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S級探索者は推し活のために探索する  作者: 黒井隼人


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S級探索者は同居人を気遣う


海底ダンジョンの一件が終わり、クロウの実験的な異世界召喚によってレイがこちらの世界へと来てから数週間後。穏やかな生活が過ぎていた。

そんなある日。


ピコン!


「ん?みらいちゃんか?」


推し活の一環でPCでみらいの切り抜き動画を作っている最中、突如通知音と共にみらいからのメッセージが届いた。


『今、大丈夫かな?』

『大丈夫だよー、どうしたん?』

『うん、ちょっとシェルフちゃんの事なんだけど…』

『シェルフが何かしたの?』

『ううん、そう言うわけじゃなくて…なんというか…最近ダンジョン探索の時、いつもよりピリピリしてる感じがするんだよね』

『ふむ( ˘ω˘ )』


クロウ自身配信はいつも見ているし、ダンジョン探索の時は万が一を考えて後方で待機している。他のリスナー達は気づいていないが、一緒に住んでいるクロウも、そして身近でシェルフを見ていたみらいも気づいていた。

かつての海底ダンジョンの一件以降。シェルフはどことなく落ち着かないでいる。配信中はひた隠しにしているが、それでも警戒心は通常以上に高まっており、そのピリピリした雰囲気がみらい達に伝わっていたのだろう。


『大丈夫?って聞いても笑って大丈夫って言うし、どうしたのか知りたくて…』

『んー…せやねぇ…( ˘ω˘ )』


シェルフの様子が少し変な事。その原因となる物はある程度予測がついている。とはいえ、それに関して詳しいことを知っているわけでも無いし、今更何かできるかというと何もできないことだ。


「まあ、隠すほどの事でもないしいいか」


シェルフの過去に関する話である以上本人の許可も必要かもしれないが、それでもクロウだって知らないことの方が多い。昔何かあっただろうな程度の話だから問題ないだろうと判断しキーボードをたたく。


『シェルフがどうして俺に引き取られたか、話をしたっけ?』

『シェルフちゃんが異世界から来た精霊で敵意が無いから保護観察のためにクロウさんが引き取ったって話だよね』

『そそ。シェルフを拾った時、あいつボロボロの状態だったんだよね』

『そうなの?』

『そ( ˘ω˘ )つまり、何者かに襲撃を受けたということになる。それがもとの世界か、それともダンジョンに来てからかはわからないけど…』

『けど?』

『先の海底ダンジョンで探究者が言っていた『異世界の精霊たち』。おそらくだけど、その異世界って言うのはシェルフがもともといた世界だとおもうよ』

『そうなの?』

『推測だけどね。ただ、おそらくシェルフもそうだと思っているんだと思う』

『それじゃあシェルフちゃんの様子がおかしいのは…』

『いつ自分がいた世界の精霊たちがこっちに攻め込んでくるかわからないから警戒してるんじゃないかね』


シェルフがこちらに来る前の話は一切聞いていない。だが探究者があのような言葉を言ったのには何かしらの理由があるはずだ。ただの警告として言ったとは思えない。

そして、それはシェルフも…遥達も気づいているはずだ。

探究者の目的はいぜんはっきりしていない。そしてシェルフがいた世界での問題もわかっていない。


「……どうしたものかなぁ…」


みらいに言ったように探究者がこちらへと引き込もうとしている者達はシェルフの世界の者だろう。全く無関係な世界の住人という可能性もゼロではないが、それをこちらに引き込む理由があるとも思えない。

シェルフの世界の精霊たちならば、必然的にシェルフは巻き込まれ、共に活動しているみらい達も、そしてクロウ自身も飛び込まざるおえなくなる。それが目的だろう。


『とりあえずある程度話を聞いてみるよ( ˘ω˘ )』

『うん、お願い。私にできることがあったら教えてね』

『ういうい( ˘ω˘ )まあ、適当に気晴らしのためにオフの日にでもどこかに連れて行ってくだしあ』

『いいけど、どこに連れていけばいいのかな?』

『んー…適当に気分転換できればいいよ( ˘ω˘ )カフェとか買い物とか、気負わずさらっと行ける感じの』

『わかった。クロウさんも来る?』

『遠慮( ˘ω˘ )女性同士のほうが気負わずにいいさ』

『気にしなくていいのに』


それを最後にみらいとのメッセージのやり取りを一区切りとし、スマホを持って部屋を出る。


「シェルフはまだ自室にいるかな?」


今日は探索が休みの日なので、シェルフは部屋にこもってゲームをしているだろう。

シェルフの部屋の前へと行き、コンコンと扉をノックする。


「シェルフー起きてるかー?」


ノックをして声をかけるが返事はない。


「んー?」


不審に思い気配を探ってみるが、きちんと部屋の中にもいるし、間取りと位置関係的にPCの前あたりにいると思われる。


「寝落ちでもしたか、それともヘッドセットつけててノックに気づいてないのか?」


再度ノックをしてみるが、反応はない。


「はいるぞー」


声をかけて扉を開ける。鍵はかかっておらず、スムーズに開き、中の様子を見てみるとカーテンは閉め切り、昼間だというのに明りもつけずに真っ暗闇の中、パソコンのモニターの明りだけがあった。そんなモニターの前でシェルフが座っている。ゲームをしているような操作音は聞こえず、ヘッドセットをつけた状態で何かをしている様子だ。


「てい」

「あだ」


指先に小粒の魔力の塊を作り出してシェルフの後頭部に当てた。


「こんな暗い所で何やってんだまったく」

「マスター…来てたんだ」


力なく笑うシェルフに対して呆れたようにため息を吐きつつ、カーテンを当てる。


「何時からやってたんだ」

「えっと…覚えてないや」

「まったく…そんなんだから心配されるんだよ」

「もしかしてみらいさんが?」

「最近ずいぶんとピリピリしてるって言ってたぞ」

「そっかぁ…大丈夫って言ったんだけどなぁ…」

「ドアホ、んなもん強がりだって誰だってわかるだろうが」


クロウの言葉にシェルフは再度困ったような笑みを浮かべた。


「んで?何をしてたんだ」

「あ、うん。ちょっと調べものをね」

「調べものね…特に変な事例は確認されてねぇぞ」

「え?」

「この間探究者が言った事、気にしてんだろ?こっちでも情報を集めているが今のところ変な事例は報告されてないんだとよ」


探究者の言葉を聞いた後…というよりか、海底ダンジョンの後、L級探索者であるジェニーとロイはWSMへと戻り、クロウ達S級探索者は集められて対策会議をしていた。

そこで当然シェルフが異世界から来た精霊である事。そして探究者がクロウに対して並々ならぬ興味を持っている事。そして異世界から精霊たちが侵略してくること。それらを踏まえたうえで今後の対策を練っていた。


「それじゃあ…それじゃあなんで何も聞かないの?」

「必要性が無いから」

「え?」

「当初対策会議でもシェルフから事情を聴くべきでは?という話はあがった」

「だったら…」

「でも正直意味はないと思ってな」

「意味はない?なんで?」

「だって、わかるか?精霊の襲撃がいつで、どれくらいの規模で来るかとか」

「それは…」

「わからないだろ?」

「でも、相手の方の事情が分かれば…!」

「わかったところで何もできないだろ。そもそも、探究者が言っていた異世界の精霊たちというのがシェルフの世界の精霊という推測も、あくまで今までの探究者の傾向から推測した物だ。確定しているわけではない」

「それはそうかもしれないけど…」

「そのうえ、シェルフのいた世界がどこにあるかわからない。移動もできないからこちらから攻める手立てはない。向こうから攻めてくる以上、こちらができるのは待ちの一手。相手方の方に行ければ攻め込んでくる理由を失くしたり、先手を打つこともできるがそれができない以上、事情を知ったところで意味がない。違うか?」

「それは…」

「ま、そのうえで話したいというのなら聞くけどな。無理に聞く必要はないとはいえ、それでも情報に関してあって困る物でもない。どんな相手だろうが、俺たちならどうにでもできるだろう」


自信に満ちた笑みを浮かべ、シェルフの頭を雑に撫でる。


「お前自身いろいろと思うところがあるんだろうが、任せろ。なんであろうと俺がどうにかしてやるから」

「………うん」


クロウの笑みに対して、シェルフも笑みを浮かべて頷いた。

そんな時、ピコンと通知音が聞こえてきた。


「あ、みらいさんから連絡だ」


振り返ったシェルフがPCへと向かってメッセージアプリを開く。


「なになに…?………マスター、明日出かけてきてもいい?」

「どうぞー」

「………何も聞かないってことは、これ、マスターの差し金?」

「心配してるから気晴らしにどっか連れてってやれって言っただけだぞ」

「…そっか」


短くそう答えてからメッセージを返す。


「ねえ、マスター。この後皆集められる?」

「皆って言うと流華たちS級か?」

「うん。それと詩織さんとみらいさんも一緒に」

「いいけど、話すのか?」

「うん。どれだけ役に立つかわからない。それでも何もないよりかはましだと思うんだ」

「そか。んじゃいろいろと聞かせてもらうよ。流華たちには俺から言っておくから」

「うん。お願い」

「とりあえず外出る前に顔洗うなりシャワー浴びるなりしておけよ。ひでぇ顔なんだから」

「えー、女の子にそう言うこと言うのはさすがにデリカシーに欠けるんじゃない?」

「だったらそんな状態になるまで自分を追い込むなよー」


そう言って軽く手を振ってからシェルフの部屋を後にした。

部屋に入った時はかなり憔悴していたが、最後には軽口を言える程度にまで落ち着いたんだ。しばらくの間は大丈夫だろう。


「にしても…」


なんだかんだ言ってシェルフはいつも余裕を持っていた。大抵の事ならばクロウがいる以上、どうにかなったりもしている。そのうえであれだけ憔悴している状況ということは…。


「それだけ厄介な状況ということか…それとも、何かほかにあるのか…」


シェルフがあそこまで憔悴していた原因。これから聞く話で判明すればいいのか。そのあたりを考えながらクロウも流華たちやギルマスに連絡を取るために自室へと戻った。



それからおよそ2時間後。探索者ギルドの会議室にクロウたちS級探索者とギルマス。みらい、シェルフ、詩織。そしてマーサ達フェンリル一家が集まった。


「それで?話があるからって集められたんだけど?」


早めに来ていた流華が退屈そうにあくびをしながら問いかけてきた。


「この間の対策会議で今後の方針が決まっただろ?その件をシェルフに話したら、そのうえで話があるんだと」

「そうなのかい?」


クロウの言葉にギルマスが問いかける。


「うん。知ってもできることは変わらない。それでも何も知らないよりかはましになるかもしれない。そう思って話すことにしたんだ」


目を閉じ、一度呼吸を落ち着けるようにシェルフは深呼吸をした。


「私が何でこの世界に来たのか。そしてマスターに拾われた時、なんでボロボロの姿だったのか。もともといた世界で何があったのか…」


そう言いつつシェルフは思い出すように一旦目を閉じた。



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