表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/23

第16話

 「理香ちゃんいるー?」

 職員室の扉を開けて、本田先輩が大声で呼びかけた。

 理香ちゃんというのは僕の担任の先生の名前だ。職員室に来る途中に担任の先生の名前を聞かれたので南雲理香先生と本田先輩に答えた。


 教職員棟は普通教室棟の隣にある2階建ての建物だ。

 1階には、1学年用の職員室に事務室、用務員室に保健室。2階には、校長室と教頭室、2学年と3学年用の職員室がある。今、僕が来ているのは1学年担当の職員がいる職員室だ。時間は8時45分を過ぎたところ。結局、途中で色々と本田先輩に話しかける生徒が多かったこともあって、始業前には着かなかった。


 「もう、本田君!理香ちゃんと言うのはやめなさいっていつも言ってるでしょう。ちゃんと先生と呼びなさい」

 「わかってるよ、理香ちゃん先生」

 「わかってないじゃない…」


 職員室の中央付近の机にいたスーツ姿の女性が立ちあがってため息をついていた。

 この人が南雲理香先生か。

 ふわふわのパーマがかった茶色い髪に、やや垂れ気味の目とぷっくりとした唇。肌は色白で、ぽっちゃりとした体つきをしている。ほんわかとした見た目とおっとりとした話し方は、先生と言うより近所の優しいお姉さん的な印象を持たせていた。

 南雲先生は僕と本田先輩のいる職員室ドアまで歩いてくる。


 「それでどうしたの?もう始業ベルは鳴っちゃったわよ。早く教室に行かないと」

 「優ちゃんを職員室まで連れてきたんだよ。理香ちゃんに用があるらしくて」


 ゆ…優ちゃん?

 南雲先生のことも理香ちゃんと呼んでいていたし、気さくな人のかな。人懐っこいところがあるし、誰とでも仲良くなれるタイプと見た。生徒会役員ということを差し引いても人気高そうだな、本田先輩は。


 「あの、南雲先生ですか?今日からこの学校に通う事になりました東雲優です。遅れてすみませんでした」


 ペコリとおじぎをして、先生に遅刻したことを謝る。


 「あなたが東雲優さんね。よかったわ、遅いから探しに行こうとしてたの。この学校広いでしょう、どこかで迷子になっているんじゃないかと思ってね」


 うぐっ!まさにその通りだったので、僕はうつむくとみるみる顔が赤くなってしまった。高校1年にもなって校舎で迷子とか、ちょっと情けない。


 「その迷子になっていたところをボクが連れてきたというわけさ」

 「まあ、そうだったの。…気にしないでね、東雲さん。先生もしょっちゅう迷子になってるから。広すぎるのよね、この学校」


 それは先生としてはどうなんだろう…。先生のはげましで少し気を取り直した僕は顔を上げた。まだ顔が赤いけど仕方がない。


 「そろそろ教室に行きましょうか。東雲さん、準備するからちょっと待っててね。本田君ありがとう、遅れたことは私から山口先生に話しておくから、自分の教室に戻りなさい」


 そう言って、南雲先生は自分の机に戻って行く。その様子を見ていたら、ふいに頭をくしゃりと撫でられた。


 「それじゃ、僕も自分の教室に行くよ。優ちゃん、また後で」

 「は、はい。本田先輩もありがとうございました。おかげで助かりました」

 「ボクのことは睦月で良いよ。みんなにもそう呼ばせているし。それじゃまた」


 睦月先輩が手を振って廊下を歩いて行ったので、僕も小さく手を振り返す。なんというか、お兄ちゃんとかいたらこんな感じなんだろうか。


 「東雲さん、お待たせ。それじゃ行きましょうか」

 「はい」


 南雲先生と連れだって歩き出す。時間はもう8時50分を過ぎてしまっていた。だいぶ遅れてしまったな…。

 歩き出す前にちらりと職員室の時計を見た僕を見て、先生が微笑んだ。


 「時間は気にしなくてもいいわよ。1限目は私の授業だから、少し遅れても大丈夫」

 「は、はい。すみません」


 おっとりしているように見えて洞察力が鋭いな。僕が考えてることが顔に出やすいというのもあるか。


 だんだんと自分のクラスが近づいてくる。

 僕のクラスは普通科の1年B組だ。普通教室棟の1階、正面側校舎になる。中庭を挟んだ後ろ側の校舎は工業科や商業化などの専門学科の教室だ。

 うおお、緊張してきたー。

 心臓がバクバク言ってる。僕はこういう一人で注目されるのが苦手なんだよな。きちんと挨拶できるだろうか。いや、ちゃんと練習してきたし、大丈夫なはずだ。


 1年B組のクラスの前に来て先生が立ち止まる。


 「先生が先に入るから、東雲さんは呼ばれたら入ってきてね」

 「はい、わかりました」

 「あっ、その位置だと中から見えちゃうからちょっと離れて、そうそこ」


 先生の言葉に教室のドアから少し離れる。僕の位置を確認すると、ガラッとドアを開けて先生が教室に入っていった。


 「おはよー。ほらみんな、席についてー」

 「「「おはようございます」」」」

 「理香ちゃん遅いー」

 「ごめんね、ちょっと準備が必要だったのよ。それから理香ちゃんと呼ばない」


 南雲先生はみんなから理香ちゃんと呼ばれているのか。それに、今の声はカナだな。


 「先生、それって噂の転校生…じゃなかった。お休み中の東雲さんですか?」

 「そうよー。今日からみんなと一緒に勉強するから、仲良くしてあげてねー」


 男子生徒の声が聞こえる。1ヵ月来れなかったけど、僕の名前を知ってくれてる人がいるんだ。なんかちょっと嬉しい。


 「理香ちゃん先生、どんな子でしたー?」

 「それは見てもらった方が早いわね。とっても可愛い子よー」


 男子生徒のよっしゃーとか言う声が聞こえる。…南雲先生、そんなハードルを高く上げないでください。


 「それじゃ、東雲さん。入ってきてー」

 「は、はい」


 僕はしずしずと教室に入って行った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ