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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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虐げられし令嬢リジーは1分間の復讐をする。

作者: エース皇命
掲載日:2025/10/28

 今日に至るまで、私はずっと虐げられてきた。


 お父様にもお母様にも、娘として接されたことはない。


 アルデンツィ家の長女であるオクタヴィア。

 両親は姉のオクタヴィアを溺愛し、私はアルデンツィ家に存在しないものとして扱われてきた。


 姉が両親と食事を取る間、私は自分の部屋になっている小さな武器庫で、ペットに与えられるようなちょっとした肉を貪っていた。


 姉はそんな私を「下等生物」と罵った。


 (けだもの)のような食生活を強制しているのはそっちの方なのに。

 私の姉ならば、妹のためにこっそりご馳走の残りを運んでくるとか、妹の唯一の話し相手になるとか、もっとしてくれてもいいはずよね。


 この16年間、私が救われることはなかった。


 屋敷に来客があっても、両親と姉は私を武器庫から出ないようにして隠し、誰とも接触できないようにした。


 私はひとりだった。


 話し相手もいない。

 教えを乞う相手もいない。


 だから武器庫に置いてあった書物と武器だけが、私の支えだった。


 本を読んで言葉を学び、武器を手に取って独学で剣術を身につけた。10年以上剣術の訓練に明け暮れている私の実力は、もしかしたら周囲にも通用するのかもしれないわね。

 まあ、外に出られない私にとって、そんなことは確かめようがないのだけれど。


 この10年間はずっと復讐のことだけを考えた。


 私はいつかこの武器庫を出て、この屋敷を飛び出し、自由に王国を歩き回る。

 その前に両親と姉を全員殺して、私を縛り傷つける存在を抹消するのは当然のこと。


 そんなある日、16歳の私に、ある転機が訪れた。


『その強烈な復讐心、力への渇望。もう復讐の器は満たされました。エリザベス・アルデンツィ、貴方(あなた)こそ、わたくしの眷族(けんぞく)にふさわしい』


 毎日神に祈っていたのが良かったのかもしれない。

 気づけば私にはある能力が備わっていたの。


『使えるのは1日に一度だけです。復讐のためだけに使いなさい。1分間だけですが、世界から貴方の記憶を消すことができます』


「それは……その1分間の間、私が何をしたとしても、お(とが)めなしということでしょうか?」


『その通りです。そしてその能力は、強烈な復讐心の高まりと共に発動します』


 実体の見えない女神様と言葉を交わす。


 声の主はきっと復讐の女神様だわ。

 私の何年もの祈りが、ようやく実を結んだのね。


 きっと今、私の表情は最高に生き生きしているに違いない。やっと復讐ができる。やっと両親を、やっと姉を、殺せるんだわ。


「私の秘密を教えましょう、女神様」


 人生で初めて笑みを浮かべ、天に向かって語りかける。


「――私の復讐心は常に最高潮です」




 ***




 この能力があれば、私がどんなに残虐な行為――殺人――をしたとしても、記憶を消してしまえるのでその後も自由に生きられる。


 復讐後の不自由だけが足枷(あしかせ)だった私にとって、この能力はまさに理想のスキルね。


 とはいっても、まだ自分の実力が確かめられていない以上、迂闊な行動は慎むべき。


 そう感じた私は、すぐに武器庫の扉を蹴り飛ばし、多くの召使いや護衛のいる屋敷に向かった。


「お嬢様、屋敷への立ち入りは禁止されております」


 私が暮らす武器庫から歩いて1分ほどのところに、アルデンツィ家の屋敷がある。


 武器庫はほぼ部外者である私を隔離するため、少し遠くに作られた。

 アルデンツィ家の領地内ではあるけれど、とても人間の住めるようなところではないことだけは確かね。


 屋敷の門番は軽蔑するような瞳を私に向けると、長い槍を構えた。


「お嬢様なんて言いながら、私は護衛対象ではないのね」


「旦那様から、エリザベス様は絶対に屋敷に入れるなと言われておりますので」


「その理由を聞いてもいいかしら?」


「理由もクソもあるか。入ってくるなと言っているんだ、呪われた()め」


 いきなり口調を変え、きつく睨んでくる門番の男。


 ――呪われた()


 私がこうして虐げられてきたのは、単に長女である姉が溺愛されているからではない。


 神託のお告げで、次女である私には重い呪いが降りかかることになっていたらしい。

 一族を破滅に追いやる危険性があると言われたとか。


 皮肉なことね。


 呪いを恐れて私に愛を注がなかったことが、一族を破滅に追いやるきっかけになったのだから。


「そうね。ここで門番をしているのはあなただけみたいだし、試してみてもいいわよね」


「何のことだ?」


 門番の男は体格がよく、それでいて背も高かった。

 肉弾戦では勝ち目がないことはわかっている。


 だから――。


「貧弱な小娘が剣なんか抜いて、何になる?」


 私は剣を抜いた。


 武器庫で1番使い心地のいい剣。

 長年愛用している、私の相棒。


 門番の男はそんな私を見て(わら)った。当然、私の実力を侮っているようね。


 十分だわ。


 この男は、私が殺す人間その1ということにしましょうか。


【スキル『1分間の復讐』:カウント開始】


 今から1分間、私はどんな罪を犯しても世界に見つかることはない。復讐の女神(いわ)く、私が疑われることもないらしい。


「練習相手になって頂戴(ちょうだい)


「は?」


 低い角度から剣を突き出す。


 貴族の屋敷を護衛しているだけはあるのか、門番は私の速度に反応して槍で受け止めた。


「俺に勝てるとでも思ってるのか?」


「ええ、まだまだ序の口だもの」


 手首をひねり、受け止める槍の向きをずらす。

 そのまま急激に間合いを詰めて――。


「門番は大したことないみたいね」


「そんな……馬鹿な……あの速度は……」


「それか、私が強くなりすぎたのか」


 静かに吐血する門番は、私の目の前で崩れ落ちた。

 あっけに取られた表情のまま、心の底から私を恐れているような目をして。


 ……これが、復讐。


 そしてこれが、人を殺すということ。


 最高ね。


 早く両親と姉を殺したくてしかたないわ。




 ***




 次の日、私はまた屋敷の門に出向いていた。


「お嬢様、自分のおうち(・・・)にお戻りください」


 もちろん、昨日の門番は死んでいるので、別の門番だった。

 昨日の門番殺人事件を受けて、門番の数と護衛の数を増やしているものと思っていたのだけれど……。


「昨日の門番はどこにいったのかしら?」


「……?」


「門番は日によって変わるの?」


「……私が門番をするのは初めてです、お嬢様。人手が足りないということで、配属されたのですが……」


 世界から記憶を消す。


 もしその言葉の通りなら、私は昨日の門番の存在自体を、世界から忘れさせてしまったみたいね。両親や姉の存在を世界から消せたら……本当に最高じゃない。


【スキル『1分間の復讐』:カウント開始】


「昨日の門番は私が殺したのよ」


「はい? 何を言って――」


「だからあなたも、私が殺すわ」


 門番その2の首が、ごろんと地面に落ちる。

 間合いを詰めるスピードと剣を振るスピード。今の私は常人離れしていると思う。元々の私の実力もあるかもしれない。でも、復讐スキルのおかげで力が上がっている感じもするわね。


 明日もまた別の門番が配置されることが予想されるけれど……今度はしっかり姉を殺すことにするわ。




 ***




 復讐3日目。


 能力を発動させてから一瞬で門番を殺し、姉の部屋までやってきた。


 だいたい30秒くらいかかったかしら。

 姉の部屋に着くまで、5人の召使いと3人の護衛を殺したのだけど、しかたないわよね。姉の部屋に行くのに邪魔だったのだから。


「あら、呪われっ()のリジーじゃない。よく門番が通してくれたわね」


「お姉様、今日はこの16年間の感謝の気持ちを伝えにきました」


「感謝?」


 顔をしかめるオクタヴィア。


 それもそうね。

 私に感謝されることなんて思い当たるはずがないもの。


「私を今日までずっと存在しないものとして扱ってくださり、ありがとうございます。前に私が助けを求めた時、お姉様は言いましたよね」


 あの言葉は5歳の時に言われた。

 それ以来、忘れたことはないし、その言葉があったおかげで、今日まで復讐心を燃やし続けることができていた。


「存在しないものを助けることはできない、と」


「あら、そんなこと言ったかしら? あんたみたいな呪いにかける言葉なんてなかったはずだけど?」


「そうですね。ですがお姉様、あなたはもうすぐ、最初から存在しないものになってしまうのですよ」


「は?」


 次の瞬間、長年私を虐げ続けてきた姉は死んだ。


 もう時間がなかったというのが惜しいわね。

 できるのなら、ギリギリまで痛めつけて、地下の奥底に監禁し、毎日苦しむ顔を拝みに行きたかった。


 でも、姉に復讐を果たしたこの30秒間は、私のこれまでの人生で何よりも楽しかったわ。




 ***




 姉を殺した翌日、驚いたことに両親から私のもとにやってきた。


「エリザベス、来なさい」


「今日はお見合いなのよ。そんな汚らしい格好で、気に入られると思っているの?」


 最初は状況が理解できなかった。


 でも、少しすると、ある仮説が私の頭を駆け巡った。


 姉の存在がこの世界から消えてしまったということは、この私がアルデンツィ家の長女ということになる。

 つまりそれは――。


「お前のような呪われた()でも、興味があると言ってくれたんだ。早く着替えなさい」


「その顔は何? お父様の言うことが聞けないの?」


 たとえ姉がいなかったとしても、私が長女だったとしても、両親からの呪われた娘としての扱いは変わらない。


 少しだけ期待した私が馬鹿だったわ。


 まあ、仮に両親の態度がよかったとしても、殺すのは確定事項なのだけれど。


「お父様、お母様、今日は改めて、いつもの感謝を言わせていただきたいと思います」


 両親が怪訝(けげん)な表情で私を見る。


 姉と同様、私に感謝される覚えはないらしい。

 親として失格ね。私の知っている親はこの二人だけだから……もしかしたらどの家庭の親もこういう感じなのかもしれないけれど。


 私が世間を知らないのも、住んでいる街について知らないのも、全部この二人のせい。


「ずっとこの日を夢見ていました」


「そうか。お前のような呪われ(・・・)に縁談なんて、夢の話だろうからな」


「いえ、そのことではありません、お父様。私にとって今日は、復讐の日です」


 そう言って、剣を抜く。

 朝日を反射し、刃が鋭く光った。


 もうすぐこれで、両親の体と魂を切れるのね。楽しみでしかたないわ。


【スキル『1分間の復讐』:カウント開始】


「何のつもりだ? セバスチャン、護衛を」


 父が執事のセバスチャンを前に配置する。


 セバスチャンは優秀な執事だ。

 執事でありながらも、普通の護衛よりずっと強い。セバスチャンと王国騎士団長が中庭で訓練していた様子を見たことがあるからわかる。


 ――だとしても、私には敵わないけれど。


 いつものスピードで剣を振る。


 さすがのセバスチャンは私の速度に対応してきた。

 きっと私よりもずっと長い間、剣術の腕を磨き続けたのね。私の剣の腕も相当だと自惚れていたけれど、まだまだだわ。


 ――でも、私には復讐時の補正があった。


 グンと上がったパワーで、セバスチャンを後退させる。そしてそのまま――。


「ごめんなさい、セバスチャン。あなただけは、私に敵意を向けてこなかったのに……」


 セバスチャンは優秀な執事だった。

 だからこそ、自分の感情は出さず、主人の命令に忠実だった。


 私を差別したり、蔑むような目で睨んできたことはないし、セバスチャンに直接酷いことをされたこともない。


 この屋敷の中で、1番が殺したくない相手がいるとするなら、それはセバスチャンだった。


「優秀なセバスチャンは死にました。次は誰の番か、わかってますよね?」


「エリザベス……」


「ぎゃぁぁぁあああ!」


 父が言葉を失い、母が発狂する。

 私の復讐心は二人の顔を見れば見るほど高まっていく。


 そして、両親は無様に、私に全身を切断された。


 最初は腕。その次に脚。そして胴体。最後に首。


 一瞬の出来事だったけれど、少しずつ体の一部を失っていく両親の様子は、見ていてとても気持ちがよかったわ。

 私はついに、やり遂げたのね。


【スキル『1分間の復讐』:カウント終了】


 スキルの発動が終わると、両親の死体は塵となって消えていった。世界から存在が抹消されたということらしい。


「お嬢様、そちらにいらっしゃいましたか」


 しばらく武器庫の前で立ち尽くしていると、焦った様子の執事が駆けつけてきた。

 彼もまた、これまで私に敵意を向けてきたことはない。


「クリント、どうしたの? 何かあった?」


「いえ、お嬢様を見失いましたので、しばらくさがしていたのですが……武器庫で何をされていたのですか?」


「……なんでもないの。気にしないで頂戴(ちょうだい)


「では、屋敷に戻られますか?」


「そうね。そうさせてもらうわ」




 ***




 そうして私は、ようやく真の自由を手に入れた。


 両親と姉への復讐を果たして1ヶ月ほどたつけれど、あれ以来一度も復讐のスキルを使ってない。


 自分の都合のいいようにあの能力を使うのは間違っていると思う。

 だから私は、スキルを封印した。


「クリント、今日もまた街に出かけるわよ」


「エリザベス様は本当に外出がお好きですね」


 アフタヌーンティーを嗜みながら、執事のクリントと会話する。


 今の私はアルデンツィ家の主。


 話し相手にはクリントがいる。

 他の執事やメイドもいる。


 好きな時に外出ができるし、王国はとっても素敵なものがいっぱい。あれから毎日が新鮮で、幸せだった。


 でも、もし。


 また私を虐げるような者が現れれば――。


 ――もちろん、容赦するつもりなんてないわ。






《あとがき》

 スカッとしたい読者に向けて書きました。

 結構サイコパスな主人公ですが、これまでずっと酷い扱いを受けてきたということなので、ご理解ください。


 この作品が面白いと思った方は、下にある★★★★★のところから評価のご協力をよろしくお願いします。

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