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S級探索者は推し活のために探索する  作者: 黒井隼人


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S級探索者はL級案件に誘われる


クロウとジェニーの講義を終えたクロウ達はギルマスが用意していた会議室へと移動していた。


「んで?L級案件に参加しろってどういうことだ」


全員が座ったのを確認してからクロウが切り出す。


「今回のL級案件の事情は聞いているわよね?」

「ダンジョンの位置が面倒だからWSM管轄にするんだろ?」

「ええ。そしてその隣接している海域の国がそちらが対応できないならこちらがやるって言いだしてね。少し厄介なことになっているのよ」

「そんなことできるんですか?」

「さっき講義であったL級案件に該当する項目の一つがそうだからなー。俺達でも対処はできるが、国境付近だし、水中は面倒だからでWSMに丸投げした感じなんだが、向こうからしたら自国で対処できないからWSMに委託したって感じに見えた…というよりそうしたかったんだろう」

「国境上に出現したダンジョンの場合多くが自国で対処するという話が吹きあがってそこからもめ事に起きることが多いのよ。ただ、中には自国では対処できないから相手国に管理を任せるってことも何度かあってね。それを前例に向こうから口出ししてきたって感じね」

「へー…」

「ダンジョンの資源って結構膨大だからなぁ…」

「こっちはそれより安全面を重視するからね」


今回のダンジョンに関しても水中でなければいろいろとやり方はあったのだが、ダンジョン内部も水中らしいのでそうなると探索できる探索者がかなり限定されてしまう。そうなると探索の頻度が減り、ダンジョン内の魔物が増殖、その後の魔窟暴走等の対処ができる人員も限られてしまう。そんな状況でのダンジョン管理はあまり旨味がないのでWSMへの管轄へと回したのだ。


「それでなんで俺がダンジョン探索に同行することに?」

「向こうに実力を示すためよ。正直以前のN級騒乱で十分だと思うけど、どうにも向こうはこちらの国のほうが下だと思いたいようね」

「そこらへんは国政のほうがいろいろとかかわっているんだろうね」


呆れたようなジェニーの言葉にギルマスが答える。

探索者に関しては国政と無関係と表立っては言っているが、それでも国に住んでいる以上無関係とはいえない。ダンジョンという資源の溜まり場への影響力があるからなおさらだ。

高ランクの探索者が多い=それだけ優秀という感じで他国にマウントを取ったり、救援として他国に探索者を送ってその資源を持ち帰ろうとしたりもしているとか。そんなことをしている国もあったりする。あまり悪質な場合はWSMから注意が入るが、それでも報酬として問題ないレベルでの持ち帰りは咎めることはできずにいたりもしている。


「とりあえず君が一緒に来ることであのダンジョンは問題なくこの国の探索者でも対処できると示さないといけないのさ」

「面倒くせぇ…」

「ま、それに関しては話は事前に聞いていたでしょ?」

「まあなぁ。それはそれとして面倒なのは変わらんが」


もともとそう言う理由で話は来ていたので不満があるとは言わないがそれでも面倒は面倒だった。


「今回私達は…」

「ああ、今回はいかなくていい。むしろ今回はクロウがメインで配信してもらう形になるから、こちらで実況解説をやってもらうことにしようと思っていてね」

「何それ初耳」


おずおずと手を挙げたみらいへとギルマスが答えるが、その答えに対して驚いたのはクロウの方だった。


「先ほども言ったように今回の探索でクロウがついていくのは力を示すためだ。そのためにも配信が必要というだけの話。そしてクロウはもともと配信をしないから場を繋ぐということをしない。必要な解説はするがそれをする必要がなければ基本的に黙っているだろう」

「まあな」

「だから場を繋ぐための会話のために彼女たちには別の場所で解説というか実況をしてもらってワイプで君の配信を映すという形にすることにしたんだ」

「いつの間にそんなことに」

「ジェニーたちから話をもらった時点でね。実力を示すには配信が必要で、彼女たちを連れて行かせないとなるとこうなるからね」


N級騒乱に加え、探索者襲撃事件と何かとクロウも配信に出ては来ているが、それらはすべてクロウから望んだものではなく、出る必要があったがゆえに渋々出ていた物。その事件の合間に関してはみらい達の異世界転移とライラの件のみでそれ以外では出たことはない。

それでさえももともとはみらい達が主体でクロウはあくまでおまけというのが本人の考え方だ。それゆえに最初から自分主体の配信などはまずやらない。

だからこそみらい達が解説実況という主体を作ってそこでクロウを映せばそのままいつものスタイルでの配信ができようになる。


「みらいちゃん達はそれでいいの?」

「ええ。いつも見ているだけですからあまり変化はありませんし…」

「いつも一緒にいるから一回こっちを気にせず戦うマスターとか見てみたいなーって話もあったからね」

「まあ、そう言うことならそれでいいけどなぁ」


今回は特に探究者が関わっているという感じはしていない。L級探索者であるジェニーとロイがいる以上万が一が起こったとしても問題はないだろう。


「そう言えば最近そっちの方で変な奴がちょっかいかけてきてるんでしょ?」

「変な奴…ああ、探究者か?」

「そうそう。ロイが気にしてたのよね」

「そうなのか?」


ジェニーに言葉に壁に背を預けて黙っているロイの方へと視線を向ける。


「直接会ったわけじゃないから正確なところは異質な感じはしたからな」

「それはわかる」

「ソウヤ、あんたからしてあいつはどんな存在なの?魔物って感じはしないけど」


ジェニーの問いかけにクロウが考え込む。

フィンとリルを助けた時に現れ、一撃叩き込んだ。その時の手ごたえやそれ以降出てきたときの事を考えると明らかに他の魔物とは一線を画すような存在だ。


「魔物ではないのは確かだ。あんな魔物俺も知らんし、似たような奴ならいたが、それでも感覚的に全く違う存在だった」


不定形型と言われている霧やスライムといった魔物もいる。そう言った魔物は物理が完全無効であり、攻撃を食らっても一部崩れる程度でダメージらしきものを追わないがそれでも魔法や魔力を使った攻撃には耐性がない。探究者はそのどちらにも耐性がある…というか、どちらの攻撃でもダメージを与えられた感触がなかった。


「正直一度接敵したがよくわからん奴だった。殴りがあたりはしたが手ごたえがよくわからんのよな。ないわけじゃないが、ミストタイプやスライムタイプみたいな不定形の手ごたえじゃなかったし」

「そうか。まあ、どんな存在かわからんがあいつは底知れぬ奴だ。気を付けておけ」

「わかってるよ。んで、話は戻すが、L級案件に行くのはいいがいつ行くんだ?」

「準備もあるから三日後だ。問題ないだろうが、十分に注意をしてから行ってくれ」

「へいへい」


その後一通り手順などを確認してから解散することになった。


「そういやあんたら宿どうするんだ?」

「きちんとここのギルマスが用意してくれたわよ。きちんと二部屋分ね」


クロウの問いかけにジェニーが答える。


「そか、んじゃあ問題ないな」

「なぁに?私達が泊まる場所が気になるの?」

「いや、別にそこらへんはどうでもいいんだが、ダンジョンが活性化することも有るからいざという時の連絡先はどうすればいいかって話なだけだ」


今のところ遠距離からの監視からの話ではダンジョンの活性化及び魔窟暴走に関しては発生可能性は低いと言われているが、あくまで低いだけであって0でないわけで万が一がある以上WSMに問題を委託した以上何かあったとしてもL級探索者の元で行動を開始しないといけなくなる。それゆえに連絡が取れる状態じゃないといろいろと困るのだ。


「なぁんだ、そう言うこと。ま、そう言うことなら問題ないわよ。きちんとそちらのギルマスと連絡とれるようになっているから、何かあったらそれ経由で来るわよ」

「ならいい。んじゃまたな」


そう言ってさっさとクロウはその場から離れ、その後をみらいとシェルフ達がついてきた。

その背中をジェニーはじっと見つめている。


「満足したか?」


そんなジェニーにロイが声をかける。


「いいえ。正直なんであんなに彼が執着しているのかよくわからないわよ」

「だろうな。正直俺だってよくわからん」


今回のL級案件。本当は別のL級が来る予定だった。しかし、場所がこの国だということを聞いた瞬間、ジェニーが確認したいことがあるからと割り込んできたのだ。


「私達と会った時は一度も笑った事すらないのに、ずいぶんと感情豊かになったわよね」

「ああ。だが、そのおかげかあの時感じていた危うさはなくなった。俺としてはそれで充分だ」


たびたび出ていた配信。ジェニーたちは姿を隠していてもクロウがかつて出会い、何度か共に探索をした黒川宗谷であることは察していた。しかし、それと同時に信じることができなかった。全く無感情ともいえるような彼が、あそこまで流暢にしゃべり、感情を表に出している様を。そしてそれを引き出したのがたった一人の女性によるものだということも。


「ほんと、何がいいんでしょうね」

「さあな。それはソウヤにしかわからないんだろう」


ただ無感情に力を追い求めて戦い続けていた少年が、今では感情豊かに己が望むように探索している。そんな変化が嬉しいようなどこか不服なような不思議な気持ちが胸に灯る。


「あいつ、どこまで強くなるだろうな」

「さあ?ただ…どれだけ強くなってもこちらには来ないでしょうけどね」


クロウがN級になる事はまずないと二人は察している。それでもWSMからは彼を勧誘するように言付かってはいた。伝えはするが断られるだろうなと考えつつ、二人もギルマスに用意されたアパートへと向かうのだった。



「ただいまっと」


ギルドの前で遥達と別れ、クロウ、シェルフ、マーサ、みらい、リル、エメルがクロウの自宅へと帰ってきた。


「おかえり」


それに気づいた六華が勢いよく玄関へと飛び込んできた。


「おっと、ただいま。六華も帰ってたのか」

「うん」


抱き着いてきた六華を受け止め、軽く頭を撫でる。そんな六華がふと顔を上げて後方にいるみらいに気が付いた。


「あ、ママだ!」

「こんにちは、六華ちゃん」


みらいの姿を見た六華がクロウから離れてみらいへと抱き着く。


「さて、玄関でたむろってても仕方ないから、リビング行くよ」

「そだねー」

「その前にうがい手洗いしないとですね」


みらいに言われ、それぞれうがい手洗いをしてからリビングへと入る。そしてクロウはそのまま台所でお茶の用意をし始めた。


「んで?シェルフが連れてきたけどなんかこれから話すことでもあるのか?」


みらいを自宅へと送ろうとしたのだが、それをシェルフが待ったをかけ、こちらの方へと連れてきたのだ。


「まあ、解説配信の打ち合わせをねー。それと、何となくマスターとあのL級探索者の二人の関係をみらいさんが気にしてたみたいだから」

「え!?いえ、そんなことは…」


唐突に言われて慌て始めるみらいにクロウは苦笑を浮かべていた。


「関係性って言っても昔探索してた時にかち合ったってだけだよ。まあ、その後何度かまとわりつかれてはいたが」

「そうなの?」

「ああ。まだ母さん達を探していた時にな。みらいちゃんの配信を見始める前で、ただ淡々と探索してた時だったからなぁ。それにランク上げる気なくてC級のままだったから。C級探索者がA級ダンジョンとか行ってて興味ひいたんだろ」


あの頃は力を求めつつマーサ達の事を探していたのでそれなりに高難易度のダンジョンに行っていた。それ故かS級であるが国外のダンジョンに武者修行的なノリで来ていたジェニーとロイと何度かかち合っていたのだ。

その頃のクロウは実力としては十分にS級ほどの実力を持っていたのだが、ランクを上げることを拒否していたがゆえにC級でA級ダンジョンを踏破する人物としてそれ相応の噂にはなっていた。そこから興味を持ったのだろう。途中からは待ち伏せされることも有ったが、本人は一切気にせずいつも通りの探索を続けていた。


「誘われたりしなかったの?」

「誘われたぞ。ただ、母さんたちを見つけるのが第一目標だったからな。断ってた」

「国内のダンジョンにいると思ってたの?」

「直感的な物だがな」


どこにいるかはわからないが何となくだが国外のダンジョンにはマーサたちはいないと思っていた。その直感が当たっており、一緒に暮らしていたダンジョンのどこかに潜んでいたのだが。


「一緒に探索とかしたんですか?」

「何度かな。待ち伏せされてついてこられたってだけだが」


そこまで言ってふと思い出す。


「そう言えばみらいちゃん」

「なんですか?」

「ジェニーの戦い方、どこまでできるかわからないがしっかり見ておきな」

「なんでですか?」

「あいつの武器、魔銃なんだよ。みらいちゃんが持つ奴とは違うタイプの奴だけどな。それでも戦闘の参考にはなると思うぞ」


そう、あの時の事を考えていて思い出したのだ。二人の武器について。ロイの武器はかなり特殊で参考にはならないだろうが、それでもジェニーはみらいと同じく魔銃使いだ。それなりに参考にはなるだろう。


「違うタイプって?」

「あいつの魔銃、魔弾を使わない魔銃なんだよ」


シェルフの問いかけにクロウはそうやって笑って返した。




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