3.入会
枕元にあった現金。ついにどこから送られてきたのかに気づく。最近は外出も多くなかったが、役所への足取りは軽い。
会館の中は公共施設というにはあまりにも薄暗かった。入ってすぐ右手側に節電中の字を見が、この状況を理解はできない。誘導するための看板が設置されていたので、素直に従い奥へと進む。受付のようなものまで辿り着いた。そこにいたのは、世辞にも綺麗な恰好とは言えない女だったが年は若そうだ。そのままその女が対応してくれることになった。愛嬌はないが金切声ではなく低めの声だったので安心した。こんなに怪しいものもないと思っていたから根掘り葉掘り聞いたが、公務員とは思えないほど鮮やかな説明に圧倒され入会直前になっていた。待て待て。ずっと気になっていた、というより小気味悪かったことがある。なぜ勝手に家の中に現金を置き去ることができるのか。女に問う。
試用期間だからだ。これからはできればアプリで管理して頂きたい。と言われた。回答になっていない気がしたが、女に畳みかけられ納得、そして承諾してしまった。
こちらから質問攻めにしたせいで内容を全く聞けていない。女の説明が始まる。こちらは久しぶりの人との会話で疲れ切ってしまい、人形のように大人しく話を聞くしかなかった。
では、改めて説明させて頂きます。
本計画は国民の皆様の睡眠に関するデータの収集を行います。
短時間睡眠での疲労回復には夢の内容が非常に重要である。
との結論が発表されました。
そこで睡眠の内容に応じ、報酬を支払わせて頂くシステムを構築いたしました。
夢の内容と報酬についてですが、現実離れしたこと。
正に夢であることが望ましいことがわかりました。
独自調査により良い夢を見ているであろう人を、招待している次第です。
試用期間中は二日に一回のみのお支払いになりましたが、
入会後は一日毎にお支払いとなります。
ここで云う”睡眠”ですが、
ある一定時間を超える必要があり短い昼寝のようなものではいけません。
…
他にも何か言っていた気がしたが忘れた。疲れていて眠かったのだから仕方がない。どうせ惰性で過ごす人生であったのだから、何があっても問題ない。要は、これからは睡眠で稼げるわけだ。正に俺にとっては夢のような出来事だ。あの居心地の悪い職場を辞めることができる。次に職を探すまでに安心して食いつなげるからな。今まで受動的に過ごしてきた人生だったが、急にやる気がでてきた。これから何をしようか。一旦ベンチに座る。少しうたた寝をして軽くなった体を夜風にあてにいく。市役所は駅から数分の位置にあり、駅前の繁華街とも近いが、何をもってそのような開発をしたのか残念ながら、そこは風俗街だ。キャッチばかりで碌に行ったこともないので様子はわからない。金もないので行く気になれなかった。だが、今は違う。
さあさあ、やってきたぞ。キャッチに言われるがまま。というのは嫌だったので、ここに来るまでにある程度下調べはしてきた。金は使えるがぼったくられるつもりはない。こんなにもしゃがれた格好でいるが、心は純情なつもりの気味悪い男であることを自覚しているため、若い女と酒を吞みながら話せるだけで十分だった。明らかにグレーゾーンな店や、中で客と嬢の自由恋愛が行われていそうなところは避け、目的としていた店に着いた。外からでも薄っすらと店内が見えるようになっており、”健全”だという主張がなされている。ここなら流石に大丈夫だろう。
万が一のことを考えて、小学生の頃に習い始めてから一年足らずで辞めた空手を思い出す。あの習い始めの時も、教室内に不審者が入って来たら華麗に俺が倒す創造をしていた気がする。男は小学生から何も変われないのだろうか。と、どこかで聞いたようなキザなセリフを思い浮かべているとボーイの張り付けられたような笑顔が目に入る。何か言われていたみたいだが聞き取れていないことを察知して再び問われる。
一名様ですか?
まだ筆者は青いので、一部描写の解像度が著しく低いと思われます。ローファンタジーってことで許してください。