S級探索者はガチイベに挑む
機器のアプデを一通り終え、その報奨金もしっかり振り込まれた。
税金なども一応あるのでさすがに全額をガチイベ予算に回すわけにはいかないが、それでも予算としては2000万ほど手持ちにある。
推しである桜乃みらいが配信している媒体でのイベントは大雑把ながらのボーダーというものがあるのだが、それらはそのイベントでどれだけの人が本気で挑むかによって変更する。
そこまで本気でやらず、できれば入賞したい。その程度の人がほとんどであれば20~30万前後が1位のボーダーとなる。
しかし、そこに何人かの人が本気で行うとボーダーが倍近くまで上がり、50万~60万ほどとなる。
しかしこれはあくまで入賞できる人数内に本気を出す人が収まった場合だ。
例えば入賞できるのが上位3人だった場合、イベントの内容によって多少の待遇の差はあれど、そこまで熾烈な争いになる事はない。
しかしこれが4人以上となった場合話が変わってくる。
イベントを行う場合、大概の人がリスナーたちに自分が今回のイベントを本気で頑張るということを示すために名前にそれらの事を書いたりする。『〇〇@△△イベガチ』といった感じにだ。
それらが入賞人数以上にいた場合、1位のボーダーが馬鹿みたいに跳ね上がり、低くても100万ボーダー、下手したら500万や600万などもザラである。
そしてそこにたまに娯楽のように投げるお金持ちなどが来たらさあ大変、1位が1000万を超えたりするなども有ったりする。
まあ、さすがにそこまで行くことは稀ではあるが、それでも人数次第では100万ボーダーを超えることはよくある。
今回みらいが参加するイベントも入賞人数は多いのだが、それぞれ順位によって待遇が変わってくる。
雑誌のイベントは1位が見開き、2位と3位が1ページ、4位~7位は1ページに半分ずつといった感じだ。
それゆえに入賞人数自体は多くても本気で来る人は1位狙いであり、熾烈な1位争いが勃発する。
1位ボーダーはとてつもなく高くなりそうだが、入賞自体はそこまで高くはならないだろう。たぶん。
まあ、それでも推しである彼女を1位にするために宗谷も全力を出す。企画をつぶさない程度に。
「あ、一応ギルマスに連絡しておかんと」
この間の魔族が召喚されたことで流華にも話が行っている。そこで魔族に関しては現段階ではS級探索者であれば問題なく対処できる、と判断しそれぞれに個別で連絡が入ったようだ。
そして必要とあらば出動要請が放たれるのだが、宗谷はこれからガチイベへと挑む。
そんな時に呼び出されたくはないので向こうから連絡が入らないように先に連絡しておく必要があるのだ。
連絡用のスマホを取り出し、ギルマスへと電話する。
『もしもし、宗谷か?何かあったのか?』
「いんや、ただ事前に連絡しておこうと思ってな」
『なんだ?また推しのガチイベとかいうのか?』
「当たり、というわけでいつものように一週間ほどそっちに専念するから。まあ、必要とあれば稼ぐために動くことはあるだろうが」
『全く…魔族の件がまだ片付いてないんだがな…まあ、わかった。一応緊急の時だけは連絡するからそれだけは理解してくれ』
「あいよー」
『ああ、それと流華が捕まえた新しい魔族から得た情報なんだが、やはりこの国…というかこちらの世界への侵攻を進めているようだ』
「手法は?」
『先遣隊として魔族を何人か送り、そこで安定した洞窟内の魔力を使って安定したゲートを作成、その後ゲートを通して本隊を送り込んでの侵略。とのことだ』
「ふぅん。先遣隊の数は?」
『それに関してはわからなかった。もともと宗谷が捕まえた魔族がその役目を担っていたらしいが、それが連絡が途絶えたので今回の魔族が追加で派遣されたらしい。今後も同じような感じになるだろうって話だ』
「なるほどね」
一応この間依頼されたものは完了したので、現時点で発見されているダンジョンに魔族がゲートを開こうとすれば事前に把握できる。
さすがに一人ずつ毎回送り付けてくるとは思えないし、次あたりで何人かばらける形で送り付けてくるかもしれないな。
『まあ、確定ではないにしろ、魔族も他のS級探索者で対処できるんだ。数が多くなければお前の手を煩わせないようにするよ』
「そうしてくれ。まあ、約二名ほど配信に映さないように言っておかないといけないだろうがな」
『ああ、それなんだが別に隠さなくてもいいことにしてあるんだ』
「いいのか?」
『ああ。別にこちらで対処が可能だということが判明しているからな。万が一はあれど必要以上に隠さなくても、これらに関しては把握し、対処も可能である。と伝えておいた方が無駄な不安をあおることもないだろう』
「あっそ。まあそこらへんは俺の管轄外だから別にいいがな。とりあえず一週間ほど休み取るからよろしく」
『あいよ』
話を終え、ギルマスとの通話を切る。
「にしても魔族の侵攻ね…」
二度にわたる別世界からの侵攻。一応未然に防げている部分ではあるが、それでも向こうは諦めるつもりもないようなので面倒でしかない。
この国だけに来ているのか、それとも他国にも来ているが、こちらと同じように知らせていないのか。そこらへんはよくわからないがまあ推しの配信の邪魔さえしなければ別にどうでもいい。
「さぁて…配信は…21時からか。結構長くやるだろうし、今のうちに仮眠でも取っておくかな…」
現在の時刻は14時。いつもガチイベの時は午前3時や4時まで配信しているので、途中で寝落ちしないためにも今のうちに仮眠を取っておきたい。
同居人であるシェルフも特に反応がないし、まあ放っておいても大丈夫だろう。
すでに課金はして残弾は潤沢だ。そしていつでも課金できるようにしてあるので、現時点で足りなくなっても問題はない。準備が完了していることを確認したので宗谷は一度仮眠をとることにした。
21時。
陽が完全に沈み、人々が仕事から解放され(なお一部)自宅でゆっくりとしている時間。
そんな時間にピコンと通知音と共に一つの枠が始まった。
「来たか」
しっかりとガチイベに備えた宗谷がスマホを手に取り枠へと入る。
クロウさんが入室しました。
「クロウさんこんばんわー、相変わらず早いね」
『待機してたからね』
いつも通りの挨拶と共に他の人がどんどん入室してくる。その一人一人へとみらいは声をかけ、挨拶していく。
「一応イベントの説明に関しては10分ぐらいにするからね」
『はーい』
『(((*゜ω゜*)))ソワソワ』
『クロウさんが…クロウさんが投げたくてソワソワしてる!』
「クロウさんステイ」
『(´・ω・`)クーン』
『わんこかな?』
どことなく浮ついた雰囲気の中10分ほど経過し、入室も落ち着いたようなのでみらいが説明を始める。
「さて、今回雑誌イベントをやります。1週間の詳しいスケジュールに関してはSNSに挙げてあるので確認してください。それと特典に関してもそれぞれの日は最大5000ポイントまで投げてくれた人にその日のデジタル特典とかを差し上げます。スマホの壁紙とかここで使うヘッダーとかアイコンリングとかだね。それらに関してもSNSに乗ってるので確認してください。あとイベント内に投げてくれたポイントの総合ポイントでグッズなども贈りますので、よかったら目指してみてねー」
『グッズは最高で100万ポイントか。これって自己申告制?』
「うん、一応その予定。まあさすがに結構高い金額投げてくれた人は覚えているけどね」
『なるほどなるほど』
「それとクロウさんは初日でグッズコンプしようとしないでね」
『なぜバレた!?』
『初日に一人で100万投げるのはやばいのよ』
『まあ、それでこそクロウさんともいえるが』
『解せぬ(´・ω・`)』
「他の日も企画あるし、皆大好きなガチャ枠もあるからね。そこでたくさん投げてくれると嬉しいな」
『ガチャ枠…ヘッダー…全被り…うっ頭が…』
『先生!クロウさんがヘッダーガチャに苦しんでいます!!』
『資産があってもガチャ運がないクロウさんぇ…』
『畜生(´;ω;`)ブワッ』
「あはは…まあ、他の日にもね、いろいろと企画考えてきたので、皆で楽しみながらイベントやっていきましょう!それと今日はね、全ギフト耐久を2周!やるつもりなのでよろしくお願いします」
『全ギフト2周とはなかなか…』
みらいが配信している媒体ではギフトというものがあり、それらのポイントの総額がイベントポイントとして反映される。
そのギフトは安いものでは10ポイント、高いものでは10万ポイントと幅広い。
低めのポイントの物ではハンコを押したような小さいものだが、1万ポイント超えたギフトに関しては結構派手な演出となる。なのでそれを見て楽しんだり、配信者を驚かせたりと、いろいろと遊び心があるシステムなのだ。
「まあ、初日だからね。勢いつけたいのもあるし、すぐ集まらないとは思うからじっくりと集めていきたいなと思ってね。それじゃあ説明終えたので…」
『投げていい?投げていい?(((*゜ω゜*)))』
『めっちゃソワソワしてる人がいるw』
「もう仕方ないなぁ…いいよ」
『ヒャッハー!!(゜∀゜)』
そのコメントと共に一気に三つのギフトを投げつける。
そのギフトは10万ポイントと5万ポイント、3万ポイントの金額のなかでは上位3つのギフトだ。
「ちょ!いきなり大きい!!」
『うーん、さすがのクロウさん』
『耐久即終了かな?』
『この耐久を終わらせに来た!』
『シャ〇クス!ポイントが!!』
『なに、これくらい安いもんさ…』
『18万ポイントは安くないんだよなぁ…』
演出が流れている間にもコメントは流れる。ちなみにみらいはその演出のスクショを撮っている。これらもイベントが終わった後でまとめてSNS等で流すのが恒例だったりもする。
「もう…ありがと」
『ういうい( ˘ω˘ )』
「あ、それと何投げたかはクロウさんがカウントしてくれるのでみんなも自由に投げてね」
『じゃあ裏方行ってきまーす…(´・ω・`)イソイソ』
『自分で投げて自分でカウントしに行くのか…』
『あの人たまに気まぐれででかいの投げてくるから油断しちゃだめだぞ』
『(゜∀゜)アヒャ』
ガチイベ前に裏方の仕事の一つとして投げられたギフトのカウントを頼まれていたので、PCのほうでギフトリストに線を引いていく。
一つ投げられたものに関しては射線一本で済ませ、二つ投げられた物は×になるようにしてある。
これを定期的にみらいへと送り、それをSNSに挙げて進捗を報告するといった感じだ。
『さて。じゃあこっちも負けてられないね!投げていくかぁ』
そういって他のリスナーもどんどん投げていく。
さすがに10万や5万のをいきなり投げるというのはしないようだが、それでも1万や3万のが投げられた。
『真っ先に埋まるのが3万ポイントのギフトなのバグかな?』
『10万と5万のも埋めちゃう?(゜∀゜)』
「耐久すぐに終わっちゃうからやめてね?」
1万以上のギフトは種類がそこまで多くない。1万ポイントに関しては5種類で3万ポイント以上のはそれぞれ1種類しかない。まあ、演出を追加するのが大変だったりもするし、いろいろとあるのだろう。
ちなみに演出ありのギフトで一番多いのは1000ポイントの奴だ。
そこには期間限定の季節ものの演出があったりするので、数はものすごく多く10種類以上にも及ぶ。
10ポイントのも30種類以上あるがこれはすべて動くハンコのようなものでそこまで演出にこだわりはない。それでも投げやすくこまごまと投げられていたりもする。
序盤はそういった投げやすいギフトなどがどんどん投げられるので、カウントがいささか大変ではあったが、それでも順調にスコアを伸ばしていくのであった。