S級探索者達は事件を解決し帰還する
ピノッキオとの戦闘を終え、周囲を警戒する。
今回の事件は背後に探究者がいると考えていた。そして前回のハデスの時は先頭が終わった後にN級キメラを生み出すために姿を現した。今回も何かしら仕掛けてくる可能性があると考え警戒するが、特に何か変化はなかった。
「………考えすぎだったのか?」
「どうだろうねー」
戦闘が終わり、問題ないと判断した遥が近くへときた。
「クロウが読んだ通り今回もおそらく探究者が関わっていると思うよ」
「だとは思うが、だとしたらなんでここで出てこないんだろうな」
「出てこれないのか、はたまた出てくる必要がないのか。何となく後者な気がするけどね」
『前の時はなんで出てきたんだっけ』
『ダンジョンコア吸収したハデス達が倒されて、ハデス達の魔石が魔力となったからそれをまとめてN級キメラを生み出すためじゃないかとか考察班が考えてたな』
『じゃあ今回出てこないのはそれが無いから?』
『観察が目的であって何かしたいというわけではないのかもしれないね』
二人の会話を聞いてリスナー達もそれぞれ探究者の目的を考え始める。
「ま、これ以上特に何も無いなら他の人達と合流して帰るかい?」
「だな。調査したいところではあるが、どう調べればいいかもわからんし、痕跡もないしなぁ」
『六華ちゃんの方はどうなの?』
「かけられてた魔法全部解除したからなんも痕跡残ってなーい」
「そこから調べられなかったの?」
「んな余裕なかったんよ。ピノッキオの隷属の魔法解除しなきゃいけなかったし、下手に時間かけると六華死ぬし…」
「それなら仕方ないかー」
困ったようなクロウの言葉に遥もため息交じりに答えた。
「それで、ピノッキオに転移させられた他のメンバーの場所って割れてるの?」
「んー…さすがにわからんかなぁ…一応調査の時にある程度転移周波数のほうは把握したから場所がわかれば迎えに行けるけど」
そう答えつつプライベート用と仕事用のスマホを取り出す。
「確か詩織さんが配信してたよね?」
「そだねー」
プライベート用のほうはみらいの配信を映しているのでそのままで、仕事用の方で詩織の配信画面を見る。
「あー………ここか。OK、把握した。みらいちゃん達のほうは…」
詩織の配信画面は戦闘後でも特に景色が変わらず、似た景色が多いがそれでもどこにいるかは把握できていた。しかし、みらいの配信のほうを見た瞬間にクロウの表情が固まった。
『あ、クロウさんが固まった』
『そりゃあの光景みりゃ是非もなしよ』
クロウの対応にリスナー達も納得していた。
それもそのはず、本来自然豊かで木々が広がっている森林のようなダンジョンなのだが、その木々はほとんどがなぎ倒され、クレーターだらけとなっており、それだけでなく数多の氷山がそこかしこに乱立しているのであった。
「…………よし、まずは詩織さん達を回収するか」
『あ、目をそらした』
『クロウさん、みらいちゃんそこにいるんよ?』
「………少なくとも安全ではあるから…」
『すごい、短い一言でめっちゃ葛藤していることがわかる』
『そのまま放置したいけどみらいちゃんもいるから放置できないという』
『ほら、リーダー。あんたのチームなんだから何とかして』
「S級は基本単独行動なんだがなぁ…」
「まあ、私達はギルマスからの命令は受けるけどリーダーとかそう言うのはいないもんね。まあ、それぞれ好き勝手やっているからまとめ役が私やクロウに回ってきてはいるのは確かだけど」
「雷亜も信用はできるんだがいろいろとやらかしもあるからな…」
『失礼ですね。私はただファンと交流しているだけですのに』
「そのせいで問題になったことが何度あったよ」
コメント欄に現れた雷亜に対してため息交じりに答える。そういった問題の対処に何度か駆り出されたことがあるからだ。
「とにかく、そっち先に回収するから捕まえた奴らひとまとめにしといてくれ」
『わかりました』
「んじゃ行って来る」
「はいはーい、六華ちゃんに関しては私に任せてね」
六華を遥へと預け、クロウは腕を振るう。すると空間に無数の細い糸が出現した。
『なにこれ』
「転移周波数を視覚化した物だ。それぞれ行き先が違うものであり、これと自分の魔力の周波数が一致すると転移が発動する」
『ほえー』
説明した後にそのうちの一つに触れるとフッとクロウの姿が消失した。
「よっと」
「あ、クロウさん」
「マスターおつかれー」
そして次の瞬間には詩織達がいる場所へと姿を現していた。
「おつかれー。ってメッサいるなおい」
「お疲れ様です。正確な数はまだ不明ですが少なくとも三桁にはなりましたね」
「うへぇ…能力やら魔力量やらの把握が面倒そうだな…」
「まあ、それはギルドの仕事でしょうから」
「それもそうだな。とりあえず…ギルマス、いるんだろ?」
『はいはい、おりますよ』
「こいつらどうすればいい?」
『入口の方に人を待機させてあります。その人たちに引き渡せばあとはこちらに任せてくださって問題ないですよ』
「わかった」
『ああ、それと転移周波数の対処はお願いします。さすがにあなたが作ったその腕輪を全員分所持させるのは時間が足りませんでしたので』
「ほいほい。んじゃ、パパっといってみらいちゃん達の方も回収してくるか」
詩織達と共に捕えてあるピノッキオの手先達を全員まとめて転移周波数を使って入り口へと転移させる。
「よいしょっと」
そしてそれなりの広い範囲に魔法陣を展開し、ドームのような結界入り口を巻き込みつつ展開する。
「これで内部の周波数が安定するようにした。転移周波数も変動させないからここなら不意の転移が起きることもない」
『何それすごい』
『それずっとできていればここも安定して探索できるのでは?』
「拠点にはできるが、探索には向かないなー。魔法陣自体は動かせないし。それにこれ、そこまで長い時間はもたないから他の人が探索する手助けにはならんぞ」
『残念』
『さすがにそんなうまい話はないか』
「そりゃな。いくらS級とはいえ、S級ダンジョンに関しては対処できても安定化させるなんてできないんだよ」
マーサの話によってダンジョンが世界と世界の狭間にある物だということが判明した。そしてダンジョン自体一つの世界だということも。それを安定化させるということは世界そのものを書き換えるような物。そんな事、神ですら不可能だろう。
「クロウさん」
「ん?」
声をかけられ、そちらを見るとギルド職員の女性が笑みを浮かべてこちらへと来ていた。
「あんたは…」
「ええ、何度か『あちら』でお会いしております」
そう言って笑みを深める。その女性がいう『あちら』とは秘匿されている研究施設の方だろう。
「ああ、やっぱそうか。ギルマスから?」
「ええ。あの人達を回収し、検査等いろいろとするようにと指示されております」
『ほえー、すっごい美人』
『クロウさん、こんな美人な人とも知り合いだったんだ』
『クロウさん…?』
『アカン!みらいちゃんのヤンデレモードが発動する!?』
「え、なんで?」
『クロウさんがその職員さんにデレデレしてたから…』
「してないんだが?」
「あら、私には旦那がいるので求められても困ってしまうのですが…」
「なぜそうなった?」
『クロウさん、あとでお話があります』
『O☆HA☆NA☆SHIですねわかります』
「どうしてこうなった」
なぜかわからずみらいからのお説教が確定したクロウは頭を抱えていた。
「冗談はともかく、これで全員ですか?」
「いや、まだいる。ただ向こうはどんな感じなのか…」
「ああ、配信のほうは確認していました。流華さん達に関しては…たぶん大丈夫だと」
「まあ、仕事は仕事できっちりやるだろうから大丈夫だとは思いたいがな…とりあえず回収しに行ってくる。雷亜、ここは任せたぞ」
「はい」
一旦遥達と合流するために転移する。
「おかえりー」
「ほいほいただいまっと。さて、流華」
『なに?』
「そこ把握するために魔力周波数見せてくれ」
『わかったわ』
そのコメントが流れた直後、みらいの配信の方から流華の声が聞こえてみらいのカメラを手近な氷山の方へと向けさせた。
『魔力周波数を見せるってどういうこと?』
「前にも軽く話したかな?ダンジョン内の魔素にも周波数があってね、本来は目に見えないし、特に気にする必要はないんだが、ここではその周波数が転移に直結しているんだよ。そしてそれは魔法によって生み出されたものによって見ることができる」
『例えば』
「鉄や鏡のように光を反射させることができる物を魔法で生み出せばそこに映すことができる。そしてそれは…」
『できたわよ』
「魔法で作られた氷でもできる」
クロウの言葉を証明するかのように画面に映された氷の内部に無数の糸の波が表示されていた。これは先ほどクロウが詩織達のところへと転移する際に見せた転移周波数と同じものだ。
『すげぇ!!』
『これって普通の人でもできるの?』
「できるぞ。といってもある程度仕組みを知っていないと厳しいが」
魔力周波数は普通にやっても目に見えない。それを魔法や魔術によって実体化させたのが今の状態だ。理屈がわかれば誰にでもできるが、それをやるほどの理由があるかと言われるとこういう時にしか実用性がないので正直ないといったところだ。
「さてそれはそれとして………ああ、この周波数ならあそこか。うし、んじゃあさっさと移動するか」
「はいはーい」
遥と六華、そして六華を守っているエレメンツと共にみらい達がいる場所へと転移周波数を使って飛ぶ。
「ほい、到着っと」
「おー、配信画面で見てたけどひっどい有様」
到着した周囲は配信画面で見たように様々なクレーターができており、ところどころに氷山もできている。
「あら、遥も来たのね」
「うん、ピノッキオを倒した後何かあるかと様子見てたけど何もなかったからねー」
『しおりんのところに行くとき置いていったのそれが目的だったの?』
「ああ。あの時点で何も起きないからたぶん大丈夫だとは思ったが念のためにな」
「クロウさん?」
その声が聞こえた瞬間、クロウの体がびくりと跳ねる。そしてゆっくりと後ろを振り返るとそこには笑みを浮かべたみらいの姿があった。
「お疲れ様、六華ちゃんは大丈夫?」
「え、あ、うん。ちょっと大変な状態にはなったけど、今は問題ないはずだよ」
「そっか、他のところも大丈夫そう?」
「たぶん。少なくとも探究者が今以上に何かすることはないと思われるし、捕まえた奴らをギルドに引き渡してとりあえず今回の件に関しては解決だな」
「そっかぁ…じゃああとは帰るだけなら安心だね」
そう言うみらいの表情は笑顔だ。だというのにすさまじい圧をクロウは感じており、その圧を遥と流華も感じているのか数歩後ずさっている。
『ご覧ください、世にも珍しいD級探索者がS級探索者三人を威圧している風景です』
『珍しいってレベルじゃねぇだろ』
『画面越しでもわかるほどの威圧感だからなぁ…』
『ちなみにその後ろにいるマーサさんも少し距離を取っております』
『N級魔物すら怯ませるってどうなんよ』
『みらいちゃん、圧がどんどん強くなっていない?』
『鍛えられている…ということか…』
『余計なとこ鍛えんでもろて』
圧倒され、じりじりとクロウから離れ始めた流華と遥を見つつ、コメントの方でもリスナー達が圧倒されていた。
「それじゃ、あとでお話しよっか?」
「はい…」
推しであるみらいの言葉に逆らえるほどの意思を、クロウは持ち合わせていなかった。
「ふむ、こんなものかな」
光も闇も何もない黒い空間。そんな場所に探究者が浮いていた。
その視線の先にはモニターのように四角くく空間が切り取られており、そこから様々な景色が映っていた。そしてそこにはクロウ達の姿も映っている。
「魔法陣の力量に関してはやはり個人によるものといったところか。でも、魔力量に関してはやはりダンジョン内で暮らした人間のほうが同等の強さの魔物より高くなるようだね。まあ、適応できなければ死ぬだけみたいだけど」
そう呟きつつ手を軽く振るといくつかのモニターが消失した。
「それにしても、これくらいじゃ彼は怒らないのか。それとも彼女に対して被害がないと判断したから落ち着いていたのかな?」
その視線の先には笑顔のみらいによってタジタジとなっているクロウの姿があった。
「………やっぱ彼を暴走させるには彼女に対して直接的な危害を加えないといけないかな…。といってもさすがにすぐにはできないか…」
パチンと指を鳴らすとモニターがすべて消える。
「ま、まだ手札はたくさんある。次の一手を打つとしようかね」
その視線の先に新たなるモニターが出現する。そこに映っていたのは水の中に沈んでいるダンジョンの入り口が映っていた。
これにて一段落です。本来はキャラ紹介をはさみたいところですが、今のところ六華以外の紹介することがあまりないので(一応クロウやみらい達の新武器紹介はする予定)、先に幕間を投稿いたします。




