9.オオカミを喰らう羊
みずきの言葉に、ダントン王はカチンと来たようだ。
「おい、死刑執行人。
さっきの杖をよこせ」
杖を受け取ったダントン王は、杖でみずきの首めがけて突きを繰り出した。
だが、これも空振りだ。
杖をブンブン振り回して連続攻撃をするが、すべてかわされる。
「おい、お前。
見ていないで、コイツを捕まえろ!」
王に命令された死刑執行人は、手を伸ばしてみずきを捕まえようとする。
だが、これもことごとくかわされた。
王は、明らかにイラついている。
「殺しても構わん。
剣を抜いて、切り殺せ」
死刑執行人は、剣を抜いてみずきに向かって突きを繰り出した。
みずきは叫ぶ。
「雷鳴よ、私を呼び覚ませ」
みずきの体が、光った。
突いてくる剣をかわすと、攻撃の手を取った。
そのまま一本背負いだ。
ドッシーン
甲冑を着た巨体が、地面に激突した。
「な、なんだと?」
その場にいる全ての者たちが、動きを止めた。
自分たちの目の前で起こっていることが理解できないのだ。
リンプーの後ろにいた武者の一人が、ハッと気づいたように一気に跳躍して、みずきのいる方に駆け寄ってくる。
みずきは、やってくる武者に向かって正拳突きを繰り出した。
甲冑の武者は、みずきの一撃を十字に組んだ腕で受ける。
バッチーーン
正拳突きに電撃が乗っているのだろう。
火花が散った。
「ここでお前は、『そんな子供だましの攻撃が我に届くと思うか?』と言う。
だが……、って、あれ?」
みずきは得意げに言い放つが、敵はその場に崩れ落ちた。
「あ、あれ?
あんた達って、見かけほど強くないのね」
「な、何を馬鹿なことを……
レベル100の死刑執行人だぞ。
なぜレベル6の貴様の攻撃が届くのだ」
ダントン王は、信じれらないという表情だ。
「レベル100のアリンコが、レベル6のライオンに挑んで勝てると思うの?
普通、踏みつぶされて終わりだよね。
そういうことだよ」
みずきは、当然のことのように言い放った。
「フハハハハ
貴様は、見かけによらず強者だということだな。
吾輩は、弱者をいたぶり殺すのが大好きだ。
だが、それよりも好きなことがある。
強者を、自分を強者だと思っている奴の心をくじいて、踏みにじることだ」
「あら、そうなの。
私を踏みにじるつもりなんだ。
でも、その前に一つ聞きたいんだけど」
「何だ? 言ってみろ」
「リンプーちゃんを本当に殺すつもりだったの?」
「フハハハハ
聞くまでもないだろう」
「そうなの?
でも気を付けてね。
その返事には、あなたの命がかかっているから」
「どういう意味だ?」
「今からあなたが答えを間違えたら、死ぬってことよ。
自分を強者だと思っている心をくじかれてね」
「意味が分からんな。
レベル6の小娘のくせに、やたら生意気だ。
そして、攻撃を避けることに関しては長けているようだ」
「避けるだけだと思うの?」
みずきは、さっきの攻撃が無かったことにされていることに、少し驚いていた。
「しょせん、レベル6だからな。
貴様ごときを吾輩が相手をすることもあるまい。
死刑執行人ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエル。
この小娘の死刑執行を命ずる。
蹴散らしてしまえ!」
「ハハッ」
四人の死刑執行人が敬礼をして、各々が剣、槍、斧、弓を構える。
「剣と槍と弓かあ。
最後の一人は、盾を持って欲しかったな」
「何を言っている。
盾では、攻撃できないだろうが」
両手で大剣を持ったミカエルが、ズイッと前に出てくる。
みずきは、あっけらかんと答える。
「盾の勇者が一番強いんだよ」
「何を言っているか、意味が分からんわい。
何を言っても無駄だがな。
貴様は、もうここで死ぬんだ」
先頭にいた剣の死刑執行人が、剣をその場に刺す。
そして、いきなりみずきの首を絞める。
「貴様ごときに剣を振るう必要など無いわ。
ひねりつぶしてやる。
首から上を千切り飛ばしてやろうか?」
「出来るモノなら、やってみなよ」
「良いんだな」
死刑執行人が力を込めようとした瞬間だった。
バリバリバリバリーーッ
電撃が走って、死刑執行人は後ろに吹っ飛ぶ。
吹っ飛んだあと倒れて、ピクリとも動ない。
もはや、みずきのことを雑魚だと思う者はいない。
ウリエルが弓を引いて、みずき目がけて矢を連射する。
だが、一発も当たらない。
それどころか、矢は反対側にいたガブリエルの方に飛んでいく。
ガブリエルは、槍で飛んでくる矢を叩き落とすが、矢が一本手の甲に突き刺さった。
「おい、ウリエル。
味方に当てるな!」
今にも仲間割れしそうだ。
「静まれ、静まれーい!」
王が、死刑執行人たちを制止する。
「ハハーッ」
四人の死刑執行人は、その場で動きを止めて直立した。
正確には一人は倒れているから、三人だ。
ダントン王は、みずきを指さす。
「コイツらは、そこのネコ女の親玉ですら怖気づいてしまう強者中の強者だぞ。
それを全く意に介さないとは。
き、貴様、何者だーっ?」
「我は死、世界の破壊者。
とでも言っておこうかしら」
みずきは、ドヤ顔だ。
「外見は同じなのだが、黙って吾輩の攻撃を受けていた小娘とは思えない。
さっきまでとは、まるで別人のようなんだが……」
「そうね。
本当は、この子の中に隠れていた魂なんだけど、黙っていられなくなって出てきてしまったのよ。
だから、別人と言っても良いかもね」
「なるほどな。
貴様は、羊の皮をかぶった狼だったってことか」
「失礼ね。
それって、羊を騙して食べる小ずる賢いオオカミってことでしょ。
私は、違うわ。
言うなれば、オオカミを食い殺す羊ってところかしら」
「「「グヌヌヌヌ……」」」
三人の死刑執行人が、みずきに襲い掛かりたくてウズウズしている。
だが、戦いを続ければ時間の問題で、死刑執行人が全滅することは明らかだ。
「あれっ?
ここは、笑うところですよ」
みずきは、ニッコリと笑った。
ダントン王の顔が引きつっている。
「殺してやるぞ、化け物。
貴様のような化け物は、死んじまったほうが世の中のためなんだよ」
「ウフフフ、そうだね。
思い出しちゃったよ。
昔、よく言われたなあ。
明日の朝日を見たいなら、チカガータの前には立つなって。
それから、一つ言っておくよ。
今の私、すごく機嫌が悪いから」
次のお話は、9月29日(月)投稿の予定です。




