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1.バックルーム

「見つけました。見つけましたよー」

 見たことも無いネコ耳女子が、ウルウルした目でこの物語の主人公を見つめている。

 ネコ耳女子は、金髪で前髪バッツン、眼鏡をかけている。


 主人公である普通? の女子高生 猫見みずきは、思わず聞き返す。

「えっ、何?」


「ついに、見つけましたー」


「だから、何を?」


「ウフフフ、この世界のラスボスです」

 ネコ耳少女は、笑っている。

 ただ、目は笑っていないようにも見える。


「何、それ?」


「世界最強の勇者を倒す者です」


「いやいや、ラスボスって言ったら、最後は勇者に倒されちゃうやつじゃないの?

 それに私、世界を滅ぼす気とか無いですけど」


「ゲームの世界ではそうですが、現実は違います」


「どういうこと?」


「この世界には、復活の呪文などありません。

 教会で甦るなんてこともありません。

 たとえ勇者だろうと主人公だろうと、死んだら終わりなんです」


「それって、ラスボスもでしょ」


「ゲームの世界では、ラスボスは一度死んだら終わりですが、勇者は違います。

 でも、現実世界では、そうはいきません。

 勇者も一度死んだら終わりなんです。

 そして、ラスボスを一発で倒せるゲームはありません。

 最初の対戦では、必ずラスボスが勝つんです」


「フーン、それでそのラスボスさんは何処に?」


「いやいや、あなたですよ」


「えっ、私?

 私は普通のJKですよ」


「まあ、ラスボスかどうかというのは、本人は自覚していないかも知れませんね」


「でも勇者を倒すって、別にラスボスである必要ないですよね。

 勇者が育つ前に倒されるとか、初見殺しとか、ゲームの中ではいくらでも勇者が倒れるイベントは、ありますよ。

 ゲームの中では、セーブデータからやり直せますけど」

 みずきは、筋金入りのゲーマーだ。

 ゲーマーとしての見解を述べた。


 ネコ耳少女は、ちょっと残念そうな顔になる。

「もうこの世界の勇者は、育ち切ってしまいました。

 さらに慎重な勇者なので、初見殺しには簡単にはかかりません」


※初見殺し

ゲームなどで、初めて体験した時に必ず食らってしまう攻撃のこと。

予備知識なしでは、回避や防御のしようがない攻撃のことを指す言葉。



「じゃあ、ダメじゃん。

 そんな勇者を私が倒せるとは思えないけど」


「いいえ、大丈夫です。

 あなたは十分強いですし、私もサポートしますから」


「それって、勇者を倒したいってこと?」


「はい」

 ネコ耳のメガネ女子は、真剣な顔でうなずいた。


------------------------→


 時間を少し遡る。




 この物語の主人公は、猫見みずき 16歳。

 西日本にある県立高校の1年生。


 彼女は、学校から帰るとベッドに腰かけて、日課になっているゲームの準備を始める。

 二匹の猫が膝の上に乗っかって来る。

「リュウ、ニーナ、ちょっと待っててね」

 少しの間ネコの耳をモフモフすると、立ち上がり、ネコの餌を用意した。


 ネコたちが餌を食べ始めると、自分も牛乳を一杯飲んだ。

 ネコたちが食事を終えてじゃれあっているのを確認すると、頭にVRゴーグルを装着して、ベッドに横になった。


 始めたのは、VRMMORPG ジーク・アート・オンライン。

 長いので、以後GAOと略します。


※VRMMORPG

 バーチャルリアリティーで現実に近い感覚でプレイ出来る、多人数参加型のロールプレイングゲーム

 (Virtual Reality Massively Multiplayer Online Role-Playing Game)



 このゲームは、最近大流行中で日本の10代の半分以上がアカウントを持っているとも言われている。

 ソロ(一人)でもプレイできるが、プレイヤー仲間とパーティーを組んで様々な苦難を乗り越えることが最大の売りだ。

 ただ、猫見みずきには友達がいないので、ソロプレイだ。



 彼女の今日の目標は、最近実装された新しいクエストの様子見だ。

 ここ数日の自分のミッションとして楽しんでいる。


 GAOの世界は広大だ。

 その世界の中で北方に位置する国、スポットランド。

 その国の国王ダントン・ダンツィッヒから直接受けられるクエストがある。


 ゲームの公式サイトの情報によると、

 王城の地下迷宮を冒険して、最凶のモンスターを討伐するという内容だ。

 その最凶モンスターは、一匹ではなく群れを成していて、最強の冒険者が束になっても敵わないらしい。


 クエストを受けるには、王城の近くに巣食うモンスターをある条件で一定数倒してポイントを稼がないといけない。

 その条件は、一人ソロでは満たせない。

 みずきは、他のプレイヤーと協力してパーティーを組んで戦うことが出来ない。

 現実世界でコミュ障なので、ゲーム内でも他のプレイヤーと触れ合いたくなかったのだ。


 そのため、このクエストを受けることが出来るだけのポイントを稼ぐのは不可能に近い。

 ポイントを稼がなくてもクエストを受ける方法は無いか、王城の地下迷宮への抜け道は無いか、ちょっと調べてみたかった。

 城の中に入ってしまえば、王様からクエストを受注しなくても、地下迷宮を見に行けるかもしれない。

 普通じゃない手段でクエストを受けたり、隠しキャラに会ったりすることも、彼女のゲームの楽しみ方の一つだった。

 だから、王城の近くを探検する。


 昨日、正攻法でお城に入ろうとして、門前払いされてしまった。

 ゲートを通るためのポイントを稼いでいないのだから、当たり前なのだが。

 だから今日は、城壁沿いにお城の周りを一周してみようと考えていた。


 城門からずっと一人で歩いていく。

 都度々々城壁を調べていく。

 石で出来た城壁は結構リアルに作られていて、見る限り石は全く同じパターンでは積まれていない。

 時々、石の間に隙間が空いていて、微妙に動く石もある。

 隠し扉があるかも知れないし、通り抜けできる壁があるかも知れない。


 城の中に入ってしまえば、色々出来るかもしれない。

 そう思って調べていると、一ヶ所怪しい場所が見える。

 パターンが不連続な上に、ちょうど扉の形に不自然に継ぎ目が並んでいた。


 みずきは、そのパターンの前に立って扉の形の部分を押してみる。

「よいしょ、よいしょ。

 ビクとも動かないな。

 何か、呪文とかアイテムが必要なのかな?」

 彼女は、つぶやいた。



 しばらく色々と試した後、みずきは振り返る。


 と、その時だった。

 突然、足元に地面が無かった。


 ドッシーン


 どうやら落とし穴に落ちてしまったようだ。

「イテテテ。

 ゲームの中なのに、どうしてこんなに痛いんだろう。

 まるで現実みたい」

 みずきは、尻もちをついて痛んだお尻をなでた。



「ステータス」


「インベントリー」

 いくつかコマンドを唱えてみたが、何も起きない。

 ステータスと言えば、目の前に自分の能力値や健康状態が表示されて、インベントリーと言えば、持ち物の一覧が表示されるはずなのに。


 ただ、ゲーム内で装備していた忍者刀は背中に背負っていた。

 現実の猫見みずきは、忍者刀なんて持っていない。

 着ている服などもゲーム中のモノだ。

 突然、こんなにリアルになるなんて訳が分からない。

 知らないうちに、システムアップデートが実行されたのだろうか?


「やっぱりゲームの中なのかな?」

 ベルトにポケットが付いている。

 そのポケットの中に、クナイや薬瓶のようなゲーム内アイテムも持っている。

 薬瓶の中身は分からない。

 回復薬なのか毒消し薬なのか分からないので、飲んで確かめるわけにもいかない。

 飲んでみて、もし武器代わりに使う火炎びんとかだったら、目も当てられない。

 匂いを嗅いでみるが、回復薬ならどんな匂いがするのか知らないので、判断もつかない。


 どうやらゲームの世界にいるようだが、ログアウトすることも出来ない。

 匂いや痛みなど、これまでゲーム内では存在しなかった感覚もある。

 ゲームの中なのだろうか、それとも現実?


 とにかく、あたりを見渡す。

 何もない部屋のようだ。

 光源も見当たらないのに、なぜか明るい。

 壁や天井が光っているのだろうか?


 足元は、茶色く湿気を帯びた異臭を放つカーペット。

 壁は一色。

 狂気じみたモノイエローの壁紙が貼られている。

 果てしなくどこまでも続く空虚な空間だ。


「もしかして、ここって……

 バックルーム?

 ネット上の都市伝説だと思っていたけど。

 そうだとしたら、VRゲームの中から落ちるって、意味が分からない」


※バックルーム

この現実世界とは切り離された場所に存在する未知の異空間の総称。

都市伝説だとも言われている。

ただ空虚で不気味な明暗差のある空間だけがどこまでも続いているだけのある種「裏世界」のような場所。

現実世界でうっかり "外れ落ちる" ことで意図せず迷い込むことになると言われている。


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