S級探索者たちは探究者に攻撃を仕掛ける
海底に出現したダンジョン。そこの攻略に来たクロウとジェニーとロイの三人。そこのボスである水龍神:リヴァイアサンを討伐し、ダンジョンコアを回収しようとしたところ、突如何もない空間へと飛ばされた。
そこにいたのは今回も裏からかかわっていた探究者であり、今回は即座に逃げるようなことはせず、クロウ達の相手をする気のようだ。
空間収納に入れておいた指ぬきグローブをクロウは装備する。
『クロウさんがあれを装備したってことは本気を出すってことかな?』
『ピノッキオの時に用意した奴か』
『あれってクロウさんの手が足りない時の補助道具だっけ』
『そうだね。つまりそれが必要なほどの相手だってことだろうね』
コメントの問いかけにシェルフが答える。
それと同時にクロウが探究者へと向かって行く。魔術を使わず、初手から接近戦。そして両手に魔力を纏わせて迫るその姿は今までの戦いとは様子が違っていた。
一気に距離を詰め、右手を強く握りそこに魔力を纏わせて探究者へと振るう。放たれた拳はあくまで牽制、当たるとは思っておらず、そのまま追撃をする気だったのだが…。
ドォン!
「!?」
探究者はかわすそぶりすら見せずにそのまま拳が直撃する。探究者のその行動に驚きつつも、クロウは手を止めずにそのまま追撃をしていく。しかし…。
(なんだ…?この違和感は…)
一撃一撃は確かに入っている。しかし、それでも手応えには違和感があった。人や生物を殴っているのとは違う感触。まるで枕のような柔らかい無機物を殴っているかのような感触。相手を傷つけ、その一撃が命に届くような感触がない。そんな感覚がしていた。
「フッ」
短く息を吐き、右手に纏わせている魔力の量を増やしつつも圧縮させ、掌底を叩き込むと同時にはじけさせる。
それによって探究者は勢いよく吹き飛ばされてクロウとの間に距離ができた。
その隙に後方にいたジェニーが二丁の銃口を探究者へと向けていた。先ほどのクロウの攻撃をジェニーとロイも見ていた。そのうえで二人も探究者に対して違和感を感じていた。
まともに防御行動を取ろうとしていないこと。そしてあれだけの攻撃を受けたというのに目に見えたダメージを受けた様子もない。それが二人にとって加減を失くす理由になった。
「『チェインバースト』」
ジェニーの銃口からとてつもない魔力のレーザーが次々に放たれて探究者を飲み込んでいく。
『うそ…あれってフルバースト!?』
『え、それって以前ハデスとの戦いの時にみらいさんが撃った奴?』
『うん、たぶんだけどあれ一発一発がフルバーストと同等だと思うよ』
そう、みらいが見抜いたように、ジェニーが発動したチェインバーストは魔弾の内部にある魔力をすべて放出することで放つことができる一撃であるフルバーストを連射する技。
それは魔弾を有していないジェニーの魔銃ゆえにできる物であり、自らの魔力によって魔銃が耐えられるレベルでの魔力の放出をする。その一発の威力はみらいが放ったフルバーストよりもはるかに高く、まともに食らえばリヴァイアサンの体に風穴を開けるくらいは容易いだろう。
「派手だなぁ…まあいいが」
探究者に対して思うところはあり、あまり他者に手を出されたくはないが、それでもクロウはS級探索者。そこらへんの割り切りはしているので不満はあれど口には出さない。
「にしても…何の狙いがあるんだ?」
先ほどのジェニーの攻撃。大量のフルバーストの魔弾が探究者へと襲い掛かっていた。一見すると回避不可のように見えるが、それでも探究者には対処できるだけの余裕があるように見えた。しかし、その余裕があったというのに探究者自身は一切対処したように見えなかった。
先ほどのクロウの攻撃もそうだが、ジェニーの一撃ですらあえて攻撃を受けたように見受けられた。
まともに受ければ死ぬまでいかなくても大ダメージを受けるほどの一撃。それらをあえて受ける理由が何かあるのではないかと推測するが、反射やダメージ蓄積による何かがあるような様子もないので目的がわからない。
そのことにジェニーもロイも勘づいているようで、常に反撃に備えている。
「サモン:エレメンツ」
クロウ自身も言いようのない不気味さを感じ、呼びかけると八つの水晶が輝きだす。そしてそれぞれから、火、風、水、氷、土、雷、光、闇の妖精達が現れた。
『うお!?なんかかわいい子達が出てきた!』
『あれ、この子達何人か前にピノッキオの時に見かけた記憶が…』
『そうなの?』
『ああ、そう言えばみらいちゃん見てなかったっけ。こっちも途中からだけど、遥さんがクロウさんのところに戻った時配信してくれてて、その時六華ちゃんを守ってたんだ』
『へ~』
リスナーの言葉にみらいもシェルフも初耳だという反応を示した。まあ、クロウもあれ以降エレメンツを出すこともないしその説明を聞かれてもいないから仕方ない所でもあるのだが。
それはそれとして、召喚されたエレメンツはそれぞればらばらに飛び去って探究者から一定距離離れた状態で取り囲む。ダメージを与えるのがメインではなく、クロウ達が戦う際の牽制等のための要因だ。
ちらりとジェニーのほうを見るとあちらも頷き、チェインバーストの手を止めた。それと同時にクロウとロイが左右からそれぞれ駆け出す。
ロイはその手に持つ武器を初期状態であるモーニングスターの形状へと戻す。
「はぁ!」
鉄球の棘の部分を探究者の体へと突き刺し、そのまま打ち上げる。そこにクロウが追撃を仕掛ける。周囲のエレメンツ達がそれぞれ属性弾を探究者へと向けて放ち、それをクロウが腕で受け止め、自らの両腕に纏わせる魔力へと付与させることでそれぞれの属性を纏わせていく。
一撃一撃属性を切り替え、どんな耐性にも対応できるように。時には複数の属性を織り交ぜ、変則的な攻撃をしていく。
「ソウヤ!」
ロイに呼ばれ、そちらの方へと探究者を蹴り飛ばし、両手にそれぞれ十の魔法陣を展開する。そこに発射された鉄球が直撃し、空中で動きを止めた瞬間、巧みに持ち手を操って探究者の体を鎖で巻き付ける。
「『マナバースト』!」
「『ツインフルバースト』!」
「多重魔法陣 二十式『天割雷之鉾』」
巻き付いている鎖が膨張し、爆発していく。そこに極太のレーザーが二本叩き込まれ、更にクロウが放った魔法陣による極太の雷が叩き込まれる。
S級探索者とL級探索者二人、三人による必殺級の三連撃。一撃一撃がN級ですら倒せるレベルの一撃が同時に叩き込まれた。
『すげぇ!』
『やったか!?』
『おいバカフラグ』
『いや、でも倒せないにしても大ダメージだろあれ』
三人の攻撃が直撃し、探究者の姿が煙に包まれ見えない。三人は油断をせずにじっとその煙を見据える。
「いやはや、すごい威力だ。確かにこれではハデス達では歯が立たないわけだ」
煙が晴れ、そこにいたのは腕や足が取れ、体のところどころに穴が開いている探究者の姿だった。
『はぁ!?なんであの状態で生きているんだよ!?』
『そう言えば前にクロウさんが殴った時も体に穴開いてる状態で生きてたな』
『こいつ本当に不死身なのかよ!?』
へらへらとした笑みを浮かべた探究者はどんどんその体が再生していき、数秒で元の姿へと戻っていた。
「こいつ…」
「今まで見たことないタイプ…本当に何なのよこいつ…」
「………」
自らの必殺の一撃ともいえる攻撃を受けてまだ生きている。それだけでなく少しの時間で再生しきり、五体満足の状態に戻ってしまった。今までにないタイプの敵。その不気味さにジェニーの顔がゆがむ。
「さて…そろそろ君達の攻撃に関してもわかってきたし…もういいだろう」
探究者がそう言って指を鳴らす。するとロイの体を鎖が巻き付き、クロウの頭上に二十の魔法陣が展開され、ジェニーの正面に二つの銃が出現する。
「お返しだ」
その言葉と共に鎖が爆発し、魔法陣が発動し、銃から極太レーザーが放たれた。
「なっ!?」
その声が誰のものか、判別する前に三人が攻撃に飲まれた。
『クロウさん!?』
『え、あの技ってさっき三人が使ってた技じゃねぇか!』
『一回受けてコピーしたってのか!?』
突然のクロウ達の技の模倣にコメント欄も騒ぎ出し、みらい達も驚きの表情を浮かべていた。
「いっつぅ…」
「久々にダメージ受けたわね…」
「全くだ…」
それぞれ多少のダメージを受けているが、それでも軽傷程度ですんでいる。
「なるほど、君達の攻撃を『そっくりそのまま』コピーして返したわけだけど、それでその程度のダメージなわけだ。いいデータだ」
「んだと…?」
「さて、いろいろと知りたいことは知れた。もういいだろう」
パチンと探究者が指を鳴らすと先ほどまでいた海底ダンジョンへと戻っていた。
「なっ!?」
「さて、クロウよ」
スッと目を細めて探究者がクロウを見据える。
「異世界にいる精霊たち。闇に飲まれた者達が新たな地を目指して動き出す」
「なに…?」
「その行先をこの世界へと定めさせた。クロウがどう対処するか、しっかり観察させてもらおうか」
「なんだと?おい!どういうことだ!」
クロウが声を上げるが、探究者はこちらに背を向け、次の瞬間にはその姿を消していた。
「………異世界の精霊たち…」
ぼそりとつぶやくクロウ。そんな声を聞きながらみらいは隣にいるシェルフを心配げに見つめていた。
「………」
シェルフは普段の軽薄な笑みを浮かべることもなく、ただただじっと画面に映るクロウを見つめるのであった。
その後、これ以上戦闘はないと判断し、クロウ達は海底ダンジョンのダンジョンコアを回収して戻ってきた。
「なんか、煮え切らない最後だったわね」
ギルドに戻ったジェニーがため息交じりにつぶやいた。
今いるのは会議室の一室。報告前にここに三人だけで集まり、いろいろと話し合いをすることにしたのだ。
「あの探究者…あいつがここ最近のこの国の事件の裏で糸を引いている奴なんだろ?」
「ああ。俺もまともにやり合うのは今回が初だが…そもそもまともにやりあえていたのかすら怪しい物だな」
「本当ね。あんな得体のしれない奴初めてよ。どうするのよ」
「…さてな。今のところまだどうすればいいかわからん。だが、あいつは存在している以上、あの生態にだって何らかの弱点があるはずだ。それを見つけ出してみせる」
「そうか。お前がそう言うのなら俺達は黙ってみているとしよう」
「そうねー。L級である以上、あまりそういう時に自由に動けないのがネックだけど」
「構わん。これは俺個人としての案件でもある。L級だろうが何だろうが誰かに譲るつもりはねぇよ」
「それで、もう一つの事だが…精霊についてあいつが言っていたが心当たりは?」
「あー…なくもない」
そう言ったクロウの頭に浮かんだのはシェルフだった。およそ二年前、ボロボロの状態でダンジョンで倒れていたシェルフを保護した。その件に関して一切話を聞いたりはしていないが、それ関連の事がそろそろ表立って動き始めたということだろう。
「精霊ってあの子よね?何も聞いてないの?」
「気づいていたのか」
「そりゃね。私達やあなたと魔力の質が違うし、属性としての純度も違うんだもの、気づくわよ」
「あっそ。ま、そこらへんは構わん。表立って言う気はないが、時期が来たら話すつもりだし。それとあいつがどうしてこっちに来たのか、それに関しては何も聞いてない」
「なんでよ」
「そこまで深く関わる気はなかったからな。必要な時に聞けばいいと思っていたんだよ」
シェルフが異世界の住人である以上、その問題に対して手を出すとなると異世界に行かなければいけなくなる。さすがにそれは探索者としての領分を超えているし、どれくらい時間がかかるかわからない。それゆえに不必要に聞く気にはならなかったのだ。
「とはいえ、さすがにこれ以上は無関心ではいられないかもしれないな」
「そう言うことね。それじゃそろそろ私達は行くわ。ギルマスへの報告はあなたに任せていいでしょ?」
「ああ。ただ本部のほうはそっちに任せるぞ」
「わかった」
そう言ってロイとジェニーは会議室の扉を開ける。
「あら」
扉を開けるとそこには扉へと向けて手を伸ばしていたみらいとその後ろで無表情で立っているシェルフの姿があった。
「あ、すいません。ギルマスさんがそろそろ報告に来いと言っていまして…」
「ああ、そうなの?大丈夫よ。もうこっちの話は終わったから」
そう言ったジェニーはじっとみらいの顔を見つめる。
「え…えっと…」
「あなたがどこまでできるようになるか、楽しみにしてるわね」
挑発的な笑みを浮かべ、ジェニーとロイはギルドから立ち去った。
「………」
そんなジェニーの背中をみらいはじっと見つめており、その様子を見たクロウがため息を吐く。
「まぁた余計な事言いやがって」
面倒そうな表情を浮かべつつクロウは一つ大きなため息を吐くのであった。




