S級探索者達は海底ダンジョンを潜っていく
深海にあるダンジョンに突入したクロウ達。突入して少ししてからソニックシャーク、ブラッディピラニア、タイラントホエールの三種の魔物を討伐し、その後もちょくちょく襲い掛かってくるA級クラスの魔物を倒しながら進んでいく。
『クロウさん、今どれくらいですか?』
「せやねぇ…大体20階層過ぎたあたりかな?」
『景色変わらないからよくわからないねー』
みらいの問いかけに対して答えるが、それに対してシェルフがぼやくようにつぶやいた。
『たまにモンスターが襲い掛かってくるけど、基本的に真っ暗だから景色に代わり映えがないよなー』
「それが水中ダンジョンが配信に向かない理由の一つでもあるんだよ」
愚痴のようなリスナーの言葉にクロウが答えた。
以前ギルマスから今回の一件をS級探索者達にした際、遥と雷亜はこのダンジョンに来たがらなかった。その理由が雷亜にとっては雷属性が扱いにくいというのもあるのだが、配信者的に配信しにくいダンジョンだからだというのも理由の一つだった。
「今の私達はソウヤのおかげで話せているけど、水中って会話がまともにできないものね」
「それに水中ダンジョンは基本的に日光が入らない。暗いならば明りをつければいいのだが、松明のような火の属性は水中では扱えないから、クロウが生み出した光球のような物じゃないと満足な明かりも用意できないからな」
ジェニーとロイが補足がてら答えた通り、水中だからしゃべりにくい。そして光源が通常のダンジョンよりも用意しにくいというのが配信しにくいダンジョンの理由だ。
その二つとも雷亜も遥もどうにかしようと思えばできるが、それでもやりにくいのは確かなのでやりたがらないのだ。
『でも、20階層過ぎたあたりってことはようやっと三分の二が終わったってことよね』
「そうだね。こういう階層だとそろそろダンジョンボスが出てきてもおかしくはないんだが…」
『そうなんですか?』
「そうねー。こういう明確な階層がなく、魔力の質で階層が分かれているダンジョンって明確なボスフロアって言うのが無いからたまに感知してボスが向こうからやってきたりするのよ」
「まあ、今回はダンジョンコアの回収が目的だからボスが来たとしても討伐した後に最下層まで降りることになるがな」
そんな会話をしながら降りていくと魔物の群れの気配がこちらへと来ているのを感じた。
「ん、また新手か。この気配は…スラッシャートラウトか」
『さっき来てたやつか』
「そそ」
背びれと鱗が鋭い刃となっているトラウト、スラッシャートラウト。群れで襲い掛かってきて一匹だけならばそこまで苦戦しないが、耐久力も高く、鱗や背びれの刃の切れ味がすさまじいがゆえに、群れで襲われると相応の傷を受けてしまうA級下位の魔物だ。
といってもすでに何度か接敵している魔物なので特に問題も解説もすることもなくそれぞれ適当に戦い始める。
『そう言えばトラウトって地上にもいるよね』
『サケ科の魚やね。淡水だけで生きる種をトラウト、川や海で生きる種をサーモンで分けるんだっけ』
『へー』
『あの、ここ海底ダンジョン…』
『魔物にそんな違いがあるのか?』
『さあ…?』
リスナー達は安定した戦いを眺めながらそんな感じで好き勝手話している。
『サケ科…ニジマスとかサーモンとかおいしいですよねぇ』
『あー、ホイル焼きとか塩焼きとかおいしいよねー』
『魔物って食べれるのかな?』
『どうなんだろ。食べるにもほとんど素材や魔石になっちゃうから無理なんじゃないかな』
『魔物によっては肉とかが素材として落ちることがあるからそう言うのなら食べれるんじゃ?』
『素材にならないように倒すとかできたりするのかな?』
『聞いたことないけど…』
配信画面としても特に動きがないのでみらいとシェルフがトラウトから話を広げ始める。
『マスターならそこらへんの事知ってそうだけど…』
「ん?どうした?」
『あ、いえ。スラッシャートラウトからお魚の話がちらほらと出てきたので、魔物って食べられるのかどうかって話に…』
「あー…なるほど。まあ魔物は普通に食えるぞ。といっても、可食部があればの話だが」
『ほえー、ちゃんと食えるんか』
『素材化せずに討伐ってできるの?』
「まあ、できなくもない。難易度高いがな」
「え、そうなの?初耳なんだけど」
クロウの言葉にジェニーが驚いていた。
「まあ、やる利点はそこまでないからな。かさばるし。そうだな…せっかくだから実際に試してみるか」
そう言うとまだ生き残っていたスラッシャートラウトの一匹を魔法で固定する。そしてトラウトへと近づくと素早い動きで何かをするとトラウトは息絶えたのかプカリと体を浮かせた。しかし、素材化することはなく、そのままの姿で残っていた。
『え、死んでる?』
『まじで?何したの?』
「答えはこいつさ」
そう言って握っていた手のひらを開くと中にはポツンと一つの魔石があった。
「魔石?」
「そ。死なないように魔石を抜くと素材化しないんだよ」
「なんでだ?」
「詳しい原理まではわからんが、どうも魔物は死ぬと体の魔素が分解されて体内の魔石に吸収されるみたいなんだよね。それで吸収されない部分が素材として落ちる。その証拠に…ほら」
そう言って空間収納から取り出した魔石を見せる。その魔石はクロウが持っている魔石よりも二回りほど大きかった。
「これはさっき倒したスラッシャートラウトの魔石、サイズがかなり違うだろ?」
「そうね…個体差はあるのは当然だけど、ここまで差があるのは普通じゃないわ」
「つまりさっき言ったように死んで分解される前に魔石を抜き取れば素材化することはなく、そのままの状態で回収できるんだな」
「ああ。魔物によって難易度は変わるからあまり推奨はできんけどなー」
強大な魔物であればあるほど魔石も大きくなる。そして強力で大きいからこそ倒すのも苦戦する。故に死なない状態で魔石を引き抜くなんてことはそうそうできる事でもない。仮にできたとしても、その巨大な魔物を持ち帰る算段をつけておかないと邪魔でしかない。食用になる魔物もいるが、それでも数が多ければその分荷物になってしまう。バックなどに付与されている空間収納は基本的に制限があるので、入りきらない素材は無駄になるし、そのままダンジョンに放置すると澱みのきっかけになりかねないのであまりよろしくないのだ。
「………そういや素材以外でこいつ以外食った記憶ないな…持って帰って塩焼きにでもしてみるか」
『あ、マスター私も食べたいから私の分もお願い』
「えー、毒あるかもしれんぞ。そうじゃないにしても魔素の塊でもあるからちゃんとした処理しないと魔素中毒になるし」
『でも、そこらへんの処理法マスターなら知ってるでしょ』
「まあ、知ってるが」
『なら大丈夫じゃん、というわけでよろしくねー』
『あ、あのできれば私達のも…』
おずおずとみらいが遠慮気味に声を上げたのを見てクロウがため息を吐いた。
「やれやれ…魔物の調理なんてダンジョンに暮らしてた時以来だからうまく行くかわからんがそれでも良ければな」
そう言いつついまだ多数いるスラッシャートラウトの魔石を抜いて空間収納へと入れていく。
『あの、さっきやってた固定もなしにナチュラルに魔石抜きしてるんですが』
「そりゃこれくらいはできるし」
『じゃあなんでさっき固定させてたの…』
「そのほうがわかりやすいと思って」
呆れ気味のコメントに対してあっけらかんと答えていた。
その後も問題なくスラッシャートラウトを殲滅し終え、先に進んでいく。
『それで何匹くらい捕まえたの?』
「20匹くらいかな。失敗する可能性もあるし、久々に感覚を取り戻したい」
「魔物料理というのも気になるな」
「ねえソウヤ、これ終わったら私達にも食べさせてよ」
「えー…いいけどそれならもっと早く言ってくれよ。そうすりゃもっと多めにとっておいたのに」
「安心しろ、俺も20匹くらいは捕まえてある」
「私もよー。面白そうだから10匹くらいだけどちゃんと捕まえてあるわ」
「さいですか…」
二人の言葉に諦めたようにクロウはため息を吐いた。
「しゃあない。ギルマス。あとで会議室のほう抑えといて。あとギルドにある調理場借りる」
『わかりました。あ、私の分もお願いしますね』
「へいへい…」
『ギルドに行けばクロウさんの料理が食べられると聞いて』
『たぶん俺らの分はないよ…』
『そんなぁ…(´・ω・`)』
『おいしければそのうちギルドの食堂とかにメニューとして提示するのもありかもしれませんね』
『本当ですかギルマスさん!?』
『いろいろと確認事項などはございますが、それでも一般の方々が問題なく食せるのならば、新たなギルドの事業として展開するのもいいでしょう』
『魔物を使ったレストラン的な物かね』
『ちょっと忌避感もないわけじゃないけど食べてみたい感もある…』
「ていうか、普通に素材として落ちる物を調理して食べてたりもするから今更だろ」
『それもそっか』
牛、豚、鳥系の魔物からは当然肉が落ちるし、巨大な蛇の魔物などからも肉が落ちる。それらはギルドの食堂はもとより、一般のレストランなどにも卸されており、普通に食されている。魔物の肉と言われると忌避感が出てしまうだろうが、案外身近な物だったりする。
「私からするとあなたの国の人の食に対する執念のほうが怖いのよねぇ」
『まあ、それが昔からの性ですし』
『美味い飯は何よりも優先されるのだ』
ジェニーは言葉にしっかりと返答したリスナーに思わず苦笑を浮かべていた。
「おしゃべりはそこまでのようだぞ」
ロイのその言葉でクロウとジェニーも即座に身構える。今いる階層はおよそ28階層目。問題なく進めることはできたが、それでもかなり遠くに巨大な魔物の気配を感じた。
「ボスのようだな」
「だなぁ。はてさて何が出てくるかな」
「…この感じ、結構強いやつじゃない?」
離れた位置にいる魔物の気配は結構強いのか、それ相応の存在感を感じる。
「ソウヤ、見えるか?」
「まだ無理だな。暗くてよくわからん」
視認しようにも周囲にある光源はクロウが生み出した光球だけであり、それもそこまで広い範囲を照らせてはいない。
そんな中、ボスのほうにわずかな動きがあった。わずかに揺らぐような気配が入った瞬間、クロウが咄嗟に防御魔法を展開する。その直後…。
バチィィィィン!!
『うおっ!?』
『なにごと!?』
『クロウさん!!』
「大丈夫、ただの牽制だ」
牽制とは言ったが、それでも強力な水のレーザーが放たれてきた。それを防御結界で防ぐとすさまじい音と共に受け止められた。
「貫通力は高そうね」
「それでも俺の防御魔法を防ぎきれない程度だがな」
「それで、何かわかりそうか?」
「おそらくだがな…ほら、見えてきた」
光球をわずかに動かすと照らされた光が鱗を映し出す。
『なにこれでけぇ…』
『タイラントホエールよりでかくねぇか…?』
「まぁたN級かよ…」
その姿を見たクロウは呆れたような声を上げていた。
「そう言えばあなたのところ、最近N級魔物が多いんだったわね」
「N級騒乱にこの間の探索者襲撃事件。最近N級魔物が当たり前のように出てきて感覚鈍るんよなー」
「本来かなり珍しい奴らなんだがな」
そう言うジェニーとロイも戦う気満々といった様子で武器を手に取っていた。
『クロウさん、この魔物は…?』
みらいが戸惑い交じりに問いかけてくる。
カメラに映ったその魔物。蛇のように長い身体は鱗で覆われており、長いひげに背には首元から尻尾の先までたてがみが綺麗に生えそろっている。
「N級魔物。水龍神:リヴァイアサン。水棲魔物最強のN級魔物だ」
巨大な水龍の目がクロウ達の姿をしっかりと見据えていた。




