その名はクロエ
「まあかわいそう」
戦場にはにつかわない娘、クロエが通りかかると、アントワーヌをひょいと担ぎ上げて、
「あたしは医者の娘だから、助けてあげるわ。どこが痛むの」
と、優しい声をアントワーヌにかけてやる。
「おお、女神だ!」
アントワーヌはひたすら感激。
戦場の女神とばかり、アントワーヌは自分に尽くしてくれるクロエに、よこしまな気持ちを抱くのであった。
それが悲劇の幕開けとも知らず――。
湿布薬にジギタリス(鎮痛剤)。
中世では魔術や錬金術で使用された薬草である、
クロエはアントワーヌにジギタリスをすりつぶし、含ませると痛みが和らいだと微笑む。
「さすがは医者の娘だけある。御礼をしなくてはね」
「あら、お礼だなんてそんな、それならいたいだけ一緒にいて」
クロエの両手が、がっしりとした彼女の両手が、アントワーヌのやわらかい両手をむんずとつかみ、握り締められた。
芸術家肌のアントワーヌは、野性的なクロエの華奢だが骨太の体格を意識してしまう。
「ぼ、ぼくもクロエのこと、好きだし、い、い、い……一緒にいたいな……(痛いな……)」
この約束が、彼を拷問にも等しい愛に苦しむのである!
がんばれアントワーヌ!
負けるなアントワーヌ!
「うれしぃぃ〜! ほんとねだ〜りん、愛してる〜」
「僕も愛して……りゅ……がっくり」
クロエの腕には、ぐったりと血の気のうせたアントワーヌの姿があった――。
がむばれ……ひたすらに!
しかしアントワーヌは下心を抱いたためにこうなったので自業自得か・・!?