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S級探索者は推し活のために探索する  作者: 黒井隼人


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S級探索者の推し達はサイクロプスに挑む


突如六華の行動によって活性化した澱み。そこから現れたB級上位の魔物サイクロプス。討伐自体はできるだろうが、みらい達の実力の差や連携の未熟さから苦戦はするだろうというのがクロウの見立てだ。

とはいえ、手を貸すほどの相手でもないというのがクロウの考えなので万が一が起きない限りは動くつもりはない。離れたところにある木の上で枝に座った状態でみらい達の戦いをしっかりと観察していた。マーサは木の根元で丸くなってまどろんでいる。


「やっほ」


そんなクロウの隣にふわりと静かに遥が降り立ってきた。


「遥?どうしたんだこんなところに」

「ちょっとわかったことがあってね。ギルマスに話したらクロウにも報告するようにって言われたんだ」

「俺に?」

「うん。今六華ちゃんが暮らしてたダンジョン探しているよね」

「ああ。一応連携の確認がてら可能性が低い所をまわることにしてここが最初だが」

「そのダンジョン、見つけたよ」

「早くね?」


六華に関することは遥達も調査を進めてくれている。おそらく背後にいるであろう探究者に関しての調査をメインにしているのだが、そこに到達するためにも六華に関しても調査はしていた。かといってまだ調査し始めて数日。まさかここまで早くに六華の住んでいたダンジョンが見つかるとは思っていなかったが…。


「まあ、これでもS級だからねー。それなりに攻略速度は速いのさ」

「そこらへんは俺もそうだから自覚はしてるが、それでも結構な種類あっただろ」


六華が暮らしていたであろう候補リストのダンジョンはそれなりの数があった。その中でみらい達でも問題なく攻略できるであろうダンジョンを絞ってみらい達に渡しており、それ以外を遥達に任せていた。それでも結構な数があるし、遥達に関してはおそらく無関係であろうダンジョンに関しても何か痕跡がある可能性も考慮して調査する手はずになっている。

それらをすべて調査したとは思えないが、それでもその中から六華が暮らしていたダンジョンを見つけるにはもうちょいかかると思っていた。


「まあ、おそらくってところで確証があるわけじゃないんだけどね」


そう言っておそらくそのダンジョンのレポートであろう紙を渡してくる。

みらい達のほうにも意識を向けつつざっとそのレポートに目を通す。


「…S級ダンジョン?まじかよ…」


レポートには候補の一つだが可能性としては低いであろうS級ダンジョンの情報が書かれていた。


「そこ、昔は何の変哲もないC級ダンジョンだったんだって」

「そうなのか?それが何でS級に」

「どうもね、当初調査した際は何もなかったんだけど、その時から一部で転移事象が起こってたらしいんだ」

「転移事象…つまり何らかの条件でどこかに転移させられるってことか?」


その言葉に遥は首を横に振る。


「完全ランダムに転移させられるみたいなんだ。なにかをしたから転移されるってわけでも無く、人や魔物だけじゃなく、そこにある木や石までもが転移させられるんだ」

「まじかよ」

「おまけに転移のタイミングもランダムなのか、立て続けに転移させられることも有れば、数時間たっても転移することはないという面倒気質さ」

「うへぇ…」


遥の言葉に気だるげな声が漏れてしまう。クロウ一人ならば何の問題もないだろう。しかし、ここにみらい達を連れていくとなると話が変わってくる。

その転移がどういった理屈で発生しているかは不明だが、まともな対処ができない場合は散り散りになってしまって必ず犠牲が出てしまう。みらいだけじゃなく、シェルフに詩織、フィンにリルにエメル。そして六華。彼女たちの転移に対処しつつ探索し続けるのはさすがのクロウでも厳しいかもしれない。


「…配信終わったら転移関連調査しに行くか…」

「そうしたほうがよさそうだよ。ギルマス、あのダンジョンにも彼女たち連れて行かせる予定みたいだから」

「なんでそうなるんだか…」


ため息を吐きつつサイクロプスと対峙しているみらい達へと改めて視線を向けた。



サイクロプスとの戦闘が始まり、みらいは二つのカートリッジを魔銃へと差し込み、それぞれ別の属性弾を発射できるようにした。


「エメル、六華ちゃん連れて少し離れていてほしいんだけど」

「クゥン?」


不安そうななんで?というような表情でみらいを見上げてくる。


「二人一緒だとこちれにヘイト向いてきたときに危ないからね。それに雷の魔法を使う際に移動できるように足になってほしいんだ」

「それ無くても動きながら撃てるよ?」

「かもしれないけど、ほんのわずかな硬直はするんじゃない?その後隙をかられちゃうこともあるからね」


身近にいるのがクロウであるからいろいろと価値観がバグっているが、普通は大きな魔法を使えばその後に隙ができる。クロウも物によっては前後に隙が生じるし、シェルフもみらいも大技を使えばその後に隙ができてしまう。そして大きな一撃を叩き込めばその分ヘイトを集めてしまう。サイクロプスにできるかは不明だが、その隙をかられないためのエメルだ。


「だからお願いね」

「ワウン!」


任せて!といったように吠えるとエメルの体が光だし、サイズが少し大きくなる。リルだけでなく、エメルもみらいやシェルフを背に乗せれるように自らの大きさを変化させる方法を教わっていた。いまだに成長途中だからか、リルやマーサほどではないが、自分の姿を大きくすることもできる。まあ、負担がかかるので常時そのサイズということにはできないが、それでも戦闘中に六華を背に乗せるくらいのサイズにはなる事はできた。

そしてそのサイズになったエメルの背に六華が乗り、みらいが頷くとポジション鳥のためにその場から駆け出した。


「さあ、私も頑張ろう」

『大丈夫?』

「うん、手はあるからね」

『クロウさんもなんか静かだし、どうしたんだろ』

『ちょっとね( ˘ω˘ )やることがあってね』

『そっちはそっちで大丈夫なん?』

『問題ないよ( ˘ω˘ )それより、戦いに集中してね』

「うん、わかってる」


コメントに答えつつもしっかりとサイクロプスのほうを見据える。今はシェルフと詩織の素早い動きで翻弄しているが、それでも二人の一撃は強靭な皮膚によって浅い傷にしかなっていない。リルとフィンが攻撃を加えれば大分ダメージを与えることができるが、成長を促そうとしている二匹はそれをせずに援護に徹している。その様子を見つつタイミングを計りながら右手の魔銃をサイクロプスへと向ける。

狙うは足元。右手の魔銃に装填したカートリッジの属性に変化した魔弾で狙う。

シェルフがサイクロプスの後方へと回り込み、正面にいた詩織が攻撃を回避し距離を取った瞬間、右手の魔銃の引き金を三回引く。

放たれた三つの弾丸が一つは地面に、もう一つはサイクロプスの右足の地面に、そして最後にサイクロプスの右足へと直撃する。そして直撃した場所からどんどん氷が広がっていき、サイクロプスの右足から広がった氷が足元に広がっている氷と繋がり、凍り付かせる。


『おお!うまく氷をつなげて動きを止めた!』

『でも一発外した?』

『確かに何もないところを撃ったよね』


的確にサイクロプスの右足を凍らせて、地面に広がっている氷と繋ぐことで右足を封じる。それによって動きが止まるが…。


「グオオオオオオ!!!」


雄たけびと共に右足へと力を籠めるとビキビキと氷にひびが入り、バキンッという音と共に氷を砕いて足の拘束を破った。


『げぇ!?氷が!』

「大丈夫、想定済みだよ」


氷を砕くために持ち上げた右足をみらいの方へと向かうために踏み込む。


『あ、そこは…』


しかし、踏み込んだその場所は先ほどみらいが地面へと魔弾を撃ち込み、凍らせた場所。そして砕いたからといって氷がすべて足から剥がれたわけでも無く、別々の魔弾によって凍らされた右足…正確には足の裏には氷の粒がいくつか張り付いたままだった。

みらいにしか見えていないのか、勢い良く踏み込んだサイクロプスは残った氷と地面の氷が滑り、態勢を崩した。


「グオッ!?」


突然足が滑り、転ばないようにしているところにみらいは左手の魔銃をサイクロプスへと向け、素早く四発魔弾を放つ。放たれた魔弾は的確に頭、腹部、両足へと直撃するとバチリと雷が迸る。


「六華ちゃん!」

「ん!『ライジング・ボルト』!!」


エメルによってサイクロプスよりも高い所へと跳躍していた六華が両手に集めた雷の魔法を解き放ち、特大の雷となってサイクロプスへと叩き込まれた。

すさまじい轟音と共に放たれた雷は、みらいがぶつけた雷の魔弾を誘引となって胴体と両足に雷が流れる。


「今です!」


みらいの言葉と共に詩織とシェルフが駆け出す。


「『紫電一閃』!」

「『ウィンドスラスター』」


魔力をブーストとして詩織が刹那の瞬間でサイクロプスとすれ違い、その一瞬で放った一閃がサイクロプスの右腕を斬り飛ばす。

それと同時にシェルフが無数の風の刃を自らの双剣へと集め、二つの剣戟として左腕へと叩き込む。叩き込まれた剣戟には重ねられた風の刃が解放され、途端に連撃となってサイクロプスの腕を切り裂いていく。上から振り下ろした剣と下から振り上げた剣がハサミのように左腕をはさみ、断ち切った。


『すげぇ!』

『まだだ、まだ仕留めきれてない』


両腕を切り落とし、攻撃能力を奪ったが、それでも生命力が強いサイクロプスはまだその姿を残している。


「みらいさん!」


シェルフの言葉に頷き、魔銃からカートリッジを抜いて魔弾の魔力を溜めていく。属性のカートリッジを使えばそれぞれの属性の魔弾を放つことができる。そしてその魔弾の出力を最大にすることで…。


「行きます!『フルバースト』!!」


最大出力の魔弾が放たれ、サイクロプスの腹部から上へと貫通して消し飛ばした。

体の上半身がほとんど消えたサイクロプスはぐらりと体を揺らしてから消滅し、魔石と素材のみとなった。


「…うっひゃ…すごい威力…」

「あれでも、前にハデスに当てた時よりか威力低いんですよね…」


みらいが放ったフルバーストの威力に思わず言葉が漏れてしまう。

魔弾に残っている魔力をすべて放出することで放つことができるフルバースト。以前N級魔物であるハデスとの戦いで一度使ったが、その時はほぼ残量フルの状態のフルバーストを放ち、それでもハデスの攻撃を止める程度の威力しかなかった。しかし今回の相手は上位とはいえB級魔物。耐久力が高いといってもN級とは比較にもならないし、途中で何発か魔弾を放ったことで残量が減ったとはいえ、そこまで大きな影響にはならないほどだった。

とりあえずサイクロプスを倒したので、周囲を警戒しつつ一息つく。


「お疲れ様」

「おつかれー」


それぞれ集まって相手をねぎらう。


「六華ちゃんもちゃんと連携取れているし問題なさそうだね」

「ん」


ドヤぁという感じでブイサインをしている六華。その様子にみらい達は笑みを浮かべていた。


「どうしましょうか。とりあえず澱みに関してはこれでいいんですかね?」

「そうだね…六華ちゃん、あの澱みに何したの?」

「ん?澱みを刺激しただけだよ?」

「刺激…?」

『クロウさん、説明』

『あー…澱みは停滞している魔力なんだよ。流れが止まっているから、そこに特定周波数の魔力を流し込むと刺激され、停滞している魔力が活発化するんだ』

「じゃあ六華ちゃんがやったことってそれ?」

『ああ。一応それに関しては結構周知されている技術ではあるんよ』

「そうなの?」

『うん。一般的には危険な澱み…例えばS級やA級ダンジョンでのイレギュラーとかそういった澱みに関しては魔力を流し込んで澱みを消したり、活性化させて処理したりするからね。六華がそれできるとは思わんかったが(´・ω・`)』

『難易度高いの?』

『高くはないけど、周波数とかで魔力を感知できるほどの高い魔力感知能力が必要なんよ。まあ、ダンジョンで暮らしていたからそこらへん感覚で学んだんだろうなぁ。俺もそうだし( ˘ω˘ )』

「なるほど、危険な技術ってわけじゃないのね」

『(ヾノ・∀・`)ナイナイ。普通に技術部門とかS級では使われている技術だから』

「そか。それならよかった」

「じゃあとりあえず問題ないってことで今日の探索はここまでにしておく?」

「そうですね。ここは六華ちゃんが暮らしていたダンジョンでないでしょうし、連携に関してもしっかり確認取れましたしね」

「ん?帰るの?」

「そうだよー。あまり長くいても疲れちゃうからね」

「わかった」

『今後の予定は?』

「配信ペースは変わらないかな。これからしばらくは六華ちゃんがいたダンジョン探しになるとは思うけど…」

「マスターのコメント少なかったし、何か裏で動きがあったのかもね」

『俺の動きで推測しないでくだしあ(´・ω・`)』

「わかりやすいマスターが悪い」

『解せぬ(´・ω・`)』


その後ワイワイと話し合いながらもダンジョンから出て、配信を終えた。


「…それで、どうするの?」

「…この部分か?」


みらい達を見送り、今後の事を話すためにクロウは遥と共にギルマスの元へと向かっていた。

そして問いかけられ、おそらくこの部分だろうとレポートの一部を示す。


「噂では聞いたことあるけど、実在してたんだねぇ…」

「母さんは知ってたのか?」

「ハデスのところにいた時に小耳にはさんだ程度だけどね。あまり私としては好きな部類じゃなかったから」

「だろうな…。どうした物か…これ配信に乗せるにしても厄介なことになりかねないぞ…」


困ったような表情を浮かべながら改めてレポートへと視線を向ける。

そこには二つの項目が書かれていた。


N級魔物:パペットマスター『ピノックス』

『人間牧場』



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