食べないとご飯冷めちゃうわよ」


 おっとそうだった。せっかくのオムライスだ。あったかいうちに食べちゃわないと。

 僕はお姉ちゃんの隣に座ると、スプーンを持ちオムライスにスプーンを差し入れた。



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