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S級探索者は推し活のために探索する  作者: 黒井隼人


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S級探索者は迷子になる


『え?迷子…?』

『クロウさんが?』

「え、どういうことなの?」

『いやぁ~…どこから説明すればいいのやら…』

「マスター今配信にいるってことは連絡とれるんだよね?電話できる?」

『問題ないぞー。いつものスマホのほうは配信見てるから仕事用のほうに連絡入れてくれ』

「はいはーい」


返事の後にスマホを操作してクロウの仕事用のスマホへと連絡する。数回のコール音の後にクロウの声が聞こえてきた。


「ほいほーい」

「あ、出た。ちょっと待ってねスピーカーにするから」

「うい」


トトンと軽く画面をタップしてからスマホをテーブルの上に置いた。


「それで?一体どういう状況なの?」

「さて、どこから話すべきか…」


ん~、と悩むような声が聞こえてくる。


『あまりよくわからない俺ら、置いてけぼり』

『とりあえず最初から話すんだよ!おらはやくしろよ!』

「あー…そうか、ある程度状況わかってるみらいちゃん達はともかく、リスナーのほうはほとんど何もわからんのよなぁ…」

「もう最初から話しちゃえば?」

「だなー。しゃあない」


諦めたようなため息が聞こえた後、一拍置いてからクロウは語り始めた。


「まず、六華についてだ」

「私?」

「そ。ちょっといろいろとあってな。そこらへんはさすがに憶測が強い部分があるから言えないが、それでもあの出会いに関しては何らかの作為的な物を感じた」

『作為?』

『誰の?』

「推測だが、おそらく探究者の」

『探究者って前回のN級騒乱で裏からちょっかいかけてたあの?』

「そそ。どうにもそういったところがちらほら見受けられてね。一応表立ってはみらいちゃん達に動いてもらってはいたけど、いかんせん探究者関連だからね。S級も裏で動いていたわけですよ」

『じゃあ今回クロウさんが調査に向かったのもそれ関連?』

「そそ。六華が暮らしていたであろうダンジョンが判明してね」

「え、そうなの!?」

「私達何も聞いてないんだけど?」


クロウの言葉にみらいは驚き、シェルフは不満げな表情を浮かべていた。


「あくまでおそらくって言う程度だ。それにちょっとそのダンジョン厄介な特性を持ってるS級ダンジョンでな。調査するにしてもみらいちゃん達を連れていくわけにはいかないから、まずは俺だけで調査しに来たんだよ」

「厄介な特性…ですか?」

「ああ。とある特定の条件で転移が強制発動してどこかに飛ばされるダンジョンでな。出現する魔物に関してはC級ダンジョンと同等だからそこまで強くはないんだが、その特性のせいで面倒なS級ダンジョンに認定されているんだよ」

「特定の条件ってそれが何かわかったの?」

「ああ。魔力や魔素には周波があるんだけど、その周波が合致すると転移が発動するみたいなんだ」

『周波?』

『周波数とかよくある電波や音とかでの波の事だっけ』

「そうそう。一定周期で起きる波の動きなんだけど、まあ、このダンジョンには無数の周波を持つ魔力が満ちててね。それが合致すると転移が発動する仕組みなんだ」

『何それメンドイ』

「もしかしてその転移に対処できなくて迷子になっちゃったとか?」

「いや、そこらへんはもうすでに対処済み」

「え」

「ある一定の周波数ならば転移しないってのがわかってね。自分一人ならそこらへん調整できるからちゃちゃっと調整して問題なくしたんよ」

『…そんなにあっさりできる物なの?』

『さぁ…?』


あっさりと答えるクロウに詩織やコメント欄は困惑していた。みらいと六華はよくわかっていないのか首を傾げており、シェルフは呆れたようにため息を吐いていた。


「まあ、マスターがおかしいことは今更だから置いといて」

「解せぬ」

「それで、対策で来たのならなんで迷子になったの」

「ああ、それなんだが、このダンジョン、通常の探索エリアとは別で、転移でしか行けない小部屋みたいなのがいくつかあってな。どうにもそこに調査対象の物があるようでそれを探してたんだよ」

「見つけられたの?」

「ああ。それで、そこに行くための周波数のほうも把握できたし帰ろうとしたんだけど…帰るための転移周波数とでもいうか、それがわからんくてね…今それを調べているところ」

「なるほど、それで迷子…」

『あれ?でも、クロウさんって転移魔法使えたよね』

「そう言えばそうだね。それで帰る事できないの?」

「あー…最初俺もそう思って転移魔法使ったんだが…。この転移周波数、俺の転移魔法にも悪さするみたいでな…」

「…転移できなかったの?」

「転移できはしたけど、全く別の座標に飛ばされてなおの事迷子になった」

「あらら…」


クロウ自身、転移魔法を扱えるので、調査を終えた後に入り口へと転移しようとしたが、その転移にもダンジョン特有の転移周波数が影響を与えたようで、全く別のところへと飛ばされてしまった。そこから戻るために転移しようにも、転移周波数が与える転移魔法による影響は完全にランダムなようで、どこに飛ばされるのか、調査しても判明がしなかった。


「なんでそうなるの?」

「んー…たぶん転移周波数が転移魔法によって放出される魔素に影響を与えて乱されるからだとは思うけど…そこらへんまだわかってないんだよなぁ…」

「ふぅん…」

「しかも一度使うとそれなりの時間転移周波数がしっちゃかめっちゃかになるみたいでまた調査しなおしたりとしてたら数日経過してました」

「何してるのまったく…」


あっけらかんとした言葉にシェルフは呆れたようにため息を吐いていた。


『………なんかすごいレベルの高い会話をしている気がするんだが…』

『よくわからなくて置いてけぼりなう』

『というか、シェルフちゃん、話わかってるの?』

「ん~…それなりに?よくわからないところはまあいいかでスルーしてるけど」

「説明しようにも感覚なところが多いから説明しにくいんだよ…」

「だろうね。それで、いつ頃戻れそうなの?」

「まだわからんがもう数日はかかると思う。とりあえず今の転移周波数での出口があるフロアへの行き方を調べて、安定する転移周波数をリスト化しておかんといけんから」

「りょうかーい。まあ、マスターなら大丈夫だろうけど、気を付けてね」

「ういういー」

「みらいちゃん、何か話すことある?」

「え」


一応聞くべきことは一通り聞いて一段落ついたからか、シェルフがいまだにきょとんとしつつ会話に参加できないでいたみらいへと話を振る。


「え、えっと…」

『ほら、クロウさん推しが困ってるよ』

『なにか話題提供して』

「キラーパスすぎん?」


唐突な無茶ぶりにクロウもまた困惑していた。


「そうやなぁ…話題…話題…」


いきなりのキラーパスに対して何か話題を考えようとするが…


「髪切った?」

『どこぞのグラサン司会者かな?』

『なんでよりにもよってそれなん?』

「いや、真っ先に浮かんだのがこれなもんで…。まあ、とりあえずこっちは何とでもなるから心配しなさんな。時間はかかるが対処はきちんとできる範囲だからね」

「大丈夫なんだよね?」

「うん。問題ないよ。ちょっと手間取ってるだけで」

「そっか。じゃあ待ってるからね」

「ういうい。んじゃあまたね」

「うん」


みらいからの返事を聞いてから通話を切る。


『ふいー( ˘ω˘ )』

『あ、戻ってきた』

『通話が終わってもこっちに来るんやね』

『やっぱ俺の居場所はここなんや!(゜∀゜)』

『なら早くダンジョンから出てきてもろて』

『はい(´・ω・`)』


コメント欄に戻ったクロウも速攻で他のリスナー達にいじられ始める。


「まあ、とりあえず問題なさそうでよかった」

「そうだねー。マスターがなかなか帰ってこないから何かあったかと思ったよ」

『まあ、迷子にはなっていたけどそれ以外は問題ありません( ˘ω˘ )』

「ちなみにそのダンジョンって調査が終わったら私達も行くんでしょうか?」

『ギルマスは連れて行かせる予定みたいよ。反対したけど強行されてます(´・ω・`)』

『まあ、クロウさん制御するのに一番都合がいい人だし…』

『お前ら俺をなんだと思ってる(´・ω・`)』

『加減を知らない信者』

『首輪付き狂犬』

『飼い主にだけ忠犬』

『誰が犬じゃ(´・ω・`)』

「フェンリルに育てられてたし、みらいちゃんに対しては似たような対応だし、間違ってないんじゃない?」

『それならせめて狼にしてくだしあ(´・ω・`)』

『どっちもイヌ科だろ』

『それいろいろ怒られるからアウト』


当初、クロウがいないことに関して不穏な雰囲気が流れた配信。しかしそれも遅れてきたクロウのおかげですぐになくなり、その後の状況説明で戸惑いがありつつも穏やかな配信へとつながった。

そんな配信から数日後。


「やっと帰れた~」

「お帰りなさい。遅かったわね」


自宅へと帰ってこれたクロウがマーサに出迎えられる。

今回の調査、転移によって分断されることも考えられてクロウ一人での調査となった。それに調査中に六華に対してかけられている仕掛けが何か作動することも考慮してマーサに託していたのだ。


「ちょっと厄介な特性でね。なかなか調査に時間かかったよ」


調査によってわかった転移周波数、それらにもいくつかのパターンがあることが判明し、その調査にも数日かかり、しかもその後のクロウ自身の転移によってその周波数が乱されることも判明し、その調査にも数日かかりと想定外な日数がかかってしまった。


「シェルフと六華は?」

「みらいさんのところにいるよ。何かあったらリルとフィンから連絡がくる手筈になっているわ」


親子であるマーサとリル、フィンはそれぞれ簡易的な念話ができる。念話といっても何かあったら気配でわかる程度だが。


「ま、ここまで何もなかったんだ。今更何かしてくるってことはないだろうがな」

「だろうね。おそらく待ち構えていて、そこで何かしてくるって感じだろうけど…予測はついているのかい?」

「んー…さすがに確定はしていないが…仕込みに関してはいくつか推測はしてる」


そう、何らかの仕込みに関してはいくつか推測ができている。最悪な物から最低な物まで。そしてそれに対する対処法もいくつかのパターンを加えて考えてはある。


「そう。それなら大丈夫でしょう。あなたほど器用ではないけど時が来れば私も動きます。あなたはあなたの思うままに動きなさい」

「ああ。ありがとうな、母さん」


穏やかにつぶやくクロウに対し、マーサも穏やかな笑みを浮かべていた。



数日後。


「うーし、準備完了!行くとしますか!」


六華が住んでいたであろうS級ダンジョン。そこの前にクロウ達S級探索者五人とみらい達が集まっていた。


「相も変わらずの大所帯ね」

「クロウ一人に任せるといろいろと危ないって話だからな」

「そうですね。解決はできるでしょうか、いかんせん鎖が外れるとどうなるかわかりませんから」

「俺は猛犬か」

「あながち間違ってないかもねー」

「そのためのみらいさんだし」

「荷が重い気がしますがね」


各々が緊張した面持ちもなく、自由に雑談をしている。その全員の手首には見慣れない腕輪のようなものが装着されていた。


「さて、改めてこの腕輪だがそれぞれ転移できる転移周波数の魔素を放出する。それを使えば特定の部屋へと飛ぶことができる」

「目的地はそのうちの一つってところ?」

「ああ。だから中に入って配信を始めてから目的地に行く感じだな。みらいちゃん達は万が一があったら出口がある場所へと転移して避難してくれ」

「うん」

「さて、それじゃあ行くとしますか」


それぞれが表情を引き締め、S級ダンジョンへと進むのであった。





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