あの日、国が滅びた━━
連載投稿チャレンジに参加するための作品です。
遅筆だけど一週間に1300字超えの短文で、頑張ってみようかと。
石造りの暗く古い地下道の中を、松明の灯りが鬼火のように横に流れてゆく。
長く使われて無かったであろう地下道の壁は所々苔むしており、湿った空気が纏わりつくように充満していた。
重苦しい程の静寂を破る多数の足音が地下道の壁にこだまする。
8人の兵士たちは薄暗い通路の先にある鉄の扉が目に入ると、確認するように松明の灯りを扉に向けた。
「この扉をくぐれば階段があり、中庭にある隠し扉へと続くのだな。」
「ああ、そこはもう王城の敷地内だ。」
「扉を開けてしまえば、門を破らずともいつでも城外の兵を呼べる。」
「待て、錆びを落とさないと扉が開かん…」
兵士達は松明の灯りを頼りに錆び付いた観音開きの扉の間にある錆びをナイフで削り始めた。
ガリガリガリガリと錆びを削る音に掻き消され、兵士達は背後に忍び寄る足音を聞き逃した。
「ひっ…!!」
兵士の一人が、背後から伸びた剣の刃を頬に当てられ上ずった声を上げた。
その声を合図に、他の兵士達が自分達以外の何者かの存在に初めて気付き、振り返って身構えた。
「貴様、何者だ!!」
「名を名乗れ!」
おぼろ月が空に姿を現す様に、暗闇から段々と輪郭を現したのは白銀の鎧を纏う痩身の騎士だった。
白銀の騎士は兵士の頬に当てた剣を引き、静かに声を出す。
「………あの日………
ファルナウス国城内に突然現れた、ガデュリオン帝国の兵士達。
城門が開かれる前に、なぜ城壁の内側に他国の兵士が大勢現れたのか謎だった…。
よもや国王を衞る近衛兵のお前たちが、王族を脱出させるための隠し通路をガデュリオン帝国の兵士たちに開放していたとはな。」
錆び付いた扉を背にした8人の兵士を追い詰めるように歩み寄る白銀の鎧を纏った騎士が手にした剣を再び構えた。
「お前達の悪行が、あの日この国を滅ぼしたのだ。
王国兵士の風上にも置けぬ。恥を知れ!」
剣を構えた白銀の騎士に対峙した8人の兵士も剣を構え臨戦態勢に入る。
「あの日だと?
今から起こる国の滅亡を、まるで過去のように言うじゃないか。」
「何者か知らんが見られたからには生かしておけん。
殺せ!」
8人の兵士達は一斉に白銀の騎士に攻撃を仕掛けた。
8人の兵士の攻撃を一切歯牙にも掛けず、白銀の騎士は兵士達の剣を全て避け、8本の剣を全て叩き折った。
決してナマクラでは無かったハズの剣の刃が乾いた小枝のようにパキパキと簡単に折られてゆく。
なすすべも無く武器を奪われた兵士達は、その圧倒的な力の差に闘争心が消え失せた。
━━強い、敵わない!殺される!━━
全ての武器を失った兵士達は地面に尻をつき、錆びた鉄の扉を背に白銀の騎士を見上げて震え出した。
「と、投降する!生命だけは…!」
白銀の騎士は剣を引き、怯える兵士達を見下ろし溜め息をついた。
「……我はお前達の生命を奪うつもりはない。
だが、国賊として裁きを受けて貰うぞ。」
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大陸の端にあるファルナウス王国は、小さな国ではあったが平和で豊かな国だった。
この国を治める穏やかな国王には、早世した妃との間に美しい二人の王女がいた。
17歳の第一王女マーガレットと、13歳になったばかりの第二王女アイリス。
異母姉妹であったが二人はとても仲が良く、マーガレットは妹のアイリスを可愛がっていた。
ただ二人の関係は母親の地位により複雑で、生母が平民出身の妾妃であったマーガレットには王家の名を継ぐ資格が与えられなかった。
正妃を母に持つアイリスは幼い頃から隣国の第三王子を王配に迎え次代の国王となる将来を約束されており、城では皆に大事に大事にされていた。
それはもう、高価なお人形の如く━━
父王は早くに母を失くした二人を可愛がったが、不遇な立場を憐れに思っての事なのか、父として接するのはマーガレットの方が多く見えた。
時期国王となるアイリスの周りには世話をする者が常にたくさん居り、それを「だから寂しくないだろう」と捉えた国王は、アイリスと会う際には現王として次代の王に接するような話し方をし、父としての言葉を掛ける事はほぼ無かった。
「アイリス王女殿下、陛下からのプレゼントが届いております。」
「……また、お人形……
お父様は、わたくしを知っては下さらないのね。」
父としてアイリスを識らなかった国王は、アイリスの成長をも知らなかった。
いつまでも幼い幼女のような感覚で、お人形や、可愛らしいドレスを贈って来る。
「アイリス、お父様はそれだけアイリスの事を可愛いと思ってらっしゃるのよ。
父親にとって娘とは、いつまでたっても可愛らしくて守りたい存在ですもの。」
あらあら、と不貞腐れ気味なアイリスをなだめるように言う姉のマーガレットの耳には、父から贈られたという美しい宝石の付いたイヤリングが着けられていた。
マーガレットの事を思い考え、選んだ品なのだろう。
マーガレットのピンクブロンドの髪色に映えるアクアブルーの美しい耳飾りだ。
━━わたくしに贈って来たお人形とは大違いだわ━━
アイリスに贈られて来た人形は、高価そうではあるが父王が自ら選んだかも怪しい。
そもそもが、父王が王女二人に何かを贈って来る際にアイリスに贈って来るモノがほぼ毎回お人形なのだ。
「わたくし、本当にお父様に愛されているのかしら…」
姉に相談するように、アイリスが思わず不安を口にする。
優しい姉はアイリスの手を両手で握り、柔らかな笑顔を向けた。
「まぁアイリス、何を言っているの。
貴女は皆から愛されているのよ、お父様からも、わたくしからも…もちろん国民からもね…
でもアイリスが一番愛して欲しいのは、許婚者のカミル王子殿下でしょ?うふふ…」
突然、許婚者の名前を出されたアイリスはボッと顔を真っ赤にして大きく頷くように俯いた。
「おっ、お姉様の意地悪……」
「うふふ…アイリスには素敵な許婚者が居て、羨ましいわ。
本当に…羨ましい。」




