S級探索者は推しの探索配信を見守る
ギルマスから報告を受けた翌日の朝。クロウはその報告書をリビングで読みながら朝食後のコーヒーを飲んでいた。
「それにしても、ダンジョンで子供がねぇ…」
「母さんは何か心当たりはない?」
クロウから話を聞いたマーサが飼い猫であるルディと共に日向ぼっこをしながらつぶやく。
「さあ、わからないねぇ…クロウがいた時は基本的にあのダンジョンから出ることはないし、ハデスに捕まった後でもあまり動かないようにしていたからねぇ…」
「そっかぁ…」
N級魔物のフェンリルであるマーサならばなにか情報を持っているのではないかと少し期待していたがはずれのようだ。
「魔物の中で似た特徴の奴とか言うのはいないんだよな?」
「そうだね。聞いたことはないね」
「ってことはやっぱ俺と同じダンジョンで育った子ってことかな…」
「その可能性が高いと思うよ」
同じ魔物である故に魔物に関する知識はマーサはたくさん有している。クロウもそれなりに博識でああるのだが、やはり人が知っている範囲であるがゆえにめったに見かけない魔物や未発見の魔物までは把握できていない。そう言った知識をマーサは有しているのだ。
「おはよ~…」
そんな話をしているとあくび交じりにシェルフが降りてきた。
「おう、おはよ。朝食食べるか?」
「食べるー」
「フレンチトーストとサラダだけど飲み物はどうする?」
「んー…この後みらいさんのところに行くから目を覚ますためにコーヒーで」
「あいよ」
コーヒーを淹れている間にフライパンを温めはじめ、冷蔵庫から卵液に浸しておいた食パンを取り出す。
「あ、マスター。二枚食べたいんだけどある?」
「ん?ああ、用意できるが、そんなに食って大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫。むしろこの後ダンジョン探索行くからしっかり食べておきたいんだよね」
「まあいいが、食いすぎて動きが鈍くなるなんてこと無いようにな」
「わかってるって」
フライパンが十分に温まったのを確認し、フレンチトーストを焼き始める。その音を聞きながらシェルフがしっかり座りなおすとテーブルの上に置かれている書類に気が付いた。
「マスター、なにこれ?」
「ん?ああ、昨日ギルマスから報告があった襲撃事件の概要だよ」
「襲撃事件?」
「ああ。なんでもそのダンジョンに行った探索者が子供に襲われたらしいんだ。で、それの概要報告書」
「ふぅ~ん…見ていい?」
「構わんぞ」
S級探索者であるがゆえにたまに守秘義務がある情報も流れてくるが、この件に関してはそういった物は含まれていない。
「………ふぅ~ん…。ねえ、ギルマスさんがマスターにこれ伝えたのってさ、もしかしてこの子がダンジョンで育った子の可能性があるから?」
「まあそんなところだ」
「ふぅ~ん…」
気のない返事をしながら報告書を読んでいく。
「あれ?」
そんなシェルフの目がふと留まった。
「なんか気になる情報でもあったか?」
「気になる情報って言うか、この一件があったこのB級ダンジョン、今日詩織さんが行くダンジョンだよ」
「詩織さんが?」
「うん。お兄さんのフィンさんと一緒に今探索しているんだけど、フィンさん強いでしょ?それに加えて詩織さんもこの間のN級騒乱に関わってたから本人の危機感知がおかしくなってるのに気が付いたみたいで、安定して行けるB級ダンジョンで慣らしているらしい」
「ほう、で、今日行くダンジョンがそこってことか」
「うん。どうする?」
「どうするって言われてもなぁ…」
その襲撃に関しては誰にたいしても行われているというわけでも無く、時々発生するという程度。そして命を奪うような襲撃かというとそう言うわけでも無い。
まあ、かといって負けた場合、その後の魔物の襲撃によって命を落とす可能性はないわけではないが、そこらへんはその襲撃者でなくても起こりうることなので何とも言えない。
「わざわざ止めるほどの事でも無いだろう。一応注意するようにだけ言っておいて、もし何かわかったら情報提供をよろしくって程度かな」
「わかった。そう伝えておくね」
その後サラダも作り終え、焼き立てのフレンチトーストを二枚平らげたシェルフはコーヒーを飲み終え、一通り準備を終えてからみらいの家へと向かって行った。
「元気だねぇ…」
「まあ、少し前まで家から出るにも俺が一緒じゃないとダメだったからな。今はある程度自由に動いていいから楽しいんだろ」
特殊な形でクロウの世話になる事になったシェルフは少し前まで要監視対象だった。
それゆえに行動制限も厳しかったのだが、その制限も最近緩和された。といってもあまり遠出はできないのだが、みらいの自宅へ行ったり、ソロでなければダンジョン探索にも行けるようにはなった。
「それで、クロウはどうするんだい?」
「そうだねぇ…」
みらいの配信は午後、そして現時刻は八時過ぎだ。調査をするには時間が足りないのでそれはみらいの配信がお休みの日にするとして、いまするのは日常的なほうがいいだろう。
「消耗品とかいろいろと調べたり掃除とかするかなぁ…ここしばらくし損ねてたし」
「忙しかったものねぇ…わかったわ。私にできることはあるかしら?」
「……フェンリルの姿で掃除できる…?」
「…無理ね。ルディの相手でもしているわ」
「な~う」
マーサの言葉にルディは穏やかに返事をした。
「それじゃあ今日も無理せずやっていこうか」
「はーい」
「そうね」
「ワン!」
午後。とあるD級ダンジョンへときたみらい達は配信を開始した。
ダンジョンの内部へと入り、配信を開始したみらい達は今石畳の大きな部屋にいる。
『こんみらい』
『今日はD級ダンジョンか』
『このメンバーならまだ余裕だろうけど、油断だけはしないようにしないとね』
「そうだね。何があるかわからないからね」
『ちなみにここってどんなダンジョンなの?』
『へい!解説役さん!』
『誰が解説役だ(´・ω・`)』
『名前言ってないのに反応する当たり自覚ありなんだよなぁ』
『(´・ω・`)まあいい。ここは迷宮型ダンジョンだな』
『迷宮型?』
『城の地下室とかがイメージしやすいかな?そう言う石畳とかで整備された迷路のダンジョンの事だよ』
「こうしていろんなダンジョン行くと思うけど本当にいろんな形のダンジョンがあるんだね」
クロウの説明に答えつつ周囲を警戒しながらみらい達は進んでいく。
『クロウさんが住んでいたという森林型に洞窟、他の探索者さんの配信見たりすると高山や火山、氷河や墓地とかもあるよね』
『せやねぇ( ˘ω˘ )母さん曰く、ダンジョンは世界と世界の狭間の空間らしいけど、そこは様々な世界の知識や記憶をダンジョンコアが取り込んでそれを元に自らのダンジョンを作り上げるらしいが』
『ほえー、まるで生き物やねぇ』
『というか、そこらへんの事コメントで言ってもいいのん?』
『知らん!(`・ω・´)』
『おいこらぁ!!』
「変な事言って怒られないようにしてね…?」
クロウの自由な発言にみらいから苦笑が漏れてしまう。そんな風に和気あいあいと進んでいると全員が足を止めた。
『お?』
『敵かな?』
「そうだね、何か聞こえるからきっと」
そう答えつつ双剣を抜くシェルフ、それに伴い、みらいも魔銃を抜いた。全員で警戒している先は通路の十字路。その横道からカタカタという音と共に複数の鎧を着たガイコツが姿を現した。
『げぇ!スケルトン!?』
『ヘイ!クロウさん、こいつは何物?』
『スケルトンウォーリアー、D級のアンデットだな。見た目通り骨の体ゆえに斬撃は効きにくい。ついでに結構群れで来るやつだから油断すると囲まれるからな』
姿を現したスケルトンウォーリアーはカタカタと嘲笑うかのように歯を鳴らす。
「確かに後ろにも結構いるみたいだね。じゃ、私とリルが前衛するからみらいさんは後方から支援を、エメルは私達が抜かれた場合お願いね」
「うん」
「ワン!」
みらい達の返事を聞くと共にシェルフとリルは駆け出し、スケルトンウォーリアーへと迫っていく。
「ふっ!」
短く息を吐き双剣を振るう。それと共にリルももう一匹へと飛びついた。
シェルフの双剣が苦も無くスケルトンウォーリアーの骨を断ち、飛びついたリルがガラガラとすべての骨を吹き飛ばしていく。
『斬撃が効きにくいとは』
『普通に効いてますな』
『効かないわけじゃないんよ。ただ…』
クロウはあえてコメントを途中で区切る。その言葉が示す先はシェルフの視線の先に合った。
「む」
シェルフの剣が骨を断ち切ったスケルトンウォーリアーはカタカタと笑いながら剣を振り上げ、シェルフへと斬りかかってきた。
『骨を少し切り落としたところでほとんどダメージがないんだよ』
「むう…」
思いのほかダメージが入っていないことに不満げな表情を浮かべつつ再度迫って双剣を振るうが、今度はその手に持つ剣にはじかれてしまう。
「シェルフちゃん!」
はじかれた瞬間に後方へと下がって距離を取った瞬間、みらいの魔銃から放たれた魔弾が頭部へと叩き込まれ、頭蓋骨を吹き飛ばす。しかし、頭蓋骨を吹き飛ばされてもスケルトンウォーリアーは動き続けている。頭部が無くなることで周囲が見れなくなったからかふらふらとしているが。
『なにあれ、頭なくても生きてるの?』
『そもそもアンデット系は生きているのか?』
『スケルトンウォーリアーは魔石が心臓部にしかないからそれを外さん限り倒せんぞ』
「そう言うのは早く行ってほしいかなぁ!!」
『自分の調査不足を恨め』
文句を言うシェルフに言い返すとぐぬぅといった様子で黙った。
『ここはアンデット系がメインで、倒し方に少しコツがいる。事前調査は大事だぞ』
「わかったよ!!」
少しやけ気味に叫び、シェルフが剣へと風を纏わせる。
「魔石外すだけでいいのなら…これでどう!!」
その言葉と共に横なぎに剣を振るうと風を纏った斬撃がスケルトンウォーリアーを通過していく。
『?』
『キレテナーイ?』
リスナーのいう通り、風が通過はしたが、鎧にも傷はついておらず、骨が断たれた様子もない。しかし…
ガシャァァン!
突如スケルトンウォーリアーの何体かの体が崩れ落ちた。
『何事!?』
『ヘイ!クロウさん!』
『さっきはなった風、あれは斬るための風じゃなくて動かすための風だったんだよ』
『つまり?』
『鎧の中…というか肋骨だな。その中で固定されている魔石を動かしたんだよ』
『え、あの程度で動くの?』
『そう簡単には動かんのやけどね。おそらく鎧の中で風を爆発させたんじゃないかな。それが成功した奴があんな感じで崩れ落ちた』
『つまりあの鎧の中で竜巻みたいな感じのを引き起こして内部でずらして倒したってこと?』
『そう言うことだ』
『シェルフちゃん、器用だねぇ…』
そんな感想を抱いている間にもシェルフとリルがどんどんスケルトンウォーリアー達を倒していく。
「んー…私も少しやってみようかな」
そう言って一つの魔銃を両手で持って深呼吸をする。
『お、みらいちゃんも参戦?』
『何するんだろ』
一つの魔銃に集中する。
通常の魔弾では鎧に防がれる。もっと細く、鋭く…。
「貫く」
引き金を引く。すると、魔銃の銃口から鋭く細い針のような魔弾が放たれ、鎧を貫き、そのまま貫通する。するとその貫通したスケルトンウォーリアーがガシャァンと音を立てて崩れ落ちた。
『おお!倒した!』
『魔弾を細く鋭くすることで貫通させてその魔弾で魔石を撃ちぬいたんだな』
『ほえー、そんなことできるんだ』
『魔石は壊れないからな。だからぶつかるとそのままはじかれて崩れ落ちたんだろう』
「みらいさんナーイス!そのまま後方にいる奴お願いねー」
「任せて!」
後方から襲い掛かってくるスケルトンウォーリアーをみらいが撃ちぬきつつ、リルとシェルフはそのまま戦闘を続けた。
その後何度かスケルトン系統と接敵し、撃退しつつも問題なく進んでいく。
「にしても、骨ばっかりだねー」
「アンデットってスケルトンしかいないの?」
『このダンジョンは上層はスケルトン、中層からゾンビ、下層にゴーストって感じで三つに分かれているんだ』
「へー、じゃあ今回は上層をメインに回る予定だからスケルトンばっかりになりそうだね」
「だねー」
そんな話をしながら探索していると。
『ごめん!クロウさんいる!?』
焦ったような様子のリスナーがあらわれた。
『お?』
『なんだなんだ?』
『いるけどどうしたー?』
「何かあったの?」
『こういうのここで言うのはルール違反だとわかっているけど助けてほしいんだ!』
「助けるって?」
不穏な様子のコメントにみらい達の表情が険しくなる。
『しおりんがよくわからない子供に襲われているんだ!!』




