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S級探索者は推し活のために探索する  作者: 黒井隼人


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S級探索者は講義する


みらい達からの出演依頼から数日後。ギルマスとの打ち合わせも済ませ、配信当日となったので、ギルドの会議室の一つを借りてS級探索者であるクロウメインの配信が始まった。

教師役ということで一番目立つ場所にクロウが立っており、教室のように複数の机が横並びになっていて、その最前線にみらい、シェルフ、六華、詩織が座っている。

そして教室の脇の方ではマーサとリル、フィン、エメルのフェンリル一家が集まってのんびり昼寝をしていた。


「さて…勉強会ということで俺が先生役、みらいちゃん達が生徒役として参加というのはいいんだが…」


重い溜息をつき、みらい達の後ろに座っている面々へと視線を向ける。


「なんでお前らがいるんだよ」

「まあまあ、気にしない気にしない♪」


そう言って笑顔で手を振るのは他のS級探索者である遥だった。その列には他にも雷亜に流華、傑の姿もあり、S級探索者そろい踏みである。


『引率の先生かな?』

『どちらかというと保護者枠?』

『本来この人達からも教えを乞いたいような…』

『そうか?感覚派な人もいるから教わってもわからないってこともありそうだが…』

『そこらへんはクロウさんもだし…』


その様子を見てリスナー達も好き勝手言っていた。


「やれやれ。まあ、今回に関してはあまり技術とかそう言うのは説明せず、基本的にギルドの制度に関することを話す感じになるがな」

『そうなの?』

「ああ。最近ちょっとした事件もあってそこらへん、わからない人も多いだろうからそっち方面をな。ギルマスにもちゃんと許可は取ったぞ」

『ああ、そう言えば数日前にどっかの海域で漁師さんが魔物に襲われたんだっけ』

『そう言えばそんな話がニュースであったね。そのこと?』

「そうそう。あれが少し特殊案件になったから、それについての説明と漠然と広まっている探索者の階級についての説明が主だね」

「一応クロウさんにお願いして説明が一通り終わった後に質問コーナーしてもらうようにしてあるからね」

「そのための質問募集もしたからねー」

『それならよかった』

『せっかく現役S級から直接話を聞けるからできればいろいろ聞きたいよね』

『まあ、そのS級さん普段からみらいちゃんの枠にいるけどね…』

『リスナーでいる時はそういう質問には答えてくれないから…』

「さて、んじゃあさっそく解説をしていくとするか。下手に雑談して質問コーナー無くなったら文句来そうなんでな」


そう言ってコホンと一回咳ばらいをして切り替える。


「先ほど話に上がったように数日前、漁に出ていた漁船が魔物に襲われた。その一件に関しては探索者ギルドのほうに報告が来て、即座にその周囲を調査、そして出てきたであろうダンジョンの場所も判明した。ただ、そこがいささか厄介な場所であり、その結果L級案件となったんだ」

『L級案件って?』

「世界探索者管理機構、通称WSM。そこに所属している探索者の事をL級探索者って言うんだ」

『あれ?探索者って全員そこに所属しているんじゃないの?』

「正確には違うんだよ。組織としてはトップにWSMがあり、そこから子会社のような感じで各国の探索者ギルドがある。基本的に俺達探索者はその国のギルドに所属してて、そこからある一定基準に達した探索者にWSM所属のL級探索者の打診が来るんだ」

『L級になったらどうなるの?』

「基本的に国境がなくなる。どこに行くのも自由だし、どのダンジョンにも潜れる。ただ、WSMからの依頼によるダンジョン探索でない限りはその国のギルドに探索で確保した素材や魔石は一定量納品しないといけないけどな」

『そうなんだ』

『まあ、さすがに強い人が好き勝手ダンジョンに入って素材やらなにやら持ち帰りまくったらその国としたら大損になるよな』

『それって決まった数なの?』

「決まった数というか、決まった割合だな。L級には特殊な腕輪が支給されて、それに討伐した魔物の数や手に入れた素材が記録される」

『それって外せるの?』

「外せるけどダンジョン内で外したらL級の資格を失う。いわば一種の身分証なんよ」

『へー』

「んじゃ軽くL級の事に関して話したし、探索者ランクについて触れていくか」


そう言ってクロウが指を鳴らすとホログラフの画面が出現し、そこに映像付きの文字があらわれた。


「え、なにこれ」

「マスター何してたの」

「ん?いちいち書いて消すの面倒だったから魔法陣作成の技術を応用してわかりやすいように図とか映し出したんだがなんかまずかったか?」

「あの…それってそう簡単にできる物なんですか…?」

「魔法陣作れる奴ならそこまで難易度高くないと思うぞ」


詩織の問いかけにクロウはあっけらかんと答えた。


『まず魔法陣を作れる人が少ない定期』

『そもそも作れたとしてもホワイトボード替わりにはせんだろ…』

『こういうところはほんと規格外だと思うよなぁ…』

「さて、それはそれとして軽く説明していくとしよう」


そう言って改めて映し出されたホログラフの画面を示した。


「探索者のランクは大きく分けて二つに分かれることができる。G級~A級の通常ランク、S級L級の特殊ランクの二つだ」

「クロウさん、その二つってそんなに違うの?」

「ああ。G級~A級はある程度の実力で上がることができるが、S級とL級に関しては明確な昇格ラインがある」

「昇格ライン?」


首を傾げる六華にクロウが頷いた。


「それについて話す前に一つ質問をしよう。リスナーにも聞くが、S級探索者と言われる人は知っているだろう。俺もそうだし、みらいちゃん達の後ろでのほほんと暇をつぶしている四人もそうだ。だが、S級パーティーというのは聞いたことがないんじゃないか?」

『言われてみれば確かに』

『A級パーティーの話はちょくちょく聞くけどS級パーティーなんて話は聞いたことがないな』

『そもそもS級パーティーなんているのか?』

「S級パーティーはいないね」

「そうそう。まずパーティーにS級は与えられないから」

「そうなんですか?」

「ええ、その理由が先ほどクロウが話していた昇格ラインですから」


コメント欄に対して遥達が代わりに返答した。


「S級になる条件って言うのは大雑把に言えば『あらゆる状況に一人で対処できる』ことなんだよ」

「あらゆる状況って例えば?」

「何度かS級ダンジョンの例題で話したことがあったかな?火山地帯の次に氷河地帯が広がっていたり、その次が砂漠地帯だと思えば次の階層が水中だったりと様々な環境が襲い掛かってくる。それだけじゃなく、S級魔物にしろN級魔物にしろ実力はもとより、数の多さや特殊能力、そう言った物にも一人で対処できることが条件なんだ」

『一人じゃないといけないの?』

「ああ。例えば五人のパーティーがS級パーティーを作ったとしよう。五人パーティーであらゆる状況に対処できる。だが、もしそこから一人欠けたら?戦闘不能になったというわけではなく、分断されたら?それでも問題なく対処できるのならばいいが、できなくなればその時点で壊滅だ。さすがにそれはまずいだろ?」


そう言ったクロウの言葉を聞いて思い出したのは先月に起こった探索者襲撃事件で現れたN級魔物ピノッキオ。

あの魔物は転移を強制させてくるS級ダンジョンにおり、ピノッキオ自身も相手を洗脳する能力を持っていた。その能力はクロウによってみらい達には無効化されたが、それでも産まれた時からいた六華はピノッキオの洗脳の手に落ちた。それだけでなくS級ダンジョンの特徴であった転移によって他の面々も分断され、それぞれで襲撃された。それらはすべてS級探索者がいたから対処できたが、もしあれが先ほど言ったようにS級パーティーであったなら?分断された時点でそれぞれできることが限られてしまう。その時に各個襲撃されてしまえば待つのは全滅だ。その時点でS級としての立場はない。

例え分断されようと、孤立しようと、どんな状況であっても対処できること。それがS級探索者になるための最低限であり絶対的な条件なのだ。


「クロウさん、それを示すにはどうすればいいんですか?」


詩織がしっかりとクロウを見据えて問いかけてくる。


「…S級になるには不定期で発生するS級昇格試験で合格しないといけない」

「そんなのあるの?」

『聞いたことないな』

「そりゃそうだよ。だって該当する人物にその連絡が行くだけだからね。一定種類のB級及びA級ダンジョンの踏破をし、一定数のA級モンスターの討伐、それらをソロで行うことで試験の通知が来る」

『え、それ全部ソロでやらないといけないの?』

「ああ。それができなければそもそも試験で死ぬ可能性があるからな」

『その試験の内容って言えるの?』

「ああ、言っても問題ないぞ。だって『対処できない』からな」


クロウの言葉に他のS級達も笑顔を浮かべて頷く。


「S級昇格試験の内容は至極簡単。とあるS級ダンジョンをソロで踏破することだ」

「それだけ…なんですか?」

「ああ。それだけだ。まあ、そのS級ダンジョン、俺がちょくちょく例題として出しているS級ダンジョンの特徴、それらを持っているダンジョンだがな」

『え』

『つまり火山地帯の次に氷山やら氷河地帯があって…』

『砂漠地帯の次に水中の階層があったり…』

『特殊能力持ちの魔物がいるっていうこと!?』

『え、そんなダンジョン国内にあるの!?』

「あるぞ。あまりにも危険だから要監視対象として場所は秘匿されているがな」

「え、待ってクロウさんそれ言って大丈夫な奴?」


想像以上の情報にみらいが焦ったように聞いてきた。


「ああ、問題ない問題ない。その試験内容に関しては秘匿されていないし、あくまでそう言うダンジョンがあるって言う噂に関してはすでにネットにも流れているからな。たまに試験失敗した人とかがネットで話していたりもするから。まあ、眉唾物として信じられていないことの方が多いが」

「さすがに場所を言うのはまずいけど、内容くらいなら問題ないよ。ギルマスもわざわざ言うほどではないけど隠すほどの事でもないって言ってるからね」


補足がてらに遥が言ってきた。


「そもそもそう言う部分を知らせないと勘違いした輩がS急にさせろと殴りこんできたりもしてなぁ…」

「あったの?」

「俺がS級になった際にちょっとね。『なんであんな奴がS級になれて俺はなれねぇんだ!』とかいちゃもんつけてきたんだよ。ギルマスが対処してたんだが面倒だったのか、俺に対処させようと丸投げしてきてなぁ…」

「どうなったの?」

「………」


シェルフの質問にクロウは顔を逸らした。


『顔を逸らしましたよこの人』

『やらかしたんだなぁ…』

「何したのクロウさん」

「いやね。あの頃は他の奴と絡むことはほとんどなかったのもあってね…」

「何したの」

「はい、加減忘れて一発で再起不能にしました」

「えぇ…」

「いやだって、S級にしろだのなんだの騒いでたからそれ相応の実力があると思うじゃん?だから加減せずにやったらまさかの一撃で再起不能になったんだもん、俺は悪くねぇ」

「あはは…たまにいるんだよねぇそう言う勘違いした人って」


S級を目指す人の大半がA級になっている。そしてA級とS級には天と地ほどの差がある。そしてA級である程度活躍すればS級になれると思って、自らを売り込んでくる輩も一定数出てくる。最近では遥や雷亜のように配信で実力を示しているおかげである程度の実力差が判明しているが、その時はそう言うこともなく、勘違いしている輩も多かった。


「ま、最近は遥と雷亜のおかげでそう言うのもなくなってきたがな」

「まあねー。私達の実力を提示するには配信とかちょうどいいからね」

「と言いましても、ここ数か月はクロウさんが表に出ていることも有るのでそれも入っていると思いますが」

「それに関しては不服なんだがな」


今回のような講義はともかく、あまりダンジョン活動で表に出るのはクロウとしては不服なのだが、ここ最近の問題でそうもいかなくなってきているから悩みどころでもあった。


「さて、大雑把な解説のほうはこんなもんかな。それで今のところで何か質問があるか?」

『あ、S級になって何か探索に変化あったりする?』

「んー…そこまで大きな違いはないが…それでもだいぶ自由にはなるな」

「そうそう。探索するダンジョンは国内ならばどこでも行けるし、イレギュラーとかの報告義務は変わらずあるけど、それでも対処するかどうかの判断は自分でできるからね」

「ただ、その代わり一つ一つの判断の重さは通常の探索者よりも重くなります。だからS級としての責任感はきちんと持った方がいいですね」

「そうだな。わかったか流華、傑」

「なんで私達に言うのよ」

「そうだぞ!」

「お前ら愉しさ優先でバトルメインにするだろうが…」


S級の実力としては十分ではあるのだが、この二人はいかんせん戦闘狂なところがあるせいか、対処できる問題をあえて見逃し、戦闘になるまで待つことがある。まあ、その後でも十分な対処ができるので問題はないのだが、それでもリスクがある分どうにかしてほしいという考えもあったりもする。


「ま、そんなわけでせいぜい探索できる範囲が変化するだけでそこまで大きな変化はないってことで。んじゃ次―」

『S級探索者しか知らないこととかあったりする?』

「そりゃ山ほどな。基本的に表立っていない部分とかいろいろとあるが、それらも俺らは知っている。とはいえさすがにそれを言うことはできないがな」

「そうそう。世の中知らない方がいいことも多いからねー」

「下手なことは聞かない方がいいですよ」

『ヒエッ』

「言いたいことはわかるが、笑顔で威圧するなや…」


遥と雷亜に対してため息を吐いてしまう。実際にクロウがたまに行く研究施設に関しては表には出せないようなこと…それこそ人体実験などもやっている。

大抵被験者は元探索者の犯罪者などではあるのだが、それでも道理に反している部分が無いわけではないので、そう言った部分は表に出せない。

そもそもダンジョン内の薬草やそれによって作られたポーションが安全かどうか試すためにはそう言った事が必要になるので、そう言った実験をするための研究施設であり、それらはS級探索者に秘匿義務を課したうえで教えている。


「さて。とりあえずこれに関してはあまり表立って言えないので次の質問に行きたいが…」


そう言うがコメント欄の流れが止まった。


「ほら見ろ、お前らが威圧するから質問が止まったじゃないか」

「えー、でも事実を言っただけだもーん」


悪びれた様子もなく笑顔を浮かべる遥にクロウはため息を吐いた。


「まあいい。とりあえずS級に関してはこんなもんかな?まだ話損ねていることも有るが、思い出せないからいいや。んじゃあ次はL級について…」

「それについては私が話すわ!」


その声と共にスパァン!と勢いよく会議室の扉が開いた。


「え!?」

『なんだなんだ?』

「…えー…なんでいんの…」


驚き振り返るみらい達、コメント欄でも唐突な乱入者に驚いている。そんな中クロウは一人、頭を抱えていた。


「久しぶりね!ソウヤ!」


そう言って会議室に入ってきたのは三人。一人は困ったような表情を浮かべつつも半ばあきらめたような雰囲気を醸し出しているギルマス。

もう一人は身長2mほどありそうな筋肉ムキムキの巨体な男性。

そして最後の一人は金髪ポニーテールの女性。


「………クロウさん、知り合い?」


若干目が座っているみらいが尋ねてきた。


「昔あったことがある顔なじみだよ。WSM所属、L級探索者ジェニー、そして同じくL級探索者のロイ。まさか今回のL級案件、お前らの管轄か?」

「YES!その打ち合わせに来たんだけど、貴方が面白そうなことやっているから私達も混ぜてもらおうと思ったのよ!」

「はぁ…おい、ロイ。ジェニーが暴走したらお前が止める役だろう」

「…止まらん」

「だと思ったよ」


諦めたようにため息を吐くクロウに向けてジェニーとロイが近づいてくる。


「これからL級について説明するのでしょ?なら私達がしてあげるわ!現役L級探索者であるこの私、ジェニーとロイがね!」


自信満々に胸を張っているジェニーはそう言ってクロウの代わりに教壇へと立った。


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