小鳥と彼女
小鳥が好きだ。
道端で小鳥がたむろしているのを見掛けると少しばかり頬の筋肉が緩む。その鳥が雀か何かのありふれた鳥ではない、ちょっと珍しい鳥だったりすれば尚更だ。
僕は、小鳥が好きだ。
だけど僕は何食わぬ顔でそんな鳥たちを横目に通り過ぎる。
迂闊に近付こうものならば鳥たちは、僕の目の届かないところに一斉に飛び去ってしまうからだ。
だから、何となくだけれども、道端の小鳥と戯れることが出来るような子を、僕は好きになるのだと思っていた。
彼女が家でインコを飼っているというのを聞いたのは全くの偶然だった。
彼女の友人同士の会話がたまたま耳に入ったのか、それとも彼女とは幼馴染みの僕の友人がそのことを口走ったのか、何が契機だったのかはよく覚えていない。
自分でも単純だとは思うが、それから彼女のことが気になり始めた。
授業中に空を見上げる横顔、シャーペンを弄ぶ仕草、食べきれなくて鞄に忍ばせたパン。
そんな些細なことさえ目に止まった。
インコの飼い主だからといって野生の小鳥とも戯れられるというのは幻想だ。
何度も自分にそう言い聞かせたが無駄だった。
僕には積極性がないわけではなかったが、あるわけでもなかった。つまり、ないものはチャンスだった。
話し掛けるならば二人きりの時、と決めてしまっていたのがいけなかったのかもしれない。
今日も彼女は空を見上げる。あくびを一つ。浮かんだ雲はドーナツの形。
そして鉛筆をくるりと一回転。教科書に書かれた数式を一睨み。二睨み。問題集を後ろからめくって答えをカンニング。納得した素振り。
数学の授業が終われば昼食の時間。今日も彼女はパンを半分残し、鞄の中へ滑り込ませる。
家へ帰ればインコに「ただいま」などと言って微笑み、喉元をくすぐってやるのだろう。
そんなことを想像しながら帰宅する僕。
道端にしゃがみこむ彼女。
その脇には、白と黒の小鳥。
「あの、」
飛び去る小鳥。
行く末を見送った視線で僕の顔を見る彼女。
「鳥、すごいね」
僕は小鳥が好きだ。
「どうってことないわ」
僕は彼女が好きだ。
「パンを小さくちぎって、まいて、そして待てばいいのよ」
小さくお腹を鳴らした彼女。はにかむ彼女。
小鳥が好きな彼女は少食というわけではなかった。
彼女が僕の肩にパンを乗せると、先程の小鳥がそこへ舞い降りる。
彼女のことが好きだという気持ちに微塵も嘘偽りがない証拠に、僕の頬は真っ赤に染まっていた。




