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5.モフモフの虎

 二人は、地下迷宮(ダンジョン)の中を進んでいく。


 敵は出てこない。

 モンスターたちが本当に、リンプーの強さに怖気づいているのだろうか。

 でも、地上への道は遠かった。

 何時間も歩いて、階段を登って、また歩いて、階段を登る。


 みずきがゲームの世界に入ってから、半日以上経っている。

 ベッドの上でVRゴーグルを着けた自分は、どうなっているのだろう?

 夕飯も食べないでゲームをしていたとばれたら、かなり怒られそうだ。


 みずきは、お腹が減って来た。

 ゲーム内なのに、おかしいとも思ったが、お腹が鳴った。



 地下なので太陽は出ていないが、なぜか明るい。

 こんな所に木が生えている。

 光合成しているのかな?

 みずきは、緑の葉っぱに違和感を抱いた。


 リンプーが、一本の木の下で立ち止まる。


「そろそろ、休憩しようか?」

 リンプーは、背中に背負っていた毛布を広げて、その上に座った。


 バックパックから、パンを二切れとハムを取り出した。

 手の平から炎を出して、パンとハムを焼く。

 それを見て、みずきは(やっぱり、これは現実じゃないよね)と一人納得していた。


 リンプーは、さらにその辺に落ちていた木の枝を集めて火をつける。

 ちょっと暖かい。


「こんなモノしか用意できなくて申し訳ないけど、場所が場所だけに我慢してね」


 みずきは、手渡されたパンとハムをかじって、思わずつぶやく。

「美味しーッ」


「でも、日本人の夕食としては、物足りなかったんじゃない?」


「そんな大食漢じゃないからね。

 お腹が空いていたからかもしれないけど、すっごく美味しかったよ。

 これで、牛乳があれば完璧だったよ」


「みずきーっ」

 リンプーが抱きついてくる。

「えっ、えっ、何?」


「喜んでくれて嬉しいんだよ。

 アタイも実は、こんな地下迷宮(ダンジョン)を一人で旅するのは寂しかったんだ。

 みずきと一緒に冒険出来て、アタイも嬉しいんだ」


「えっ……、えーと……」

 みずきは、どうしていいか分からない。

 ただ、何となく愛おしい気がしてリンプーを抱きしめて、背中をポンポンと軽く撫でるように叩いた。



 五分ほど、二人はそのままの状態だった。

 お腹がいっぱいになっているせいだろうか。

 みずきは、あくびをしてしまう。

「あっ、ごめんなさい」


「いや、気にすることは無い。

 寝なければ、体を壊してしまう。

 寝るとしよう」

 リンプーは、毛布の上で横になった。


「じゃあ、交代交代こうたいごうたいで休む?」


「その必要は無いよ」


「でも、いくらリンプーが強いって言っても、寝てる間に襲われたらどうしようもないんじゃない?」


「アタイの本来の姿に戻れば、襲い掛かろうなんて奴はいないよ」

 リンプーのいた場所に、体長2メートルを超える虎がうずくまっている。


「えっ、リンプー?」


「ああ、アタイはネコ族というか、獣の中で最強だからね。

 寝てる虎に近づくバカはいないよ」


 みずきは、虎のお腹の部分にうずくまるように寝転がった。

 フカフカだ。

「何だか、しあわせー」


 みずきの思いっきりくつろぐ姿を見て、リンプーは目を細める。

「アタイも幸せだよ」



 たくさん歩いたせいか、あまりにも寝心地が良かったせいか、フカフカの毛皮の感触を楽しむうちに、みずきは眠ってしまった。

 よほど疲れていたのだろう。

 ハッと目を覚ますと、目の前の焚き火は燃え尽きていた。

 焚き火が燃え尽きても、リンプーの体温のせいか体はヌクヌクだ。

 心もヌクヌクなような気がした。


 眠る前に、リンプーも一人で寂しいと言っていた。

 こんな地下迷宮を一人でさまよっていたみずき。

 寂しい二つの心が触れ合って、ぬくもりを感じたのだろうか。



「ハアーーッ、ずーーっとこうしていたい」

 みずきは、モフモフの幸せをかみしめる。


「アタイも、ずーっとこうしていたいさ」

 リンプーの言葉には、『でも』という言葉が続きそうだった。

 みずきは、そっとささやく。

「じゃあさ、しばらくここで、こうしてる?」


「そうだな。そうしたいのは山々なんだけど、そういうわけにもいかないんだ」


「えっ、どうして?」


「アタイは、この迷宮の出口に用があるんだよ。

 あまりゆっくりは、していられない。

 アタイをご指名なんだよ」


「ご指名って、国王ダントン・ダンツィッヒが?」


「まあ、そうだね」


「そんなご指名、ブッチしちゃったらダメなの?」


「そうだな。でも、そうすると地獄の山猫軍団(ヘルオセロッツ)のみんなが困るんだ。

 アイツは凄まじく強い。

 そして、その側近も強いうえに数が多い。

 怒らせたら、まずいんだ」


「でも、地獄の山猫軍団(ヘルオセロッツ)は、ラスボスなんでしょ?

 国王なんて、やっつけちゃったら良いんじゃない?」


「確かに地獄の山猫軍団(ヘルオセロッツ)には、飛びぬけて強い奴らがいる。

 アイツらが本気で闘えば、やっつけられるかも知れないな。

 でも、頭である女王が怖気づいてしまっているんだ。

 アタイたちネコ族は、女王には逆らえない」


「フーン、じゃあ、どっちかって言うと、その女王様の命令で迷宮の外に行くんだね?」


「まあ、そういうことになるな」

 リンプーは、みずきからスルッと離れると元のネコ耳少女に戻った。

 そしてまた、枯れ枝を集めてきて火を点ける。


次のお話は、9月20日(土)投稿の予定です。

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