第17話
僕が教室に入ると一瞬ざわめきが起こり、またすぐに静かになった。
教卓の近くまでいった後、南雲先生にうながされる形で黒板に自分の名前を書き、くるりとクラスメイトの方に振り向く。
「東雲さん、自己紹介して」
「はい。皆さん、初めまして。僕の名前は東雲優と言います。病気で1ヵ月ほど遅れての入学となりましたが、仲良くしてくれると嬉しいです。よろしくお願いします」
おじぎをしてから、クラスメイトに向かってにっこりと微笑む。
あ、カナとノブヒコに目が合った。カナはちっちゃく手を振ってるな。ノブヒコは口元に笑みを浮かべている。
変な挨拶はしなかったと思うけど…。
「ぼ、ボ、僕っ娘キターーーーー!」
突然男子生徒の一人が叫び始めて、僕はびくりとした。
な、なんだ!何が起こったんだ?
「バカ野郎、東雲さんがおびえているじゃねーか!」
「だってリアル僕っ娘ですよ。しかも可愛くて巨乳な美少女。これが叫ばずにいられますか!」
「美少女は認めるが、お前少し黙れ」
「モガモグ」
さっき叫んだ男子生徒が周りの生徒に口をふさがれていた。
…びっくりしたけど、なんかゆかいなクラスみたいだ。でも巨乳言うな。お前もおっぱい星人か。
女子生徒の一人が手を上げて先生に問いかける。
「理香ちゃん先生!東雲さんに質問してもいい?」
「いいわよ。1限目は私の授業だしね。余り他のクラスに迷惑にならないように。それと、理香ちゃんはやめなさい」
先生の言葉にクラスメイトたちが一斉に質問し始めた。
「東雲さん、趣味は?」
「どこに住んでるの?」
「特技って何かありますか?」
「東雲さんは部活、どこ入るの?」
「お姉さんが会長って本当ですか?」
「東雲さんは彼氏とかっている?」
「好きな男性のタイプは?」
「ス、スリーサイズを教えてください!」
「えっと…」
質問が矢継ぎ早に飛んで、どれから答えてよいのかとまどってしまう。
「すとーーっぷ!みんなが同時に質問したら優が答えられないでしょー!」
カナが立ち上がってクラスメイトの質問を止めてくれた。こういった時にカナは頼りになる。
「大丈夫だよ、カナ。質問は全部覚えてるから」
「へっ?」
カナにそう呼び掛けてから、クラスメイトに顔を向きなおす。とりあえず質問された順に答えていってみよう。
「えっと、趣味は読書です。小説などを読んでいます。最近では料理やお菓子作りなども始めています。住んでいるところは織姫町です。特技と言えるものではないかもしれませんが、バイオリンなどを弾いています。部活動は今のところ考えていません。生徒会長の東雲怜香はお姉ちゃんです。彼氏はいません。好きなタイプは優しい人でしょうか?スリーサイズはきゅ…」
「ちょっと、優、バカ正直にスリーサイズなんて答えなくていいの!」
カナのツッコミで我に返った。危ない危ない。つい考えなしにスリーサイズを話してしまうところだった。
「おい、聞いたか?スリーサイズが上からきゅ…ってバストが90以上あるってことだよな?」
「趣味が読書に料理にお菓子作り、東雲さんの手料理ならぜひ我々もご賞味にあずかりたいものだ」
「やっぱり会長さんがお姉さんだったんだ。美人の姉に美少女の妹、何か漫画みたいな感じね」
「それにしてもあれだけの質問の内容を全部覚えてるって、さすが会長の妹。ただものじゃないわ」
僕の回答を受けて、クラスのみんながざわざわと私語をかわしている。
そんなに悪い感触ではなさそうだ。この時期に一人だけ遅れて入学とか珍しがられるだろうし、自分が思っているより注目されてしまっているのかも。きちんと女の子として振る舞うように気をつけないと。
先生がパンパンと手を叩いて、ざわめきを落ち着かせた。
「質問はそろそろいいかしら?それじゃそろそろ授業を始めるわね。東雲さんはあそこの空いている席に着いて。小早川さん、東雲さんの面倒を見てあげてね」
「はい、わかりました」
僕は先生が指さした席に向かって移動する。
僕の席は窓際の一番後ろの席だった。窓際が好きなので、僕にとってはラッキーだ。
席に座り、鞄から必要なものを取り出して机の中に入れ、鞄を机の横に掛ける。筆記用具と教科書を机の上に出したところで、隣の席の人と目が合った。さっき僕の面倒を見てくれると言った人だ。小早川さんと言っていたかな?
「よろしくね、東雲さん。わたしは小早川ちえり、このクラスの委員長やってるの。何か困ったことがあったら遠慮なく言ってね」
「うん、僕の方こそよろしく」
小早川さんは、左肩に垂らしたみつあみのおさげを揺らせながら僕に声をかけた。つり目気味だが、太い眉毛がふんわりとしていてやわらかい雰囲気を出している。小早川さんがクラス委員長なのか。そういえば、僕も何か委員とかやるのかな?
そう考えていたら、前の席の人からも声をかけられた。
「俺の名前は毛利哲宏。信彦と同じサッカー部だ。東雲のことは信彦から聞いている。病気が治って良かったな」
前の席に男子生徒は、座っていてもそれとわかる長身で、長髪を後ろで束ねていた。目つきが鋭く怖い感じがするけど、落ち着いた話し方と僕のことを気遣ってくれているのをみると、優しい人のようだ。
「うん。ありがとう、毛利君」
楽しそうなクラスだし、友達も出来そうな感じがする。なんとかやっていけそうかな。
そんなことを考えながら教科書を開き、南雲先生の授業に耳を傾け始めた。




