13.ラスボスの要望
リンプーは、みずきに肩を借りて立ち上がった。
みずきにハンカチを借りて、顔の血をぬぐった。
肩を借りたままヨロヨロと歩いて、玉座の前に着いた。
「それじゃあ、リンプーさん。
王様に向かって、お願いをどうぞ」
アジサイが促すが、リンプーは困った面持ちだ。
「いや、王様は完全に意識を失っているだろ?
お願いを言っても、聞こえていないと思うんだが」
「大丈夫ですよ。
ほら、手を振っていますから」
アジサイの言う通り、王様は手を振っている。
だが、頭は傾いていて目も閉じたままだ。
(あれって、アジサイさんが魔法で動かしているだけだよね)
みずきは、そう思ったが口には出さなかった。
「さあさあ、リンプーさん」
アジサイに促されて、リンプーは戸惑いつつも玉座の前でひざまずいた。
「それでは申し上げます。
我々の守備位置を地下50階から、もっと上層階に変更していただきたいのです」
王は、首を縦に2回振った。
玉座の後ろに震えながら立っている甲冑の武者二人に、アジサイが聞く。
「あなた達、今の様子を見ていましたね?」
武者の一人が、恐るおそる答えた。
「あ、ああ。しかし、首を振ったのは王の意思では無いように……」
「あなた、今何か言いましたか?
まさか、王が自分の意思を示すことが出来ない状態にされているのに、護衛の者たちが何もしないなんてありませんよね。
王が意識を失っているというなら、私たちにかかって来なさい。
王は、自分の意思で首を振ったのです」
アジサイがすごむと、武者は黙った。
カスミが念を押す。
「リンプーが酷いことされてんのに、アンタらは黙認したんやろ。
ある意味、アンタらも同罪や。
王とおんなじ目に合わされても、文句は言えんはずやで」
アジサイが口を開く。
「もう一度聞きます。
あなた達、今の様子を見ていましたね?」
シーンと静まり返る。
二人の武者は、顔を見合わせている。
「返事は?」
アジサイに促されて、二人は声をそろえる。
「「はいっ」」
「よろしい。
じゃあ、王が元気になったら、あなた達から説明してあげてくださいね。
王は元気に手を振って、私たちに要望を伝えさせて、それを快諾していたと。
猫娘相手に意識を失っていたはずは無いって。
あ、そうそう。
私たちの女王様から、ダントン王に伝言がありました」
「で、伝言?」
武者たちは身構える。
「『女王は、あなたに忠誠を誓っています』だそうです」
「忠誠を誓った女王の部下が、この仕打ち?」
小声で疑問を呈する武者に、アジサイがニッコリ笑った。
しかし、目は笑っていない。
「これからも仲良くしていきましょうってことですよ」
カスミもニッコリ笑う。
「そしたら、ウチらは地下一階に移動するな?
ボスが許してくれたんやから、問題ないやろ?」
武者の一人が持っていた剣を取り落とす。
「ち、地下一階?
ラスボスが地下一階って……
そ、それはいくらなんでも……」
「なんや? 文句あるんか?」
カスミが、左手の平を右手のパンチでパーンッと叩いて見せた。
武者たちは、ビクッとした。
「は、はい。分かりましたあ」
二人の武者は、思わず敬礼してしまった。
アジサイが呆れた様子だ。
「本当に、自分より圧倒的に強い相手とやり合ったことのない奴って、芯が通って無いわよね。
でもまあ、これで地下迷宮の外に自由に出入り出来るようになりました」
みずきは思う。
(地下迷宮のラスボスが出入り自由って、良いんだろうか?
地下迷宮の周りで、被害続出なんじゃない?)
ちょっと考え込んでいたカスミが、口を開いた。
「せやけど、なんで女王様はリンプーを一人で行かせたんかな?
ウチら二人で来たら、万時解決やったのに」
アジサイが呆れ気味に言う。
「そりゃそうでしょ。
あなたも私も、女王様の前で一回も強さを見せていないじゃない。
私たちは、文句ばっかり言う穀つぶしだと思われているわよ」
「そおかあ、リンプー、ごめんな。
ウチらが強いことを女王様に知っとってもらったら、アンタがこんな目に逢わんかったんやなあ」
カスミが申し訳なさそうに、しおれている。
「い、いや。
アタイが弱すぎただけだ。
アンタが気にする必要は無いよ」
リンプーは、力を振り絞って強がって見せる。
「無理しなくて良いよ」
リンプーの後ろから、みずきがギュッと抱きしめた。
「みずき。嬉しいけど、本当にアンタはアタイと一緒に冒険したみずきなのかい?
弱くて、それでも一生懸命強敵と戦っていたみずきと、強敵を難なく蹴散らしていくアンタ。
同一人物とは思えないんだ」
リンプーは、少し訝しんでいる。
「ごめん。あなたと一緒に冒険していたみずきは、今意識を失っていると思う。
今の私は、後ろからのぞき込んでいた、何て言うか……
傍観者ってやつだったのかな?」
「だろうね。
明らかに、私の知っているみずきと違うものね」
「本当にゴメン。
私は、たとえみずきが死んでも、出てこないつもりだったんだ。
心に決めていたのに……
ホントに、私ってダメな奴だなー。
ダメダメだよー」
リンプーは、吹き出す。
「アハハハ
魂は別人なのかも知れないけど、やっぱりアンタはみずきだよ。
アタイの知っているみずきで間違いないよ」
「ええっ、そう?」
「そうだよ。
出てきてくれて良かったよ。
そうじゃなきゃ、みずきが死んじゃったんだろ?
そんなの悲しすぎるから。
出てきてくれて、ありがとう」
「そんな風に言ってくれて、ありがとう」
みずきは、リンプーをギューッと抱きしめた。
カスミが、なんだか複雑な表情でそれを見ていた。
「何? あの二人が仲良くするのが気に入らないの?」
アジサイに聞かれて、カスミが答える。
「いや、うらやましいだけや」
次回更新は、10月8日(水)の予定です。




