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第15話

 聖エストリア学院の敷地は広大だ。

 校舎は3つあり、生徒たちが授業を受ける普通教室棟、音楽室や美術室、実験室などがある特別教室棟、学校職員が詰める教職員棟などだ。

 他に生徒会役員のための生徒会棟、食堂・購買棟、図書館、学生寮などがある。

 施設としては、サッカー・ラグビー・アメフト・ラクロスなどが使用する多目的グラウンド、陸上競技場、野球場とソフトボール場、テニスコートなどの屋外施設と、第一・第二体育館、柔道場、剣道場、弓道場、屋内温水プールなどの屋内施設がある。

 また、各部活に割り振られているクラブハウスは運動系と文化系の二棟建てられている。


 …と目の前にある案内図を見るといかにこの学院が大きいことがわかる。

 なぜ僕が案内図とにらめっこをしているのかと言うと、端的に言って…迷子になったからだ。

 今日が初登校ということで、始業前に担任の先生に挨拶に行くことになっている。そのまま先生と一緒に自分のクラスに向かい、クラスメイトに紹介するという形だ。転校生と同じ感じかな?

 それで、カナとノブヒコとは玄関で別れて先生がいる教職員棟に向かおうとしたんだけど、思ったよりも広くて建物の構造が今一つつかめず、迷子になったというわけだ。


 …ヤバい。どうしよう。もう時間は8時40分になろうかとしている。

 簡単にたどりつけると思っていたんだけど、素直にカナたちに案内してもらえば良かった。

 仕方がない、近くの人に適当に聞いてみよう。そう思ってあたりを見まわそうとしたところで声をかけられた。


 「そこのキミ、どうかしたのかい?」


 振り返ると、男子生徒がこちらに顔を向けて立っていた。背はノブヒコと同じくらいだろうか、どこか愛嬌のあるきれいな顔立ちで、にこやかな笑みを浮かべている。イケメンというよりは可愛い男の子という感じだ。

 ネクタイの色から見ると3年生のようだから、先輩か。


 「は、はい。あの、迷子になってしまって。教職員棟に行きたいんですけど」


 街中じゃあるまいし、ナンパということはないだろう。この人に教職員棟の場所を聞いてみることにする。3年生なら場所がわからないってことはないだろうし。


 「教職員棟?ここからだと、この廊下をまっすぐ行って突き当たりの階段を1階まで降りて、渡り廊下を…って、今の説明でわかる?」

 「…さっぱりです」


 顔に冷や汗をたらしながら答える。ある程度、建物の構造を理解していればわかるかもしれないが、今日初めてこの校舎に入った僕にはさっぱりわからなかった。


 「オーケー、わかった。時間も無いし、ボクが連れて行ってあげよう。急げば始業前には着くと思う」


 そう言ってその男子生徒は僕の手をつかむと廊下を歩き始めた。

 いきなり見知らぬ女子生徒の手をつかむって随分とフレンドリーな人だ。ただその親しげな雰囲気からか嫌な気分はしなかった。下心が見え見えの時に気分が悪くなるのかもしれないな、僕は。


 「ボクの名前は本多睦月、工業科の3年生だ」

 「僕の名前は東雲優です。普通科の1年生になります」


 男子生徒…本田先輩が自己紹介をしたので、自分も返す。早歩きなのでついていきながら話すのが大変だ。


 「東雲…?ひょっとして、3年生にお姉さんはいるかい?」

 「はい。3年生にお姉ちゃんがいます。東雲怜香って言うんですけど」


 本田先輩がこちらに振り向いた。満面の笑顔になっている。…なんで笑顔?


 「そうか、怜香さんの妹さんか。ボクも生徒会役員なんだよ。庶務をやってる」

 「そうなんですか。いつもお姉ちゃんがお世話になっています」

 「お世話というか、ボクがお世話になりっぱなしな感じもするけどね」


 あはは、と本田先輩が照れながら笑う。良かった、お姉ちゃんの知り合いなら悪い人ではないだろう。朝の榊原先輩に続いて2人目の生徒会役員の方と知り合うとは。

 …って、ちょっと待て!生徒会役員?生徒会役員ということは、この学校では有名人であるわけで。

 僕は慌てて周囲の様子を見てみた。

 今は本田先輩に連れられて廊下を歩いているのだが、そこは普通教室棟の廊下であるわけで、しかも始業間際ということで多くの生徒たちで溢れかえっている。


 …凄いガン見されてるよ。

 男子生徒も女子生徒もなんか立ち止まっているし。中には教室ドアからこちらを見ている人もいる。


 教職員棟に行くことに気を取られて全然気がつかなかった。

 生徒会役員の有名人で、しかも顔が良いから人気もありそうな男子生徒と手をつないでいる僕。

 …なんか、嫌な予感がする。


 「あれ、睦月先輩。手なんかつないで、その子彼女ですか?」


 歩いている途中、別の男子生徒に声をかけられた。

 そう思われそうだよなー。変な噂にならないといいけど。


 「違う違う。怜香さんの妹さん。教職員棟まで案内するところだよ」

 「へえ、会長の妹さんですか」


 本田先輩が男子生徒にそう答えて通り過ぎる。僕はその人に通り過ぎざまににこりと微笑んで、ペコリとおじぎした。

 朝もそうだけど、きちんと挨拶はしておかないと。妹は満足に挨拶もできないのかと、会長をしているお姉ちゃんに迷惑をかけるわけにはいかないし。


 通り過ぎたあと、男子生徒を中心にざわめきがあったような気がするけど、足早に通り過ぎたのでよくわからなかった。

 「可憐だ…」とか聞こえた気がする。

 僕の挨拶はおかしくなかった…よね。



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