第4話 裏切りの恋情(side:ジェニング)
【注意】
※性描写あり
僕とフィオーリと出会ったのは13歳の時。
琥珀色の耀きを纏う金髪に朝焼けに染まる瞳を持ったとても可愛らしい女の子。
それが彼女に抱いた第一印象だった。
そして僕たちはすぐに意気投合した。
その後、お互い15歳の時に婚約し、18歳で結婚。
時に笑い合い、時に喧嘩し、そして互いに寄り添う。
きっと僕たちは良い夫婦になっていける。
そう思っていた。
実際、結婚してからも僕たちは穏やかな日々を送っていた。
いつも一緒に出掛け、共に時間を分け合った。
周りからは『おしどり夫婦』なんて揶揄われる事も。
子供はできなかったけれど、別に焦ってはいなかった。
何より君と過ごす日々が幸せだったから……
この先も共に歩む人生……そう思っていた。
ロージーが現れるまでは―――――
僕たちが結婚4年目を迎えた年に、ロージーと出会った。
新人の侍女として雇用した彼女はヨークス男爵家の娘だった。
淡いピンク色の髪色に宝石のような金色の瞳。
きめ細かな白い肌に柔らかそうな唇が艶めかしい
初めて彼女の姿を見た時、僕の目は惹きつけられた。
だがそんな感情はすぐに振り払った。
けれど、振り払えば振り払うほど、彼女の姿が目に浮かぶようになっていく……
ロージーは働き者だった。
いつもにこやかで彼女がくれる気遣いに、僕は癒された。
「旦那様、こちらは私が焼いたチョコレートブラウニーでございます」
「え、君がかい?」
「はい、お疲れの時には甘い物を召し上がると良いといいます。よろしければ…」
僕の為に…?
通常、侍女の作った物を主人に出す事はない。
我が家にはきちんと料理人がいるのだから。
だが、彼女の心遣いが嬉しかった。
口にしたブラウニーは舌が蕩けるほどに甘かった……
ある日、お茶を運んできた彼女の目が涙で濡れていた。
「何かあったのか?」
さすがに気になり声をかけると
「い、いえ…わ、私が悪いんです。奥様のお気に入りのティーカップを割ってしまって…」
「…それで妻が君を、泣くほど叱責したと? カップを割ったくらいで?」
「私が不器用なのが悪いのです…っ 申し訳ございませんっ」
フィオーリが相手を泣くほど叱責するなんて…見た事がない。
何か行き違いがあったのでは…?
けど…彼女は人を注意する時、言い方がきつくなる事もある。
「彼女はたまに口調がきつくなる時があるが、根に持つ人間ではない。これから気を付ければいいから」
「は、はい」
明るい素振りで返事をする彼女がいじらしいと思った。
その夜フィオーリに、侍女への言動を改めるよう注意したが、彼女は自覚がないようで僕の言葉に納得していない様子だった。
この時の彼女の態度に、僕は苛立ちを覚えた。
またある日、ロージーが頬を赤く腫らしていた事があった。
「その頬はどうしたんだ!?」
「あ、ちょっと…けど、私が悪いのですっ 奥様をご不快にさせてしまって……」
「何だって? 妻が殴ったというのか!?」
にわかには信じられなかった。
あのフィオーリが使用人に暴力を振るうなんて事がある訳がない。
しかし…今、目の前の彼女の頬は腫れている。
「い、いえっ 違いますっ 私が悪いのですっ 奥様のお部屋を掃除している際に、お二人が写られているお写真を落としてしまって…その拍子にガラスが割れてしまったのです……奥様があわてて拾われようとされたのでお止めした時に振り払われた手が偶然当たっただけです。奥様はすぐに謝罪して下さいました」
「…振り払う?…」
「きっと…使用人の私に、大切なお写真を触られたくなかったのだと思います……当然です…」
そう言いながら悲し気に目を伏せる彼女を見て、やるせない気持ちになった。
「彼女がそんな事を……いや…偶然とはいえ、君にケガをさせてしまって申し訳ない事をしたね。妻には僕から注意しておくよ」
「いいえっ お止めくださいっ そのような事をされたら、奥様のご気分を害してしまいますっ そもそも粗相をしてしまった私が悪いのですから。それに…そんな事されたら後々、奥様のお世話をしづらくなってしまいますので……」
「……だが…」
そうだ…最近、僕はフィオーリに対して侍女への態度に口を出すようになっていた。彼女は自身の言動に自覚がない様子で、僕の苦言を理不尽に感じている節がある。
どうにも最近、フィオーリと気まずさを感じる。
だから、これ以上口を出さない方がいいのかもしれない。
ロージーに謝罪したそうだし、侍女に関しては伯爵夫人であるフィオーリの管轄だ。それに、僕がフィオーリを注意した事で、ロージーが責められるような事があってはならない。
……けれど、ロージーの事が気になって仕方がない。
「旦那様はいつもお優しいですね。一介の使用人を気にかけて下さるなんて…」
健気な笑顔をみせる彼女に、胸の鼓動が高まる。
フィオーリとの間に心のずれを感じるようになった反面、日に日にロージーとの距離が近づいているような気がした。
ダメだ!
これ以上、彼女に心を向けてはいけない!
そう自身を戒めながら、開きかけている感情に蓋をした。
だが…とうとうその蓋を開けてしまったあの日……
執務室を出ると、誰もいない廻廊で涙している彼女の姿があった。
「どうしたのだ!?」
「だ、旦那様っ!」
慌てて左手首を隠すロージー。
「…何を隠したんだ」
「な、何でもございませんっ あっ」
僕は無理矢理、隠した左手を取った。
「こ、これは…っ」
白く細い左腕には無数の鞭跡が痛々しくあった。
「なぜこんな事に…」
「……私がしてはいけない事をしてしまったからです…」
「いけない事?」
「旦那様のお部屋で…旦那様のシャツを……だ、抱き締めていたところを…奥様に見られてしまって……」
「えっ!?」
「…ゆ、許されない事だと分かっております。けれど……私…旦那様をお慕いしております」
「君…っ」
潤んだ瞳で僕をまっすぐ見つめるロージーに、無理矢理閉じ込めた感情が現れる。
彼女の顔が近づいている事は分かっていたが、僕はその目を逸らす事が出来なかった。
「ん…」
柔らかい唇が僕の唇にそっと触れる。
最初は戸惑いがちに、そして段々深く熱く…
息が上がり、舌を絡め合い、互いの唾液を飲み込む。
そして、二人の吐息が混ざり合う。
「「ふぁ…ん…はぁ…あん…」」
濃密な口付けに下半身が疼く。
口付けをしながらロージーが僕の手を掴み、自分のスカートへと誘う。
指先が当たった箇所は、布越しにしっとりと濡れていた。
「!!」
「だ、だ…なさ…まぁ…っ…」
頬を上気させながら、僕を求めるロージー。
僕は彼女を執務室に連れ込み、ソファへと押し倒した。
スカートをたくし上げ下着を剥ぎ取ると、彼女の秘部に僕の滾った熱を沈める。
「あぁんっ!」
ロージーの喘ぎ声と卑猥な水音が執務室に響き渡った――――
◇
ロージーと関係を持った後、彼女にはすぐ侍女を辞めてもらった。
そして屋敷から離れた場所に、ロージーの為に家を購入した。
彼女が望むものは、全て与えた。
僕はロージーの元に、足繫く通うようになる。
そんな僕の行動にフィオーリが何も気が付かないはずがないのに……
そしてロージーが恐ろしい計画を立てている事など、僕は気づきもしなかった。




