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S級探索者は推し活のために探索する  作者: 黒井隼人


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S級探索者は旧友と再会する


S級探索者であるクロウによる講義の途中。唐突に乱入してきたL級探索者であるジェニーとロイが教壇に立ち、クロウは呆れた様子を見せつつその場所を譲った。


『L級探索者!?』

『そう言えばこの二人見たことある!』

『何年か前に最年少でL級になったとかでニュースになってたよな』


唐突に現れたL級探索者にリスナー達もにわかに騒ぎ始めた。


「まったく、相変わらず自由だなぁ…」

「まあね!ソウヤはずいぶん変な格好してるわね」

「うっせ。あまり表立ちたくねぇんだよ」


久々にローブに仮面という不審者スタイルに言及され、ため息交じりに答えました。


『最近見慣れたからほとんどツッコまなかったけどいつまで不審者スタイルなんだろうか』

『偽物出てきたらやめるんじゃね?』

『見た目偽物出てきてもあの人の戦い方できんから無理よなぁ…』

『それでもたまにいるって報告を掲示板で見かけるけどな』

『まじかよ。よくやる勇気あるな』

『大抵数歩歩くだけでバレるけどな。そもそもクロウさん飛んでるやんけって』

『草』

「いや、俺も歩いているが?」


なんか話が変な方向に行こうとしたので思わずツッコミを入れてしまう。というかクロウの偽物らしき人物が出てきているとか初耳の話も気になってしまうのだが、そこらへんの話を突くとまた脱線しそうなのでスルーすることにした。


「それにしても、マスターL級探索者の人と知り合いだったんだ」

「シェルフちゃんも知らなかったの?」

「うん」

「まあ、こいつらと知り合ったの俺がギルマスに拾われて五、六年くらい経った時だからな。あまり表立って話すことでもないし」

「あの頃はあなた、もっとそっけなかったわよね。それにしても…」


ジェニーが唐突にシェルフへと顔を近づけた。


「な…なに…?」


突然距離を詰められ、戸惑いながらもシェルフはわずかに体を後ろにそらす。

そんなシェルフをジェニーは興味深げな様子で見ていた。


「なんだかおもしろそうな子を引き連れているわね、ソウヤ」

「それに関しては否定しないが余計なこと言うなよ」

「わかっているわよ」


そう言ってから買うような笑みを浮かべてシェルフから距離を取る。

シェルフはどこか不安そうな表情でクロウのほうを見るが、クロウは肩をすくめた後に大丈夫だとでもいうようにうなずいていた。


『なになに?』

『なんかあるん?』

「気にすんな。あまり脱線してても仕方ないからそろそろ講義のほうに戻ってくれ。する気が無いなら帰れ」

「もう、つれないわね。まあいいわ。とりあえずL級探索者について教えればいいのよね?」

「それとL級案件についてな。それを教えるための前情報としてランクについての講義をしてたんだから」

「OK-。それじゃあ始めるわよ」


仕切りなおすように咳ばらいをしてから改めてジェニーが話始める。


「さっきまでソウヤが説明していたようだけど、L級探索者というのは与える影響が変わっただけと考えてもらっていいわ」


そう言ってちらりとクロウのほうを見ると、クロウはささっと指を動かして先ほどまで講義で使っていたホログラフを変えていく。


「S級探索者は所属している探索者ギルドがある国のダンジョンならばかなりの裁量権を持っているわ。L級探索者はそれが世界になったと思ってくれていいわね」

『つまり世界各国のダンジョンを自由にできるってこと?』

「ええ。ただ、それで職権を利用してダンジョンを潰して回ると軋轢を生むからそれらを潰した理由などをしっかりと明記しないと賠償金とか請求されるけどね」

『ああ、場合によってはL級になって他国の有用なダンジョン潰して資源を減らそうとか考える奴がいるのか』

「ええ。まあ、まずいないけど国からそう言う指示があるって話はたまに聞くわね。その指示を聞いた瞬間、そのL級探索者は資格をはく奪されて犯罪者とされ、その国からのL級選定はしなくなるわ」

『国事態にもペナルティ行くのか』

「探索者を利用した攻撃みたいなものだからな。ま、そんなことする奴も従うやつもまずいないが」


そもそも探索者の大半が自由にダンジョンを探索するのを目的としている。最近では名を上げたいというものや配信などで知名度を上げたいというのもあるだろうが、その大半が権力などに縛られない物だ。

例えその後の生活が保障されたとしても、金輪際表の世界に出れなくなるとしたらその指示に従う理由はほとんどないだろう。


「それでL級案件だけど、これに関しては大きく分けて二つの事由があるわ。一つはその国の探索者では対処できない時。S級探索者がいない国だったり、そのS級ですら対処できないとなったらWSMへ依頼が行ってL級案件としてそのダンジョンを攻略、場合によっては封鎖かコアを回収して潰したりもするわね」

『そう言うことって結構あるの?』

「あるわよ。特に途上国が多いわね。鍛錬に向いていない環境だったり、装備を整えることができなかったり、難易度が高いダンジョンが多くてうまく探索者が育たないなんてこともあるからね」

『へー』

『やっぱ環境って大事なんやな』

「それでL級案件のもう一つの事由ってなんなの?」

「それは国際関係の問題によって騒動の元になりそうなダンジョンに関してよ」

「どういうことです?」

「今回のダンジョン探索に関してもそうだけど、ダンジョンというのは基本的にどこに出現するかわからないのよ。一説では地脈…あなた達には龍脈と言った方が伝わるかしらね?そう言った力が流れやすい場所にできるとは言われているけど、それ以外にもいくつかダンジョンできているから確定ではないのよね」

『なんかクロウさんがどっかで言ってた気がする』

「そうだっけ?」

『本人が忘れてるんじゃこっちだって覚えてないよ』

「ちょくちょく解説してると何解説したか忘れるんだよ」

『クロウさん…記憶力が…』

「やかましい」

「はいはい、マスター脱線しかけてるよ」


シェルフに注意され咳払いで気を取り直す。その様子にジェニーが苦笑を浮かべて講義を再開した。


「それで、さっきの続きだけど出現場所がどこになるかわからない以上、厄介な場所に出現することもあってね」

『例えば?』

「国境の真上とか」

『あ(察し)』

「二国…たまに三や四国を跨ぐようにダンジョンが出現することがあってね、そのダンジョンがどの国の物かって言うので揉めることがよくあるのよ。みんなもわかっていると思うけど、ダンジョン資源というのはかなり有用。そのダンジョンが一つ増えるだけで国としては数億どころか物によっては数兆を超えるレベルの資源を毎年生み出しかねないのよ」

『え、そこまでの物なの?』

「ああ。魔石がエネルギーとして使えるようになってからは世界のエネルギー不足が解消されたって話だし、魔物の素材は様々な日用品の材料になったり建材などに利用されたりと有用性が高いんだ。その有用性の幅が広ければ広いほど価値が上がるからそのクラスの金額にもなりうるんだよ」


クロウの補足にコメント欄も驚きに満ちていた。ダンジョンから手に入る資源が有用だというのはわかっていたが、それでも明確な金額などは言われることが無いのであまりピンと来てなかったのだろう。


「有用性が高いダンジョンに関してはWSM管理の元、それぞれの国が探索できるように管理するし、有用性が低い、もしくは危険性が高いダンジョンに関しては早々潰してもめ事が起きないようにしているのよ」

『今回の件はどっちなの?』

「今回は後者ね。海の中だから明確な国境ってのがわかりにくいけど、それゆえにもめ事が起こりやすいのよ。今回は一応こちらの国の領海内だけど、曖昧な部分もあるからね、一応ギルドの方からWSMに通達が来たから即座にL級案件として他国が関わらないようにしたんだけどね…」

『問題あったの?』

「問題というか、まあいろいろとね。あまりこういうことは言っていいかわからないから置いておくよ。とりあえずL級案件に関してはこんな感じかな。一応L級案件になったとしても、ダンジョンが有用なら今後もそのダンジョンを活用できるけど…」

「あのダンジョンの位置的にどれだけ有用でも使いにくいので潰していいでしょう」


ジェニーの確認するような目線にギルマスが答えた。


「だよね。WSMとしても同じ見解だし、最数判断は私達に任せるというから問題ないとは思うけど、一応発見者の意見は聞かなきゃだからね」


ギルマスの返事に満足そうにうなずく。


「さて、L級探索者とL級案件について簡単に説明したけど、何か質問はあるかしら?」

『L級探索者ってどうやってなるの?』

「L級探索者はS級探索者になった後、一定の成果を残すことともう一つの条件を満たすことでWSMから打診が来るわ」

『もう一つの条件?』

「移動手段よ。飛行機や船といった時間のかかる物じゃなく、どれだけ遠くても短時間で移動できるだけの移動手段を手に入れることが条件の一つなのよ」

『え、そんなものなの?』

「そんな物って言うけど、世界をポンポン飛び回れるレベルの物が必要だからな。ちなみに俺達の中でその移動手段を持っているのは俺と雷亜だけだ」

「そうですね。私達にはL級昇格の打診は何度か来ています。まあ、毎回断っていますが」


クロウの言葉に雷亜が頷く。


「傑や流華も移動速度としては遅くはないんだが、それでも現場に行くのは時間がかかる。最低限一時間以内にどこにでも行けるレベルの移動速度が必要なんだ」

「私達も国内ならそれぐらいで行けるけどね」

「海外だと遠いところだと四、五時間はかかるからな」

『移動手段使わずにその時間で行けるのはすごいのか何なのか』

『そこらへんもう感覚がわかんなくなってくるな』

『ということはジェニーさんとロイさんもその移動手段を持っているの?』

「ええ。私はこれよ」


そう言ってコンコンとブーツの踵を叩くと横側に小さなスラスターのようなものが現れた。


『うおっ!?ブーツが変形した!?』

『小型とはいえスラスターどっから出てきたんだ!?』

「これちょっとした空間収納みたいなのがついててね。ブーツ事態についているというわけではなくて、このスラスターを収納してるってだけだけど」


そう言ってブーツを見せるが…。


「お前一応薄着なんだから気をつけろよ」

「あら、興奮しちゃったかしら?」

「クロウさん?」

「違うわ。みらいちゃんの配信チャンネルなんだから変なところで規制にひっかかるようなことするなってこと」


身軽さを売りにしているからか、ショートパンツにスポーツブラのような上着にジャケットを羽織っている姿のジェニー。故に足の方もほとんどが生足故にそれを見せつけるような画角にコメントが沸き立っていた。

その様子を見てクロウもため息がてらに注意していたのだが、みらいから鋭い視線が向けられてしまった。


「ま、とりあえず私はこのブースターで魔力を放出して1時間以内に地球一周できるレベルの速度を手に入れているのよ。ぶっ続けでブースターを起動してても一週間はもつくらいの燃費でね」


L級探索者であるがゆえにジェニーもすさまじい魔力量を持っている。それでも一週間ぶっ通し使えるのは相当燃費がいいんだろう。


「俺はこれだ」


そう言ってロイが見せたのは一見するとただのサーフボードだった。


「俺もジェニーと同じでこいつに魔力を通して乗り物として利用している。移動速度もジェニーの奴をひけを取らんし、燃費も変わらん」


そう言って床に置いて乗るとわずかに光を放ちつつボードが浮き上がった。


『こっちはジェットじゃなくてホバータイプか』

『これでジェットと同じ速度出すの感覚バグりそう』

『というか何もない所から出したのはスルーですか』

『クロウさんで見慣れてるし…』


ざわざわとそれでもコメント欄は各々好き勝手コメントをしていた。


「さて、それじゃあ次の質問はあるかな?」

『あ、それじゃあ一つ。二人はL級案件で来たって話ですけど、二人一組で取り掛かるのが基本なんですか?』

「YES!何があるかわからないからね。大抵の場合は対処できるけど、それでも万が一を備えて最低でもコンビで対処するのが前提となっているわ」

「バディに関してはそれぞれ自分で選ぶことが基本だが、中にはWSMで指定されることもあるがな」

『へー』

「それじゃあ僕からも。お二人は流暢な日本語をしゃべれてますが、L級の人って言語にも精通しているんですか?」

「ああ、それは違うわよ。全部これのおかげよ」


そう言って腕輪を見せる。


「これはL級探索者に支給される専用の探索者証なんだけど、これによって通訳がされているのよ。私達の言葉が流暢に聞こえるのはそのおかげね」

『そんな機能もあるんだ』

「他国語を喋れないところもあるからな。そう言うところ向けだ」


そうやってクロウもたまに補足していく。

そんな感じで配信を進めていき、ある程度質問を受けたところで予定されていた終了時間になりそうだった。


「クロウさん、そろそろ…」

「あー、もうそんな時間か」

『え、終わり?』

『まじか、もうそんな時間か』

「まあなー。本来そんなに時間かからないと思ってたんだが、想定外の参加者がいたから予想以上に時間食ったな…」

『あー、まあ確かに』

「なに、もう終わりなの?」


終わらせようとしている雰囲気を察したジェニーがこちらへときた。


「ああ、ここを借りてる時間もあるからな」

「そんなのあなたの権力でどうにでもなるんじゃないの?」

「なったとしても区切らんといけんのよ」

「そう言うもんなの?」

「無駄に長引かせるとぐだるだけだからな。ってわけで、今回はここまででいいか?」

「そうだね…クロウさんへの質問コーナーできなかったのは残念だけど」

「そこらへんはまたそのうちな」

『まじかー』

『まあ、今後も同じようなことしてくれるならそれを期待しておく』

『結構勉強になったからね』

「まあ、調べればわかる事だが、こういう機会に探索者について知ってもらえるとありがたいな」

「そうだね。それじゃあ配信そろそろ終わりにしよっか。それじゃあクロウさん、講義ありがとうございました」

「ほいほい」

「それじゃあ皆また次の配信で会おうねー!」

『おつ』

『おつみらいー』


挨拶を終え、その後エンドクレジットを入れて配信の終了を確認した。


「……よし、大丈夫。配信終わったよ」

「あいよ。さて…んで?ジェニー、ロイ。途中で乱入してきて何の用だ?」

「え?」

「講義で面白そうだからって来ただけじゃないんだろ。なんか用件があるんだろ?」

「さすが、察しがいいわね。ソウヤ、今回のL級案件、あんたも来なさい」


不敵に笑うジェニーはそう命令してきた。





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