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第18話

 4限目の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。


 「おっ、もうお昼か。委員長、号令」

 「起立、礼」


 小早川さんの声でクラスメイトが一斉に立ち上がり、先生に礼を済ませる。

 4限目が終われば昼休みの時間だ。

 この学校の時間割は50分授業の10分休憩。午前中は1限目から4限目まであり、4限目が終わると50分の昼休みになる。昼休みが終わった後、5限目と6限目の授業があって、SHRを行い放課後になるという感じだ。

 僕は今日初めて授業を受けたわけだけど、お父さんやお姉ちゃんに勉強を見てもらっていたこともあって、授業でわからないところはなかった。それよりも自分で勉強していたところが授業よりもはるかに進んでいて、どうやら1学期中の範囲を終わらせてしまっていたらしい。正直やりすぎてしまった気がする。

 まあ、復習の意味もこめて授業をしっかり聞いていけばよいか。先生によってテストの出し方も違うだろうし。


 「優ー。お昼行くわよー」


 カナとノブヒコが僕の席に近寄ってきた。

 今日は食堂で一緒に食べることになっていたので、お弁当などは用意していない。

 カナに聞いた話によると、お昼の食べ方は生徒によってまちまちで、お弁当を持ってきたり購買でパンを買うなどして教室や中庭や屋上で食べたり、食堂を利用したりするらしい。

 中学の時は給食だけだったから、学校の食堂で食べるのは初めてでかなり楽しみにしている。


 「うん、わかった」


 教科書とノート、筆記用具を机の中にしまってから立ちあがると、小早川さんと毛利君もカナたちと一緒にいるのに気がついた。僕が不思議そうな顔をしているとノブヒコが答えてくれた。


 「優。お昼なんだけど、最近は哲宏と小早川さんも一緒に食べてるんだよ」


 そうなのか。ノブヒコと毛利君は仲がよさそうにみえるし、小早川さんもカナと仲がいいのかな?確かに1ヵ月もすれば新しい友人が増えていてもおかしくはないな。


 「えっと、小早川さんに毛利君、僕もお昼一緒でもいいかな?」

 「私は大歓迎よ。東雲さんのことは香奈子から聞いているから、もっとお話したいと思っていたの」

 「俺もとくに気にはしない」


 カナとノブヒコの友人なら悪い人ではないだろう。僕は二人の言葉に甘えさせてもらうことにした。


 「ありがとう。二人とも、僕のことは優で良いよ」

 「優さんね。私もちえりでいいわよ」


 小早川さんがやわらかい表情で微笑む。


 「わかった。ちえりさん」

 「俺も哲宏でいい」


 毛利君が言葉少なげに答える。この人はあまり表情を顔に出さないのかもしれないな。ただ、優しい人であることは言葉や態度に表れている。


 「わかったよ、哲宏君」


 僕はにこっと二人に微笑んだ。友達が増えるのは素直に嬉しい。


 「それじゃ、学食に向かいましょうか」


 カナがその場を仕切り、みんなで学食に向かおうとしたその時、廊下の方でざわついた声が聞こえてきた。

 ざわめきは段々と大きくなっていき、何事かと顔を見合わせた僕たちは、教室から廊下へと出てみる。廊下は食堂や購買に向かう生徒たちで混雑していたが、その中をこちらに向かって歩いてくる人たちが見えた。


 「あっ、お姉ちゃんだ」

 「やっほー、優。お姉ちゃん来たよー」


 お姉ちゃんともう一人の女子生徒が一緒に歩いて来ているのだが、その光景に僕は唖然とした。生徒たちが廊下の端と端に分かれ、その間をまるでモーゼのようにお姉ちゃんたちが歩いてくる。


 「えーと、香奈子?ひょっとして会長もご一緒なのかしら?」


 ちえりさんが冷や汗をたらりと流しながらカナに聞いていた。

 カナを見ると忘れていたという表情をしている。


 「あはは、実はそうなの。私も忘れてたけど、今日はれい姉…じゃなかった東雲会長も一緒なのよ」

 「香奈、忘れてたのかよ。俺は正直今日のお昼はどうしようかと悩んでいたところだぞ」


 カナの言葉にノブヒコがため息をついている。まあ、確かに朝のあの様子を見ると一緒にご飯を食べるというのはハードルが高いかもしれないな。自分はいつも一緒にいるせいかとくに感じたりはしないけど。


 「わ、私も一緒にいていいのかしら?憧れの会長とご一緒できるのは嬉しいけど」

 「ちえりは生徒会志望だもんねー。ま、いいんじゃない。とくに気にするような人じゃないし。どっちかというとこっちが周りの目を気にしちゃうぐらいじゃないかな」

 「た、確かにそうね。それに、会長と一緒に歩いている人って…」

 「書記の井伊先輩だな」


 哲宏君の言葉に僕はお姉ちゃんの隣にいる人に目を向ける。

 目を引いたのは金色の髪の色だ。自由な校風と言っても髪を染めるのは校則で禁止されているから、地毛ということだろう。その金色の髪は肩の辺りで毛先がゆるくカールしていて、窓から入ってくる光でキラキラときらめいている。彫の深い顔立ちに蒼い瞳。透き通るような白い肌。身長はお姉ちゃんと同じくらいで、手足は長くモデルさんのようだった。

 歩くたびに揺れる大きなおっぱいは僕よりも大きそうだ。この人ならおっぱいが大きい悩みを相談できそうな気がする。前にカナに相談しようとしたら滅茶苦茶怖かったからな。


 「井伊先輩って、外国の人?」


 隣にいた哲宏君に聞いてみた。どう見ても日本人ではなさそうだし、留学生なのだろうか?


 「いや、日本人だ。井伊紅葉いい・あかは先輩。音楽家の3年生だな」

 「日本とロシアのクォーターだったかな?怜香姉と同じ生徒会で、書記だったはずだよ」


 哲宏君の言葉にノブヒコが続ける。

 日本人なのか。金髪巨乳の美少女とかどこのラノベの話だよと思ったけど、実際にいるものなんだな。

 それにしても、これで生徒会の人と知り合うのは3人目か…。残りの一人と出会うのも近そうな気がする。


 「優、お待たせー」

 「ふーん、この子が妹の優ちゃんねー。初めまして、私は井伊紅葉。音楽科の3年生よ。あなたのお姉さんとは友人で、同じ生徒会にも所属しているわ。これからよろしくね」


 お姉ちゃんと井伊先輩がやってきて、井伊先輩は僕に挨拶をすると手を差し出してきた。


 「は、はい。よろし…うわっ」


 僕が井伊先輩の手を握った途端、手を引っ張られてそのまま先輩の胸に顔をダイブさせてしまった。顔を先輩のおっきなおっぱいに埋めさせたまま、ぎゅっと体を抱きしめられてしまう。


 「いやー、この子可愛いわねー。思わず抱きしめちゃうぐらい可愛いわ」

 「モガモガ」


 先輩のおっぱいがおっきすぎて息ができん。このままで窒息してしまいそうだ。…おっぱいの谷間で窒息死とかなにそのダメすぎる死因。


 「アカハ?うちの妹が死にそうなんだけど、そろそろやめてくれる?」

 「おっと、ごめんごめん。余りにも可愛かったものだから、つい」


 やっと解放されゴホゴホと咳込む。危ない、もう少しで走馬灯が見えるところだった。

 自分の体で慣れているせいか、おっぱいに顔を埋めるというハプニングでもあまり動じることはなかったが、男の時だったら間違いなくパニックになっていたな。女の子の体に慣れるということがいいことなのか悪いことなのかよくわからない。

 ふと周りを見るとなんかみんながこっちを見ている感じがする。男子生徒はやけに顔が赤いな。


 「れい姉、お昼なんだけど、私の友達も一緒でいいかな?」

 「いいわよー。私もアカハを連れて来ちゃったしね。アカハもいいよね?」

 「結構よ。優ちゃんには言ったけど、私は井伊紅葉。みんなもよろしくね」


 カナにノブヒコ、哲宏君にちえりさんが井伊先輩に挨拶をする。

 3年生の先輩ということに加え、生徒会の有名人ということもあって、みんな緊張しているようだ。さっきの光景も凄かったし。

 ただ哲宏君はいつも通りのように見える。余り物事に動じない人なのかな。


 「そろそろ行きましょうか?ユッキーたちを待たせるのも悪いしね」


 お姉ちゃんが僕の手を取って歩き出した。また手をつながれるのか、結構恥ずかしいんだけどな、コレ。


 「ずるいわよレイカ、私も優ちゃんと手をつなぐー」


 井伊先輩が僕の空いている手を握って歩き出す。お姉ちゃんに右の手を、井伊先輩に左の手を引っ張られる形だ。なんだこれ…まるで両親に手をつながれている子供のような感じがするんですけど。

 その僕たちの後ろをカナとちえりさん、最後尾をノブヒコと哲宏君が続いて歩いている。


 「なあ、哲宏。これから会長と書記、それに噂になっているであろう会長の妹と一緒にお昼を食べるわけだけど、正直逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。今でさえ嫉妬の視線が俺たちに集まっている気がするぞ」

 「ふむ、まあそう深く考えるな、信彦。学院でもトップレベルの美少女たちと食事が出来ると前向きに考えた方がいいぞ」

 「俺はお前のそのポジティブな考えが羨ましいよ…」


 そんな会話がノブヒコたちから聞こえてきた。男はいろいろあるんだなー。そういう僕もちょっと前まで男だったわけだけど。


 「遅れてるから少し急ぐわよー」


 お姉ちゃんがそう言って、僕たちは足早に食堂に向かった。



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