S級探索者の推し達は調査をする
ワイルドウルフの群れとの戦いが終わり、その後ちょくちょく魔物との遭遇がありつつも問題なく進めた。それでも時々通常よりも数の多い群れがちらほらと出てきていた。
「やっぱり多いねー」
「クロウさんが調べていたみたいですが、どうだったんでしょうか?」
『ん?今のところよくわからんというのが正直なところかな。このダンジョン、他より確かに頻度は低いけど、それでも探索自体はされているみたいだし、ちょっと気になる部分があるけどまだ様子見の段階だから』
「気になる部分?」
『澱みがあっただけよ』
「澱み…?」
「澱みというのはダンジョン内でたまに発生する魔素や魔力の流れが悪く、溜まってしまった場所の事ですね。イレギュラーが発生する原因という説もありますが、調査した人曰く澱みから宝箱が出現した。なんてお話も聞きます」
「へー」
『そんな物あるんや』
『そうそう。だから澱みに関しては良し悪しがなんとも言えんくてね。とりあえず様子見ってことにしておいた( ˘ω˘ )』
『放置しておいていい物なの?』
『イレギュラーの可能性もあるけど普通に発生する物だからなー。それに宝箱から魔道具が出てくることも有るから何とも言えんってところなんよ』
「そうですね。利点もありますからすぐに消すというのももったいない所ではあります。それにここはD級ダンジョンです。そこの澱みであればイレギュラーが出てきたとしても強くてもB級の中ほどの強さの魔物でしょうし、それならたぶん私達でも対処はできるはずです」
「そうなの?」
『そうだね。たいていイレギュラーはそのダンジョンのランクの二つ上くらいしか出てこないから、今の状況なら大抵の事なら対処できるさ』
『無理なら秘密兵器が動きますし』
『秘密になってない定期』
『むしろ結構な頻度で出張ってるよね』
『そうせざるおえない状況になる頻度おかしくね?(´・ω・`)』
『それはそう』
そんなのんきの話をしながら木々の間を歩いていく。
「それにしてもすごい木だよね」
『自然豊かよな』
『こういうところから木材調達とかってできないのかな』
「できますよ。といっても、やるのはもう少し低いランクのダンジョンで護衛依頼がギルドの方にも来ています」
『そうなんだ』
『護衛依頼なんだ』
「あー。そう言えば前にギルドのクエストカウンター見たらそんな依頼あったなぁ」
「そうなの?」
「うん、みらいさん待ってる間にちょっと気になってね」
「そう言う依頼って受けたほうがいいんですか?」
「んー…どっちでもって感じかな。ダンジョン探索してその素材をギルドのほうに渡しているとそれでちゃんと評価してくれるし。といっても、依頼解決のほうが悪いってわけでも無く、そっちは依頼人の評価が直接かかわるからね。質の悪い物を納品したり、仕事の手際が悪かったりすると評価が落ちて上がりにくくなったりもするの」
『あー、確かにダンジョンのこれが欲しいーって依頼して届いたものがボロボロだったとかだとブチギレそうよね』
『逆にいい物だと次も頼みたくなるからそう言うところか』
「そうそう。いい仕事をすればその分評価はあがる。でも、中にはクレーマーみたいな依頼人もいるからね。どっちが上がりやすいかと言われても平均値言えばどっちもどっちって感じかな」
「なるほどー」
『ちなみにクロウさんはどれくらいやったの?』
『俺は基本的にギルマスの依頼しか受けてなかったです( ˘ω˘ )』
『職権乱用…』
『否定はしない!(`・ω・´)』
そんなお話をしている間にも探索は続いていく。ふとリルが足を止めて右の方へと顔を向ける。
「リル?」
「向こうに何かいるよ」
「何か?」
「ちょっと待ってね~」
シェルフが指を振るうと穏やかな風が過ぎ去っていく。そして目を瞑って集中しだした。
『何してるの?』
『風を使っての索敵だな。わかりやすく言うと海で使うソナーみたいな感じだ』
『そんなことできるの?』
『難易度は高いができないことはない。その属性の扱いに長けていればな。まあ、当然というか水中とか地中…まあ、要するに空気がない場所ではできないけど』
『ほえー、シェルフちゃんそれできるんだ』
『シェルフは風属性の扱いに長けてるからねぇ( ˘ω˘ )』
クロウがコメントにて解説していると、シェルフが目を開いた。
「見つけた。オークとオーガの群れだね」
「数はどうですか?」
「オーガ一匹とオーク7匹だね」
『heyクロウさん』
『オーガはオーク種の上位種、といっても単体ならばC級に届くかどうかってところだな。オークの群れを統括してるんだろ』
「そうですね。その群れであればC級下位といったところでしょうか。行きますか?」
「そう…だね。ボスみたいな立ち位置の敵がいる相手に対しての連携の練習もしたいし、ちょうどいいかな?」
「だねー。あ、そうだマスター。澱みの場所ってどこ?」
『なんで?』
「調査するにしても放置するにしても、とりあえず場所知っておけば変に巻き込まれるみたいなことはないかなって」
『なるほど( ˘ω˘ )そう言うことなら了解』
そのコメントの少し後に何かがシェルフに向けて飛んできた。それをキャッチするとそれはディスプレイがある小さな板だった。
「なにこれ」
『特定の魔力を認識させることでその魔力の場所を表示するレーダー( ˘ω˘ )さっき澱みのほう登録しといたから』
「いつのまに…」
『クロウさん、裏で動くの好きだよね』
『推しのサポートは全力で、が信条なので( ˘ω˘ )』
『やりすぎ定期』
『解せぬ(´・ω・`)』
「ふぅん…なるほど、ここにあるんだね。よし、確認完了!んじゃあまずはオーガたちを仕留めよっか」
シェルフの言葉に全員が頷き、オーガたちがいる方向へと歩みを進めた。
「それではまずは戦法を。基本的にはこれまでと同じですが、今回は群れのリーダーとなる存在がいます。オーガとオークならばそこまで気にする必要はないのですが、それでも今後の事も考えて六華ちゃんを主軸に連携取れるようにしてみようか」
「私?」
「うん。六華ちゃんが連携をちゃんと取れるかどうかの確認が必要だからね。私とシェルフちゃんが周囲のオークの相手をしながらオーガの気をひくから、その間に大きな魔法でオーガを倒してください。ただ、その魔法を発動する時に私達も近くにいるので巻き込まないように声をかけるか、タイミングを見計らってくださいね」
詩織の言葉に六華は頷く。特に反発することもなく素直に聞いてくれるあたり、根はいい子なのだろう。問題は加減など今までしたことないだろうからそれができるかどうかというところだが。
「いたよ」
シェルフのその言葉に全員の表情が引き締まる。そしてその視線の先、シェルフの言葉の通り数匹のオークと一回り巨体のオーガがいた。
『はえー、でっけぇ』
『オークのほう、身長二mくらいねぇか?』
『オーガのほうはそれよりでけぇよ』
以前N級等を見たことがある故にそれなりにリスナーの方も余裕そうな雰囲気だが、それでも人より巨大な相手が群れているというのはそれ相応の威圧感を醸し出す。
「それじゃあ準備はいい?」
詩織の問いかけにそれぞれが頷く。それを見た詩織も頷き、刀に手をかけた。そしてシェルフと目配せをした直後に同時にオークたちへと駆け出した。
それと同時にリルとフィンも左右に駆け出し、オークが離れないように威嚇をしだす。
『オークやオーガは見た目通りのステータスを持ってる。強靭な体と体力を持っているから火とかでやけどを負わせた方がダメージとしては稼げるよ( ˘ω˘ )』
「うん、わかった」
クロウからの解説を聞いてからみらいは自分の魔銃二丁に火の魔術が刻まれているカートリッジを差し込む。
「それじゃあ私が牽制しているから、タイミングを見てオーガのほうに魔法で攻撃してね」
「ん」
みらいの言葉に六華は頷き、魔力を練り始める。
その横でみらいは銃を構えつつ戦況をよく見る。オークの数は七匹、そのうちの四匹はそれぞれ二匹ずつシェルフと詩織がひきつけている。残りの三匹がその二人の方へと行こうとするのをリルとフィンが牽制して止めている。
シェルフも詩織も本気を出せばオークをすぐに倒すことはできるだろう。そしてそれはリルとフィンも同じこと。しかし、それをせずにあえて時間をかけて相手を足止めしている。
それをしている理由は単純で六華がきちんと周囲を気にして魔法を撃てるかどうか、その見極めの為だ。
正直言えばもう少し強い場所で試すというのも手ではあったのだが、C級やB級ではみらいとシェルフの余裕が消えてしまうし、万が一イレギュラーに遭遇した場合、まともな連携ができていない状態では被害が出てしまう。
クロウが手を貸せばそう言った憂いもなくなるが、本人としても極力そう言うのをやりたがらない。以前のN級のような完全な想定外ではその限りではないのだが。
「……ん、いける!」
その言葉を継げると共にオーガに向けて一筋の雷が被雷した。
それは攻撃というには威力が低い。小さな静電気のようなものだが、それが攻撃の予兆であることを詩織とシェルフに伝えるには十分だった。
お互いに見合って頷くとシェルフは風を使って、詩織は蹴りでオーガの傍へとそれぞれ二匹のオークを吹き飛ばした。
リルとフィンが咆哮を上げて怯ませるとオーガたちを取り囲むようにわずかに炎がちらつきだす。
「フレイムテンペスト!」
言葉と共に両手を上げると巨大な炎の竜巻がオーガ達を取り囲んで立ち上る。そしてその頂点にて立ち上った炎が集まっていき巨大な炎球が形成されていく。
「とど…め!」
力を籠めて両手を振り下ろすと炎球が竜巻を飲み込みながら落下して、すさまじい火柱が立ち上る。
『うわぁ…』
『すっげぇ派手…』
『クロウさんの攻撃もビームとかで結構派手だったけどこれもこれですごいな』
リスナー達もその光景に唖然としており、シェルフ達も警戒しつつもその容赦のない攻撃に驚いていた。
そして立ち上る火柱が消えると、そこには黒焦げになった地面とオーガ達の魔石とドロップアイテムのみが遺されていた。
「しょーりー!」
表情はあまり動かないもののVサインをカメラへと向けてくる。
『ふむ。他の人を巻き込まないように発動前にきちんと声掛けしたのは悪くないな。といっても、あれだけの威力の火魔法をぶっ放すのは本来注意するべきだが…』
「周囲に燃え移らないようにちゃんと気を付けた」
『だな。延焼も起こってないから特にいうこともないだろう( ˘ω˘ )』
『あ、クロウさん的には合格なんだ』
『あの威力をこの子が出したことに関しては…?』
『魔力量とか見てこれくらいなら問題なくできると思うからね( ˘ω˘ )』
『えぇ…』
とりあえず戦闘は終了とみてみらい達は武器を収める。
「すごい魔法だね…」
「六華は確か複数の属性扱えたよね?あれくらいの魔法、他の属性でも扱えるの?」
「うん。あれ以上のも行ける」
と自信ありげにVサインを出す。
「なるほど。確かに以前戦った際も実力は十分にありましたし、あれだけの魔法を複数の属性で扱えるのならば連携がしっかりできるのであれば戦力としては十分ですね」
「ん」
詩織の言葉に自信ありげに胸を張る。
『どや顔六華ちゃん可愛い』
『カワイイは正義!』
『う~ん、この単純思考』
『まあ、常識さえ学ばせれば悪い子じゃないから。たぶん( ˘ω˘ )』
『そこ断言してくれませんかねぇ…』
『出会って数日で何を悟れと(´・ω・`)』
『それはそう』
「さて、とりあえず小型の群れ、リーダーがいる群れを討伐して簡易的とはいえ連携に確認できたわけで」
シェルフがそう前置きをしてからクロウから渡された板を詩織達に見せる。
「せっかくだから、澱みの調査。行ってみよっか?」




