14.また会う日まで
みずきは、アジサイにも謝る。
「アジサイさんも、ごめんなさい。
私は、この後また引っ込んじゃうから。
本当のみずきは、あなたに出会ったことも覚えていないと思う」
アジサイは、少し悲しそうな顔になる。
「それでは、あなたは何者なんですか?
また、会えますよね?」
「私は、猫見みずきの体の中に居候している魂の一人です。
彼女の魂は、幾度も転生しているせいで、たくさんの魂の集合体になっています。
私の影響も多少は受けていると思いますけど、大人しいみずきが戦う人になって欲しくないから、多分もう出てこないと思う。
みずきは、普通の高校生として暮らしていくから、あなた達との接点ももうないと思うし」
「それは残念だわ。
私には、前にも話したように、復讐したい敵がいます。
彼は勇者と呼ばれていて、強い仲間もいます。
あなたのようなラスボスを仲間に入れたかった。
痛恨です」
アジサイは、涙目になっている。
悲しむアジサイをカスミが慰める。
「そんな気い落とさんときいな。
ウチも頑張って、もっと強くなるから。
アジサイの支援魔法を理解して活かせたら、まだまだ強くなれると思うねん。
その勇者もウチが倒したるから」
カスミが、アジサイの肩をポンポンとたたく。
リンプーもアジサイの肩を抱く。
「アタイも、アンタたちに比べたら弱々だけど、出来ることは協力するから。
弱いかもしれないけど、地獄の山猫軍団は百匹くらいいるから。
数は力って言うからね」
「ありがとう。
期待しているわ」
アジサイは、リンプーの手を取ってお辞儀する。
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ベッドの上で、みずきは目を覚ました。
ヘッドセットとゴーグルが頭からずれて外れかけていた。
「い、生きてる。私、生きてる。
泣いて諦めて、終わったはずだったのに……
やっぱりあれは、夢だったのかな?」
時計を見ると、ゲームを始めてから1時間後を指している。
「まさか、丸一日寝ていたのかな?
だとしたら、クロとシロはお腹ペコペコなんじゃないかしら」
みずきは、ネコたちの食器を確かめる。
だが、空っぽになっていない。
一日餌をあげていなければ、カリカリが一粒も残っていないはずだ。
かけら一つ残さず、舐めとられているはずだ。
「これは、一体……
どういうこと?」
とてもじゃないが、1時間やそこらの時間では無かった。
迷宮の中を何時間も、ただただ歩き続けて、疲れてお腹が空いて、リンプーと一緒に食事して眠ったはずなのだ。
楽しくお話もしたし、つらい目にも遭った。
リンプーの虎の毛皮の触り心地の良さをハッキリ覚えている。
左手の中指に見覚えのある指輪が、はまっている。
「この指輪。やっぱり夢やゲームの中の出来事じゃないように思う」
みずきは、現実にリンプーに会ったと思いたかった。
リビングに行くと、夕食の用意がされていた。
特に何か言われることも無く食事を済ませたので、VRゴーグルをかぶってから、本当に1時間しか経っていなかったようだ。
それってちょうど、バックルームに落ちたくらいの時間じゃないだろうか。
今日の出来事は、時間も空間も何もかもが理解不能だ。
翌日、みずきはまたゲームを始めて、スポットランドのお城に行ってみたが、昨日落っこちた場所は探し出せなかった。
また落ちるのは勘弁して欲しいが、本当に何だったのだろう。
同じ目に合っている人がいるのではないかと、ゲームの攻略ウイキ等を必死で探してみたが、バックルームみたいなところに落ちたとか、そういう話題は無かった。
ただ、その数日後、ダントン王のクエストで潜る地下迷宮の話題が、検索サイトの勢い急上昇トピックになっていた。
地下一階に、最強に強化したパーティーが瞬殺される、ラスボスと思われる敵が出現したという話題だ。
そこから先のダンジョンの探索が出来ないので、運営にクレームが殺到しているらしい。
ゲームウイキの掲示板も、新ダンジョンへの話題で一杯だ。
「GAOの新ダンジョンがクソゲーなんだが」
「ラスボスを地下一階配置ってGAOの運営ゲームの基本分かってねえ」
「4人Lv100×5パーティーを瞬殺するヘルオセが攻略不可能な件」
「GAOの新ダンジョンがこの先生キノコるには?」
最初は皆、情報を集めようと必死だったようだが、潮が引くように閑散とし始めた。
運営も、このダンジョンは無かったことにしたようで、次のDLCが告知された。
地下2階から下を作っていなかったんだろうと、動画配信者から馬鹿にされまくって、運営会社の株価は急落したそうだ。
みずきが経験したのは、夢だったのか現実だったのか、今となっては分からない。
リンプーとはまた会いたいとは思うものの、あの時あのタイミングで彼女に出会わなければどうなっていたか。
相当運が良かったと言えるだろう。
命の危険を感じたので、別のゲームをやるようになった。
しばらくして、みずきが学校帰りに自転車を走らせていた時だった。
道のわきのブロック塀の上に、少し大きめのトラ猫が寝そべっている。
みずきは、無意識に自転車を止めてつぶやいた。
「り、リンプーなの?」
トラ猫は、ピョンッとブロック塀から飛び降りると、みずきの足元にじゃれついた。
「ウフフフ
可愛いトラ猫ちゃん。
まあ、君がリンプーちゃんな訳ないよね」
話しながら、首の下を撫でる。
ふと、この猫が細い首輪をしていることに気づいた。
「そっか、君は飼い猫なんだ。
だから、こんなに人に慣れているんだね」
でも、首輪に付いている飾りを見て、みずきはハッとする。
ウインクするネコの顔の飾りが付いていたのだ。
「こ、これは……」
驚くみずきの手をすり抜けて、トラ猫は走り去って行ってしまった。
「やっぱり、あれは現実だったんだ。
リンプー、また会えるよね」
みずきは、独り言のようにつぶやく。
すごく嬉しそうに。
私、ラスボスじゃありませんからっ! 本編につづく




