S級探索者の推しは家探しをし始める
「皆、こんみらい~。今日もダンジョン探索やっていくよー!」
『こんみらいー!』
『待ってた』
『おや、ずいぶん大所帯やね』
『それにあの子…この間の襲撃犯じゃない?』
配信が始まり、画面に映っているダンジョン探索の面々を見てリスナーたちがにわかに騒ぎ出す。
「そうそう。あの後いろいろとクロウさんが調べたりしてね。どうにもまた厄介事があるみたいなんだ」
「それで、この子もあのダンジョンにいつの間にか連れてこられてたらしくて、もともと住んでいたダンジョンを探すために今回の探索に連れていく事になったんだ」
『ほえー』
『でも、それって本来クロウさんがやる事じゃ?』
『取られました(´・ω・`)』
『えぇ…』
『相変わらず推しに弱いよこのS級』
「あはは…」
「ま、この子の事もあるからね。正直マスターだけに任せるのって心もとない所もあるんだ。主に常識を教えるところとか」
『まるで人を非常識人みたいに言わんでくれ(´・ω・`)』
「常識人が推しとはいえたやすく数百万ポンと使うと思う?」
『なんも言い返せねぇ(´・ω・`)』
『このS級、口論だと弱いぞ』
『やーいやーい、レスバクソ雑魚―!』
『よろしい、ならば戦争だ(‘w’)』
『レスバ勝てないからって物理は反則だろ!!』
「相変わらずにぎやかですね」
こめんとでワイワイ騒いでいる様子を笑みを浮かべて詩織が見ていた。
『ここっていつもこんな感じなの?』
『大体こんな感じ』
『しおりんのところはそうでもないからなんか新鮮だねー』
「そうなの?」
「そうですね。まあ、私は基本的に探索配信以外はしないのでそれだからかもしれませんが」
『みらいちゃんはもともとは雑談とかゲーム配信のほうがメインだったからねー』
『こういった雑談が主だったよね』
「そうだねー。半年くらい前まではそんな感じだったね」
「いろいろとありすぎてもっと前な気がするねー」
「だね。それじゃ、雑談はここまでにして探索始めよっか」
「ですね」
みらいの言葉にそれぞれが頷いて武器に手をかける。フェンリルの子であるリルとフィン、エメルはいつも通りに周囲を警戒しながら歩き始めた。
『ところでなんでここ来たの?』
「さっき軽く話したけど六華ちゃんが暮らしてたダンジョンを探しにね」
『それがここなの?』
「それはわからない。クロウさん曰くたぶん違うと思うけど、候補ではあるって言ってたかな」
『そうなの?』
『おそらくだがね( ˘ω˘ )まあ、これから先パーティー組むなら連携くらいはできるようになったほうがいいだろってことで』
『今回の一件終わった後も組むの?』
『それは本人とみらいちゃん次第かなーそこまで俺がちょっかいかけるのも違うと思うし( ˘ω˘ )』
「見た感じ六歳くらいだし、学校とかも行かせた方がいいんじゃないの?」
「そだねー。ちなみにマスターの時はどうしてたの?」
『俺、地上に出てきたときは年齢的には中学すでに卒業してる時だったから…(´・ω・`)』
『学校行ってないのか』
『さらっと重い話持ち込まれたんやが』
『そこまで気にすることでもないからね( ˘ω˘ )』
『その子についてはとりあえず今回の一件が区切りを着いたと見たら環境を整えるので気にしなくていいですよ』
「ギルマスさん。そうなんですね」
『あ、ギルマスだ』
『ギルマスもほぼ常連になってるよな』
『こちらからいろいろとお願いしている立場なので、そう言った監督も必要なので』
『仕事はいいの?』
『ちゃんとこなしながらやっていますからお気遣いなく』
突如ギルマスがコメント欄に現れ、六華について話始める。
『彼女に関しては今はまだクロウの監督下です。そしてまだ彼女を引き取ってから時間が経っていません。彼女の状況の把握、及び環境を整える時間が必要なので、学校などはその後ですね』
『ま、そこらへんはおいおいだな( ˘ω˘ )なんか背後にいろいろと面倒なのもありそうだし』
『ですね。そこらへんも解決しないといけないので』
『ほえー、いろいろ大変そうやなぁ…』
「そうだね。というわけでできることをやりに来たんだけど…」
みらいがそう言った途端、フィンとリルの足が止まった。
「来た?」
「ああ。それなりの数…群れだな」
「匂いからして動物系…私達と同じ狼タイプかしら」
「はーい、じゃ、前衛は私と詩織さんで動くね」
「私はいつも通り後衛から援護するね。六華ちゃん、魔法使うのはいいけど他の人を巻き込まないようにね」
「ん」
六華は頷いてみらいの隣へと立ち、みらいもクロウにもらった新しい魔銃を二丁ホルスターから抜く。
「それじゃ、新武器のお披露目といこうか」
シェルフも新しい双剣を鞘から抜く。
『なんか見たことない武器』
『へい、クロウさん。あの武器何?』
『なんで俺に聞くん?』
『どうせクロウさんが用意した物でしょ』
『なぜバレたし(´・ω・`)』
『むしろなぜバレないと思ったのか』
そんな会話をしている間に、迫ってきていた魔物が姿を現した。茶色の毛の狼がぞろぞろと木々の間から姿を現した。
「あれは…」
「ワイルドウルフ、単体としてはD級程度の強さですが、その脅威は群れによって発揮される魔物で、数によりますが、二十を超えるとB級にも届くほどの連携力を見せてきます」
「増えると厄介はどこでも同じだねー」
『ちなみにクロウさん、対処法は?』
『まとめて消し飛ばす(‘w’)』
『ダメだこの脳筋…』
『まあ冗談はともかく、みらいちゃん達も数がいるんだし、攻撃後の隙をフォローし合えばそこまでの脅威になる事はないよ』
「そうですね。結局のところ連携攻撃が脅威なだけで、単体としてはそこまで強くないので、攻撃後の隙をフォローし合えば倒しきれます」
「じゃ、行こうか。リルとフィンは相手が広がらないようにお願いね」
「ええ」
「任せな」
リルとフィンが左右に分かれて駆け出すと同時にシェルフと詩織は真正面からワイルドウルフへと突っ込んでいく。
「参ります」
短くつぶやくと共に加速し、すれ違う直前で刀を抜いて一瞬で前方にいた数匹を一刀両断する。
『おー!』
『さすがしおりん』
鮮やかな手並みに詩織のリスナーたちが感嘆の声を漏らす。しかし、攻撃を終え、足が止まった詩織に対して四匹のワイルドウルフが襲い掛かってくる。
しかし、そのワイルドウルフたちも直後に無数の剣閃によって肉片へと姿を変えた。
「ふむ。さすがマスター、いい剣だ」
笑みを浮かべて右手に持つ剣を振るう。
「さすがですね」
「詩織さんもねー。あの剣閃、見えなかったよ」
お互いに笑みを浮かべ称賛し合う。そんな二人に二匹のワイルドウルフがとびかかってきた。即座に迎え撃とうと構えた瞬間、とびかかってきたワイルドウルフの顔面に炎の弾が直撃した。
炎の弾が飛んできた方向を見てみるとそこには手を前に突き出している六華と片方の銃を向けてきているみらいの姿があった。
『ワイルドウルフは基本的に森にいることが多い。それ故か炎に比較的に弱いから弱点を突くならそれがいいかもね。といっても他の属性に対して耐性があるわけでも無いから、好きに使ってみて』
「うん、わかった」
クロウからのアドバイスを受け、グリップにあるボタンを押す。するとするりとグリップ下部からカードが落ちてくる。
それをもう片方の手に魔銃を持った状態で指で器用に挟み、ホルスターへと入れて別のカードを取り出すとそのまま魔銃へと差し込んだ。
そしてその状態の魔銃をワイルドウルフの群れの方へと向け、引き金を引くと通常通りの魔弾が放たれる。しかし、放たれた魔弾が着弾すると共に周囲にバチリと電気が迸り、近くにいたワイルドウルフともども感電して動きを鈍らせた。
『今のって…電気?』
『雷魔術?』
『正解( ˘ω˘ )魔銃に特定の魔術を刻んだカードを差し込むことで放たれる魔弾に属性を付与する感じだな』
『ほえー、魔銃ってそんなこともできるんだ』
『…それって結構珍しい機構では?』
『ランクとしてはB級相当だな。C級あたりから魔銃に属性が付与され、B級あたりから属性切り替えができる。スイッチ一つでできる物もあれば、みらいちゃんの奴みたいにカードみたいな外部ツールで切り替えるタイプがあるんよ』
『ほえー』
そんな会話をしている間も戦闘が進んでいく。真正面から詩織とシェルフが斬りこんでいき、その二人に襲い掛かってくるワイルドウルフをみらいと六華が遠距離攻撃で追撃していく。そして外周から二人を取り囲もうと動き出すワイルドウルフに関してはフィンとリルが狩り取っている。
『おおー、相手が複数でもそつなく倒してる』
『しっかり連携取れてていいね』
『六華ちゃんも最初は心配してたけどこれなら大丈夫かな?』
『まあ、この程度なら問題ないだろうさ( ˘ω˘ )』
六華はクロウと同じように膨大な魔力を有している。それゆえに細かな魔法を使う分には他者を巻き込むようなことはないのだが、巨大な魔物等に大きな魔法を行使した場合に巻き込まれる可能性もある。そこで六華がちゃんと加減できるか。巻き込まないように連携が取れるかがクロウが気にしているところでもある。
その後も順調にワイルドウルフたちを掃討し、森から出てくる個体もいなくなったことを確認すると全員が一息ついて武器を納めた。
「結構いたねー」
「およそ三十体ってところでしょうか。少し疲れましたね」
『お疲れー』
『あの数はさすがに厄介だったな』
『ここってランク的にはどんなものなん?』
「ここはD級ですね」
『D級であの数がいるのか…』
『単体ではD級相当だからねー。群れると厄介ってのが特徴で、本来あそこまで群れることはないんだけど…』
「何か起こってるのかな?」
「どうでしょう?単純にここを探索する人がいなくて、魔物自体が増えただけという可能性もあります」
『ちょっと探ってみるか( ˘ω˘ )』
「うん、おねがーい」
『ういうい( ˘ω˘ )んじゃあそっちは変わらず探索しといて』
「そうだね。じゃあ先に進もうか」
戦闘を終えたみらい達が再度探索を進める。
「さて、俺もちょっと調べてみるか」
その様子を離れた場所にある木の上で画面越しに見ていたクロウも動き出す。
「…通常以上に多いワイルドウルフか…繁殖力はそこまで高くはないのにあれだけいるのが何かの仕掛けかどうか…少し探らせてもらおうかね」
そう言って木から降り、地面へと手を付ける。
ダンジョン内部は魔力に満ちている。それゆえに魔力の流れを見ることで少しはダンジョン内の状況を探ることはできる。異常が起きていれば魔力の流れにも異常が起きており、それが魔窟暴走の予兆であったりもするからこういう調査も馬鹿にできない。
それらをしても異常が見られなかった場合、ダンジョンに来る頻度が少なく、たまたま倒されなかったか複数の群れが混ざり合った可能性が浮上してくるだけなのだが。
「………」
自らの魔力を薄く、広く流していく。ソナーの要領でダンジョン内を探っていく。
みらい達がいる場所、そしてこのダンジョン内に生息する魔物達。ダンジョン内にある魔素や魔力の濃さの違い、今のところおかしいところはない。やはりただの考えすぎかと思った瞬間。
「ん?」
唐突な違和感がソナーに引っかかる。それは時々ダンジョン内に発生する物。
「これは…澱みか?」
魔素が吸収され、魔力の流れとなってダンジョンの地面や壁の中を通っていく。ダンジョン内の植物や魔物によってその魔力は吸収され、魔素となって放出される。そして放出された魔素が時間をかけて再度ダンジョンに吸収されて魔力の流れになる。そう言った循環がダンジョン内では発生している。だが、時にダンジョンの異常の一つとして、その循環が滞る場所がある。そこが澱みとなってよくない物をひきつけたり何らかのイレギュラーを発生させたりする。
具体的に証明できているわけではないが、想定外の上位魔物が出現する理由の一つでもあるのではないかという説もあるが、以前発見し、報告を受けた澱みを再度調査に向かったら同じ場所に宝箱が出現しており、そこから魔道具が手に入ったこともあり、必ずしも不利益になる事ばかりではないと判明している。
「……どうしようこれ」
安全策を取るのならば解消しておくべきではあるが、澱みの対処に関してもダンジョン探索としては必要な事。その必要な事を経験できるチャンスを消すのもあまりいい事とは言えないだろう。
「とりあえず様子見しておくか。最悪、対処できないことが起こったら俺が何とかすればいいし」
今は兄であるフィンに詩織、そして実力だけはA級の六華がいる。大抵の事ならばなんとかなるだろう。配信中に何事もなければ後で対処しておけばいいし、対処できない出来事が起こったら即座に対応すればいい。そう結論付け、澱みの場所を覚えて調査を終えた。




