1.日常
僕は寝起きが良い。
パッと起きれるし、なんだか朝は気持ちが良い。テレビを点けると朝8時のニュースが流れる。この天気予報の背景に映る冬の一丁前に澄み切った青空は、いつまで続くのだろうか。今日は占い特集をやっている。そのような紛い物に縋って何になるというのだろう。胡散臭い占い師のようにそれっぽいことをそれっぽく言うことなど僕にもできる。しかしここ最近の占いはなんでもありだ。星座や誕生月日、手相を見て当てるというのは、まだ僕の知り得ない第六感的な何かなのだろう。にしてもこの夢占いというのは何だろうか。晩に見た夢によって、これからのことが占えるらしい。正夢だというのならまだしも、この占いでは夢と現実に起きることがまるで違うではないか。ひどいものだ。これが流行って儲かる占い師も多くないだろうに、だれが流行らせたのだろうか。インタビューでは、僕には存在を認識できない街中のイケイケなJKは夢の日記を付けていると話している。チンケな色をしたノートに丸みを帯びたきゅるんきゅるんした文字が描かれている。内容は、”颯爽と男の人が迎えに来てテーマパークに連れていてもらった”ということらしい。いや、他にも吐き気がするような内容が羅列されている。本当に見た夢の内容ののだろうか。もはや夢ではなく妄言ノートではないか。普通こういうのは…おっと危ない危ない。なんだかんだ言ってしょうもないテレビに見入ってしまった。目の前に置かれた朝食にはほとんど手についていない。今日は確か九時から近所の飲食店で仕事だ。あまり気が進まないが行くしかない。卵かけごはんをすする。
徒歩五分で着くバイト先に行く。そそくさと制服に着替え料理を運ぶ。笑顔とワントーン明るい声で。これはバイト初日に僕より若く可愛い鈴音先輩に教えらえその日に家で鏡に向かって練習したものだ。今思い返すと、よく一時間も鏡のに映し出されるおっさんの張り付けられた笑顔と気色の悪い声に耐えられたものだ。更に最近横耳にしたことだが、鈴音さんには彼氏がいるらしい。余計に虚しさが増した。朝目覚めてから碌に太陽の光を浴びずに空が薄暗くなる頃に店をでた。ほとんど人と会わずに帰宅し、買ったときより随分平べったくなった布団の上で数年前まで忌み嫌っていた煩い動画をいくつも縦にスライドする。夕食も摂らずにいつの間にか眠りについた。
今日も嫌なほど良い目覚めでいつも通り卵かけごはんをすする。今日のテレビでは卵かけごはんをTKGと呼称していた。明日からは卵かけごはんを食べるのを辞めようと思った。そして、いつも通り仕事場に着くと、いつも通り扉を開けてから一瞬だけ耳に飛び込んでくるテーマパークで聞こえるようなわーわーした会話は止み、少し気が締まった顔を鈴音さんと同僚はしている。そしてまたいつの間にかバイトは終わり家にいる。明日はそういえば休みだっけ。そんなことをぼんやりと思いながら、たいして動いてもいないのに疲れ切った体を横にする。
休みの日でも定刻に起きる。休みの日くらいテレビなど見ないで静かに朝食をすすろうと思い、ヒーターの上で沸いたやかんを手に取りお茶漬けとインスタントのお味噌汁を作った。今日一日は予定はないが、家で堕落している気分にもなれず外に散歩に出た。幸い風は強くないので冷ややかな温度を感じながら誰にも遭わずに近所を一回りした。
昼飯を作る気にはなれなかったので、来るデートに備えて近くの喫茶店に偵察に向かった。勿論のことだが具体的にどのような相手が、というのは全く想像がつかない。ただ何となく黒髪のロングではっきりとした顔立ちの女性を想像した。久しぶりに喫茶店なんて行くので少し浮かれていたのだろう。自分に釣り合うかなどそのときは考えもしなかった。慣れていないと少し戸惑うファストフード店とは確実に違う音色の鈴を鳴らして入店すると挽いた豆の香りがした。近くにいた女性店員ではなく横からスッと出てきたパーマのかかった男性店員に席へと案内される。席はほぼ個室といってもいい程仕切りが高かったが案内される間、視界には平日でも暇そうな大学生カップルとノートパソコンを開くスーツ姿の男性が目に入ったため少し気が滅入る。入店から着席までの所作までで、できる限り小慣れているように見せかけていたがばれていたのだろう。注文の仕方からおすすめの品までご丁寧に案内された。始めはこんな私への皮肉で行動しているのだろうと思ったが、去り際に顔を見たら爽やかすぎてなぜか吐き気がした。彼にそのようなつもりはなかったのだろう。そう思ったとき吐き気は自己嫌悪だと気づいた。僕の残念な舌には挽いた豆は似合わないので、ハイカラな色のソフトドリンクとヴォリューム満点のおすすめのサンドウィッチを注文する。デートの下見という体裁も忘れてサンドウィッチを貪る。入店前の想定よりかなり短めの滞在時間で外に出た。
喫茶店のある大通りから一本外れた細い道を歩いて真っ直ぐ家に帰った。ボーとしていたらいつの間にか大切な休日も夜を迎える。夕食は大して物が入っていない冷蔵庫から半額シールの付いた二日前に期限の切れた豚肉を炒めて食べた。まあまあのお金を払ったお昼より旨かった。
所謂ゴールデンと呼ばれる時間帯のテレビを見てみようと点けたが、誰だかわからない整形顔の芸能人が貯金の話をしていたので手に持ったままだったリモコンで消し、何となく自分の通帳を見た。頑張って節約していた自覚はないが三百万円の大台に乗っていることに気づいた。ちょっと口角が上がっている気持ち悪い顔をしていることをわかっていたが許せた。高揚した状態のまま布団に入った。眠りにつく直前に貯金額の多さがこれまで人生を楽しめたかと反比例していることに気づきかけたが結論に達する前に眠りについた。
朝、目を開けてはじめに入る時計の針は見慣れた方向を無機質に向いていたが、珍しく目覚めが悪い。頭が覚醒しないまま支度をしていると朝のニュースとともに目前に置かれた卵かけごはんが見えた。どうやら無意識のうちに卵かけごはんを準備してしまったらしい。ここ最近で一番ひどい朝を送りながらも仕事に向かう。制服に着替えて靴に足を入れようとしたときに足の霜焼けとつっかけできたことに気が付いた。誰も俺のことなど気にしていないだろうが素足ではく靴は気持ち悪いし、脱ぐときに中敷きが取れた時はこどもみたいで恥ずかしかった。家の玄関には下駄箱があるのだから帰ったら夏物の靴は仕舞おうと思ったが家に帰るころには忘れていた。
次の日は最悪に気分がいい目覚めだった。一日休んでまたバイトだ。明確な意思をもって茶漬けと味噌汁を作り、ぎりぎり穴が開いていない運動靴を履いた。豆まきの季節でいつもは寒く乾燥しているにもかかわらず、生憎傘が意味を為さない小雨で霜焼けした足の薬指が刺激された。帰りには晴れていたが水溜まりを気にせず歩いていたので足は濡れた。暫く何日か痛かった。
やりたいことを詰め込んでいるので、ごちゃごちゃしてます。
この回はだらだらしていて退屈だと思います。