催眠術にかかったフリをしただけなのに、幼馴染と結ばれました。
「それでは、いまから催眠術をかけていきまーす!」
「……んなもん、かかるわけ無いだろ?」
放課後の教室。
幼なじみの斉木美奈が俺に向かって五円玉を揺らしてくる。穴に紐を通した五円玉が、俺の目の前でゆらゆら。
今時、こんな道具で催眠術っていわれてもなぁ。
古典的な方法過ぎるけど、これって催眠術にかかるものなのか?
「今、和人は『本当にこんなんで催眠術にかかるのかよ』と、疑ってますねー? 私は貴方の心が読めまーす」
「別にそれ、俺の心読んでないからな。誰でも思うことだから」
「いいの。こういうのが暗示にかけるためには有効なの! ここらが本番なんだよ?」
今からやることが最新の方法とのことで、美奈は流行りの歌に載せて五円玉を振り出した。
たぶん、コイツがハマってるアイドルグループの歌。昨年の流行語大賞に選ばれたアイドルグループで、美奈はすごいハマってるんだよな。それこそ、洗脳なんじゃないかってくらいコイツに聞かされたってのに、また今も聞かされている。催眠にかけるって、そういうことだっけか?
「これで深層心理に入れるらしいのです」
「はいはい」
バカバカしい遊びに付き合わされているけど、今日の美奈はいつにも増して真剣な顔をしている。
俺の心が読み取れるなら、「こんなくだらないことに付き合わされて、うんざりしている」っていう気持ちを読み取れっていうのに。
こうなったら、逆にコイツにドッキリを仕掛けてからかってみようかな?
俺が催眠にかかっているフリをして、最後にネタ晴らしして美奈を悔しい思いでもさせてやろう。
美奈は丸々ー曲を歌い切った。
「はい、それでは催眠にかかりましたね? かかっていたら、頷いてください」
全くかかってないんだけど、頷いておこう。
俺が頭をこくこくと下げて頷くと、美奈は口角を上げた。
「やった! 本当にかかったみたい!」
「……(まぁ、全然かかってねぇけどな)」
「じゃあ、ここから質問していきます。正直に答えて下さい」
「はい」
「あなたに好きな人はいますか?」
「好きな人ね。まあいるけど……」
「あれ? 意外とラフな感じだけど、催眠術かかってるのかな? まぁいいか。それでは、どんな人ですか?」
「なんか可愛い人」
「それは、どんな感じに可愛いんですか?」
質問が下手だな……。
催眠術にかかっている相手に対しては、YesNoで聞いていくのが定石だろ。
考えさせる質問は催眠中には答えられないって……。けどまぁ、どう答えたものかな……。
「あれ、なかなか答えてくれない……。あ、そうか簡単に受け答え出来る質問じゃないとダメか」
答えを考えている間に、美奈の方が気付いたようだった。
「その子は姉タイプですか? 妹タイプですか?」
まぁ、二択なら答えやすいか。
「妹」
「それは、憎たらしいけど可愛いって感じですか?」
「はい」
「ふーむ。じゃあ最後の質問です」
美奈は少し溜めてから聞いてくる。
「私のことは好きですか?」
「……まぁ、嫌いじゃない」
「本音ベースでも、相変わらず角が立つ言い方だなぁ。じゃあ、私が付き合ってって言ったら、どうですか?」
さっきからどんな質問してるんだよ。これじゃあまるで、美奈が俺のことを好きみたい……。
あれ、俺のこと好きなのか……?
自分で質問したくせに、美奈は頬を赤らめて目が泳いでいる。俺は催眠術にかかっていると思ってるはずなのに。
まぁ、催眠術にかかっていることにしていけど、俺自身も相当恥ずかしいんだけどな。
今までの質問は、催眠術にかかっていたから覚えていないっていうことにしよう。
「それでは目をつぶってください」
「……ん?」
今度は何をするんだ?
とりあえず言われたままに目をつぶる。
「ずっとしてみたかったの……」
そう言いながら、俺の唇に柔らかい感触が触れた。
ぬめりを帯びた感触は俺の唇を包み込んでいき、咀嚼するようにハムハムと唇を動かしてくる。
これって、美奈の唇……?
まさかとは思ったけど、キスしちゃってるよな?
マジかよ、催眠術中になんてことしてくれてるんだよ、コイツ……!
い、いや、別にイヤってことじゃないけど……。
口の中に、ぬめり気のある軟体生物のように動く物が入ってくる。
初めて味わう感触。俺の舌と絡んできて、俺の舌も反応して動いてしまう。二つの舌が互いに求めるように絡み合って、口の中の液が口外に垂れだしそうだった。
それらすべてが床に落ちる前に、美奈によって吸われていく。俺の舌が美奈の口へと誘引されて、今度は俺が美奈の口の中を探っている。
そんな気は無いのに、舌が自然と動いてしまう。
美奈の咥内に分泌された俺の唾液も、全て綺麗に美奈が吸い取ると、やっと舌が解放された。
「……ふふ。私のことを好きになる魔法をかけました」
……絶対に、これは無かったことにしよう。
俺は何も覚えていない。そうしないと、絶対に気まずい。
なんてことをしてくれてたんだよ、性欲すごいんだなコイツ……。
「はい。催眠術解きます!」
催眠術が終わったというから、俺はゆっくりと瞼を開く。
一応演技しておかないと、後々大変だからな。
何もわからないフリをして、今目が覚めたみたいな仕草で美奈に聞いてみる。
「んっ……、俺はどうしてたんだ……?」
「どうだったかな?」
「どうって……。なんか、変な気分だな。俺に何かしたか?」
なんでこっちが気を使わないといけないんだよ。なにも知らないフリしながら、今までの関係通りに対応するのは少しキツイな……。
「ふふ、全部覚えているでしょ?」
「なっ、なにをだよっ?!!」
意味ありげな含み笑いをする美奈。なんだよ、その反応……。
俺は取り繕うように答える。
「さ、催眠術中のことなんて覚えているはずないだろ」
「いや、私、催眠術とか使えないから」
「んっ……?」
最初と言っていることが違うような……?
「私は催眠術かけてないよ」
「は……、はぁっ?!!」
「和人って、私のこと好きなんだね」
「い、いやいや!! えっ? どういうこと?!」
「これは、『催眠術ドッキリ』でしたー。どう、騙された?」
「はあ?! 騙されたも何も、な、何やってるんだよ!?」
嵌められたのか……。
「いやー、和人の本音聞けちゃったってことだよね? これから、よろしくね!」
「くっ……」
「それに、私の魔法効いたでしょ?」
「ぜ、全然効いてねぇよ……。一回キ……、キスしただけで、好きになるなんて、童貞じゃねぇんだから!!」
「そうなの? じゃあ、違う魔法をかけてあげようか? また催眠術かけてあげるね?」
「くぅ…………。今度はなんだってんだよ……」
「じゃあ、今度はねー……」
俺の幼なじみは、想像以上に厄介に育っていたらしい。やられた……。
自分が優位に立ったと思っているのか、ニヤニヤした顔を浮かべて煽り気味に聞いてくる。
こんなことされて、俺の方からも仕返ししてやらないと気が済まない。俺はパッと思いついた作戦を実行することにした。さっきまで催眠術にかかっていたフリをしていた時のように、無反応気味に答える。
「はい……」
「あはは、まだ何も言ってないのに、素直だね。まだ催眠術かけてないんだよー?」
「はい……」
「え……? 催眠術かかってないって……? もしかして本当にかかっちゃって解けてないってこと……?」
「はい……」
「いや、どういうこと? どうやったら、解け……。もしかして、さっきの言葉を本気にしてる……? 違う魔法を期待してるの……?」
「はい……」
俺が答えると、美奈は恥ずかしそうに俯いてしまった。
これで、俺の形勢逆転だな。ははは。
なにが、『私のことが好きになる好魔法』だよ。調子に乗れるのも今だけだぞ。もうキスされたところで、なにも感じないから。二度目なんて全然ちょろいぜ?
美奈は俺の手を取ってきた。
「じゃあ……、一生私のことを大事にするっていう魔法かけるからね……」
「はい……?」
「初めてだから優しくしてね……?」
「は、はい……?」
あれ、催眠術にかかったフリっていう、冗談のつもりが……、本気……?
終始恥ずかしそうにしている美奈と手を繋ぎながら、俺たちは隣同士で住んでいる家への道を帰り始めてしまった。
これ、どうしよう……。
いつ催眠術が解けたってことにしよう……。
「ゴムとかは無いから……。そういう魔法だよ?」
「は、はい……!!?」
「ずっと大好きだよ!」
帰り道もどうしたものかと考えていたが打開策が思いつかずに家に着いた後。
その後、俺は魔法にかけられました。
Fin
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