11.私、ラスボスじゃありませんから
「オイッ、貴様らっ!」
ダントン王が、叫んだ。
だが、みずきを含めて三人とも全く何の反応もしない。
お互いを探り合っている、みずきと二人のネコ耳娘の間には、何者も割って入れない。
みずきは、まず金髪の女子に警戒心が隠せない。
「あなたは、ここの死刑執行人たちを何とも思っていませんよね?」
「そうですね。勇者の強さに比べたら、アイツらが私の視界に入ってくることはありません」
「そう。でも、そのアウトオブ眼中の敵を相手に、私はこんな風に傷だらけなんですけど。
そんな私が、ラスボス?」
みずきは、自嘲気味に言った。
「いいえ。あなたの強さは、この部屋の中で頭一つ抜けています。
私は、私のいた世界を勇者に滅ぼされて、その勇者を追いかけて、この世界に来たのです。
勇者への復讐を果たすために最強の戦士を探して、そこにいるカスミを見つけたのです」
「へえー。
そっちの人はカスミさんっていうんだ。
なるほどねー」
そう言われて、カスミはみずきの方に一礼する。
「カスミ・オミクレーって言います。
今後ともよろしくお願いします」
それを見て、みずきは話を続ける。
あの扉をブチ破るような輩が、自分には丁寧にあいさつしてくれるのは、すごい違和感を感じていた。
「私は、猫見みずき。
私、ラスボスじゃありませんから。
普通の高校生です。
それで、あなたの名前は?」
みずきが聞くと、金髪のネコ耳女子は丁寧にお辞儀する。
「私は、アジサイです。
アジサイ・オルテンシアです。
カスミは、今まで私の周りにいる者の中で最強だったのですが、勇者相手では物足りなさを感じていました」
カスミと呼ばれた女子は、呆れたようにため息をつく。
「なんや、アンタ。
ウチのことをそんな風に思っとったんかいな」
みずきは、とりあえず質問する。
「でも、勇者って……
そんな人が世の中に存在するの?
現実世界で見たことも聞いたことも無いんですけど」
アジサイが答える。
「います。
世の中に知られてはいませんが、今ここのような地下迷宮が、世界中に出現しています。
これは、異世界からモンスターもまとめて転移してきているのです」
「ええっ?
じゃあ、その勇者も異世界から来ているってことですか?」
「いいえ。
私が復讐したい勇者は、この地球の者です。
逆に彼は、異世界の魔物を倒して成長したのです」
みずきは、アジサイの言葉に反応する。
「この世界のことを地球って呼ぶってことは……
もしかして、アジサイさんたちも異世界から来たんですか?」
「そうですね。
私のいた世界は、もう存在しませんが……
カスミやリンプーたちは、この地下迷宮と一緒に転移してきたそうです。
二人は、元々地獄の山猫軍団の一員だったので」
みずきは、虎の尾を踏むことを危惧しつつ、突っ込んだ質問をする。
「地球にいる勇者は、異世界の魔物を倒して成長した。
アジサイさんのいた世界は、その勇者に滅ぼされた。
つまり、勇者は異世界を滅ぼす存在?
私の知っている勇者は、異世界の悪を倒して救う存在なんですけど」
アジサイは、ため息をつく。
「私の知っている勇者は、異世界に乗り込んでいって、勝手に世界を救ってやる的な活動をする人。
異世界を自分本位に救うから、異世界の破滅でも何でもありなんです」
「オイッ!」
ダントン王が、しびれを切らしたように叫ぶ。
だが、アジサイもカスミも、それを一顧だにしない。
アジサイは、感激の面持ちだ。
「でも、みずき様に出会って確信しました。
あなたこそ、勇者を倒すラスボスだと」
みずきが、返答に困っている横からダントン王が再度叫ぶ。
「おい、貴様らっ。
謁見の間に来て王を無視するとは、一体どういう了見だ?」
カスミが謝る。
「ああ、ごめんごめん。
ネコの女王様から、とても地獄の山猫軍団では対処できないような激強の王様やって聞いとったから。
今日は、王様は不在なんやと思っとったわ。
アンタが王様やったんか。
なんや拍子抜けやなあ」
「王に向かって、舐めた口をききおってーっ!」
カスミの後ろにいた斧を持った死刑執行人が、カスミの頭目がけて斧を振り下ろす。
ガキーン
いつの間にか彼は、3メートルほど瞬間移動していた。
斧の一撃は、弓を持った死刑執行人の脳天に直撃した。
鋼鉄の兜をかぶっているとはいえ、その衝撃はかなり大きかったのだろう。
弓を使う死刑執行人は、フラフラとその場に倒れた。
カスミは、アジサイに礼を言う。
「アジサイ、とりあえずおおきにな。
でも、守ってくれんでも大丈夫やったで。
こんな斧の攻撃で、ウチが傷つくはずないから」
斧を持った死刑執行人が、悔しそうに吐き捨てる。
「俺様の斧で傷つくはずがないだと?
くだらないハッタリをかましやがって」
「別にハッタリやないけど。
なんなら、斧で殴らしたろか?」
槍を持ったガブリエルが、口を挟んだ。
「そう言っておいて、殴る瞬間にまた別の場所に転移させるんだろ。
クソッ、最強の戦士が俺たちだけになってしまった」
アジサイが、凄い顔でガブリエルをにらむ。
「誰が最強の戦士ですってえ?
最強っていうのは、最も強いってことですよ。
この場で一番弱いくせに、生意気にもほどがありますっ!」
アジサイがガブリエルの方に一歩進んだ。
ガブリエルは、後ろに下がる。
アジサイは、二歩三歩とズンズン進んでいく。
ガブリエルは数歩下がった後、その場にへたり込んだ。
「ちょっと威圧されただけで、腰を抜かしてその体たらく。
口だけの戦士は、サッサと退場しなさい!」
「ヒイッ、いや、お、俺は、手にケガをしているから……」
手に刺さった矢を見せる。
「退場しなさいと言ったのが聞こえなかったの?」
アジサイににらまれて、死刑執行人は、這う這うの体で逃げ出した。
アジサイが顔をもう一人の方に向けると、もう一人も斧を放り出して逃げ出した。
次回更新は、10月3日(金)の予定です。