亡国となった私の祖国は今━━
アイリスがガデュリオン皇帝によってファルナウスから連れ去られ一年。
国の存亡はおろか、父王や姉、婚約者の安否を知る事も出来ずに気を揉むような一年を過ごしたアイリスが、やっとそれらを知る事を許された。
あの後のファルナウス国が、どの様な結末を迎えたのかを。
「…陛下…わたくしに覚悟は出来ております。
どうぞ、お話ください。」
世界の歴史において、国同士の争いの話など珍しい事ではなかった。
アイリスが居た時のファルナウス国が平和だったからと言って、その平和が恒久的なものである保証など無い事も良く解っている。
国が奪われ国を治める者が捕らえられた後に処刑されたという史実がある事もアイリスは識っていた。
覚悟を決め、凛と立ち真剣な面持ちで話を聞こうとするアイリスに対し、ガデュリオンは少し言いにくそうに口を開いた。
「……ファルナウスだが、あの国の土地はこの一年間、俺の国で預かっていた。
そのままガデュリオン帝国の一部にしても良かったんだが飛び地になるしな。
人を寄越して管理するにも手間ってんで、隣国に渡す事にした。」
「隣国に…?ですか?」
「姫様の許婚者でいらっしゃったカミル王子殿下の国の事ですね。」
補足するようにスティングが横から口を挟み、アイリスは「まぁ…そうなんですの」と一瞬納得して頷いてみたが、すぐ横に首を傾げた。
ファルナウスが侵攻された時、カミル王子はファルナウスに居たが、隣国自体はこの一方的な戦争には関わって無かったハズ。
なのに…なぜここでファルナウスを自国の領土にしようと名乗りをあげられたのかと疑問が頭に浮かぶ。
釈然としない表情のアイリスをチラリと見た皇帝は眉を寄せ少し困った表情を見せたが、そのまま話を続けた。
「ファルナウスは隣国の領地のひとつとなり、第三王子のカミルが公爵の地位を与えられファルナウスの領主となった。
『ファルナウスは王女アイリスと、その王配となる自分が治める予定だったのだから、アイリスが戻るまで自分が守って治めていく』が、奴の言う正当な理由だ。」
━━……はぁ?…え?━━
アイリスは、カミル王子が無事だった事を喜ばしく思うより先に、首を傾げる事となった。
「わたくしを助けに行くとおっしゃってましたが、それは無くなったのですわね。
まぁ確かに…大国ガデュリオンに拐われたわたくしを小国の第三王子が救い出すなんて、幼い頃に読んだ白馬の王子様が囚われの姫君を救い出す英雄物語の様で全く現実味がありませんけど。」
━━で、救い出す算段は無いけれど、私が戻ったらファルナウスを私に返す?
私をファルナウスの女王にする?私を妻にする?━━
アイリスは頭にある違和感が消えない。
カミル王子の宣言が、綺麗事を並べただけの現実味の無い話である事はよく分かるのだが…
「……で、そのファルナウス領主の領主夫人となるのが亡国の第一王女のマーガレットだ。
『アイリスのために二人でファルナウスを守ってゆく』とファルナウスの民には言っているが、マーガレットが俺に宛てた手紙にはこう書かれてあった。
『皇帝陛下の寵愛を受けたアイリスを、王子殿下に輿入れさせる訳には参りません。』
つまり、俺のお手付きになったお前は、キズ物だからカミル王子の嫁には相応しくないって事だな。」
「…………は…?」
アイリスは混乱した。
いや、良く分かった。もう分かっている。
だが、分かっている事を認めたくない。
「姫様は、あのアバズレに国と婚約者を奪われたのですよ。」
困惑中のアイリスに向け、スティングがズバッと無遠慮に言い放つ。
モヤッとしたアイリスの胸の内が晴れる程にグサリと抉られるほど的を得た言い方に、ズシっと重くのしかかる現実を理解した。
自分は、姉に騙されていたのだと。
だが、それより…と、アイリスの興味は別の所に向いた。
「あの…アバズレとは、どういう意味ですの…?」
姉の事を指す言葉とは理解したが、その言葉が持つ意味を知りたい。
「アバズレとは私の主観で言うならば、自分の欲望に正直で、誰にでも簡単にパカパカ股を開く尻の軽い女の事ですね。
私から見たマーガレット王女が、まさしくソレです。」
「お前、もう少し言い方ってモンがあるだろ!」
シレッと答えたスティングに対して皇帝が焦ったような声を上げたが、それはスティングの言葉を否定するものではなかった。
と言う事は……
「お姉様は、誰にでもパカパカとお股を開く、お尻が軽やかで卑猥な女性だと言う事ですの?」
アイリスがそう聞き返すと言い回しが可笑しかったのかスティングはプッと小さく噴き出し、皇帝は頭に手を当て困った顔を見せた。
「卑猥な行為に及んでるかは不明だが、男をたぶらかす事には励んでいたようだな。
カミル王子だけではない、お前の父親もマーガレットを娘ではなく一人の女として見ている。」
アイリスは、今ハッキリと気付いた。
おざなりなアイリスへの扱いに対し、贈り物ひとつ選ぶにもマーガレットを想い、マーガレットに似合う物を吟味する熱の入りよう。
父王は娘としてアイリスよりマーガレットをひいきして可愛がっていたのではなく
マーガレットという一人の女性に求愛行為をしていたのだと。
「アイリスよ、信じていた者たちの裏切りに傷付いたかも知れんが━━」
黙りこくり俯いたアイリスの肩に、皇帝が大きな手の平をそっと置いた。
時間が無いので修整はあとで




