S級探索者達は日常へと戻る
N級キメラとの戦いから一週間が経った。
探究者という謎の存在がおり、それに関しては解決してはいないが、それでもハデス達五体のN級魔物とそれらが合わさったN級キメラを討伐したことで今回のN級騒乱に関しては解決したと探索者ギルドは発表した。
それに伴い、ハデス達の存在が確認されたのちに一通り制限されていたダンジョンの出入りに関しては制限が解除された。
そうはいっても残党というべきか残っているN級魔物もいる可能性があったので、クロウ達S級探索者達で国内のすべてのダンジョンを探索、危険なN級魔物が確認されていないこと、されたとしてもすでにそれぞれ討伐されている事を合わせての制限解除なのだが。
「ほい、報告書」
そう言って一通りまとめた報告書を雑にギルマスの机の上に放り投げる。
「ああ。受け取った。お疲れ様」
「いやー、今回はなかなか厄介だったね」
「私としてはいい戦い相手ができて楽しめたけどね」
「だな!」
「その気持ちはわからなくもないですが、やはり最後のN級キメラに関しては厄介のほうが勝りましたよ」
報告書を放り投げたクロウの後ろで他のS級探索者達が思い思いに過ごしている。
「君達一人だとしたらあのキメラには勝てないかい?」
「んー…確かにそうかもねー。ダンジョンコア五つ分の魔力はさすがに削り切れないかな」
ギルマスの問いに遥が答える。
「実際俺としてもあれは封じただけのようなもんだからな。最後に自爆したからどうにかなったが、あのまま持ち帰ったとしてもあの魔力の効率的な吸収とかしないといつでも復活しかねないもんだから」
N級キメラは五つのダンジョンコアが混ざり合い、一つとなった物を核とし、そこに魔力を纏っただけの生命ともまた別の存在。あれを倒すにはすべての魔力を放出させるか、ダンジョンコア自体を破壊しないといけない。
そもそもダンジョンコアは抜き取ってダンジョンを封鎖することはできても、破壊することはできない。その抜き取ったダンジョンコアに関しても、加工などが一切できないので、そのまま都市部の電力発電などに利用されている。
そしてダンジョンコアには周囲の魔素を吸収して魔力へと変換する機構が備わっているので、魔力をすべて放出させようにも、放出された魔力が魔素へとなり、その魔素をダンジョンコアが吸収して魔力へと変換し、再度放出するという無限機構となってしまう。故に魔力切れも狙うことはできない。
だからこそクロウも周囲の魔力を乱すことで体を作れなくし、その状態で封じることでしか止めることができなかったのだ。
「そう言えば他のダンジョンコアのダンジョンは大丈夫なの?あそこにあったってことは結構前に潰れてたとか?」
「ああ。それに関しても報告は入っている。制限していたがゆえに被害はなかったが、それでもいつの間にか消えているダンジョンが四つあったようだ」
「そか。被害が無いならいいや」
問いかけた流華はそれで興味を失ったようであくびをしていた。
「んじゃ。報告も終わったし俺は帰るぞ。ここ最近無駄に表に出ちまったからな。これからはまたひっそりと裏で動かせてもらう」
「え~?それは無理なんじゃないかなぁ?」
クロウの言葉に遥がニヤニヤといたずらっぽい笑みを浮かべていた。
「でしょうね。あなたの推しであるみらいさんが公式配信探索者となったのです。あなたも今後も引っ張り出されるでしょう」
「えぇ…」
雷亜の言葉にすっごく不服そうな表情を浮かべている。
「もういっそのことあなたも配信者になったら?それなりにノウハウはあるでしょ」
「やだよ。俺は表に立たずにひっそりとみらいちゃんを応援しているほうがいいんだ」
「ひっそりとねぇ…。彼女のリスナーの反応を見るに結構はっちゃけてたようだけど?」
「分別はわきまえている範囲だ」
クロウとしてもやろうと思えばもっと資金的にもいろいろと応援することはできるのだが、それをやってもみらいの為にもならないだろうし、リスナーも離れていく可能性もあったのでほどほどで抑えていた。
今回はN級魔物というみらいではどうにもできない案件だったのとギルマスが思いっきり巻き込んだがゆえにほぼすべての配信でいることになったのだが、今後はこういうこともないだろう。
「とりあえずギルマスは必要以上にみらいちゃんを巻き込んだことを反省しろよ?あの子が対処できる以上の案件に巻き込んだんだから」
「私の指示で巻き込んだのは認めるが、君にとって必要な事だからね。彼女も一探索者となったんだ。こちらの要望には応えてもらうよ、これからもね」
「せめてあの子達だけで解決できる範囲での要望にしてやれよ…。明らかに今回は過剰だろ」
「確かに彼女たちだけでは無理だったであろうが、こちらが求めていたのはあの件の対処ではなく君の制御だ。その点に関しては十二分に期待に応えてくれたと思っているよ。その分の報酬もすでに渡してあるしね」
彼女たちがN級魔物を倒したというわけではないのでランクを上げるようなことはなかったが、それでも金銭的な報酬は渡してある。その報酬に関してもあれだけの危険な探索に同行させたんだ、ここ数年は遊んで暮らせるレベルの金額を渡してある。
「それにこれは長年様々な探索者を見てきた私の勘のようなものだが…何となくだがあの子達はこれから先、様々なトラブルに巻き込まれる気がするのだよ」
「おいこら縁起悪いこと言うな。あんたの勘は当たるんだから」
「ハハハ。まあ、何があっても君ならどうにかするだろう。彼女を見捨てる選択肢を取らない限りはね」
「んなもん取る気はねぇよ」
「そうかい。それなら問題ないだろうさ。君達探索者はダンジョン探索関連の事を考えてくれていればいい。それ以外に関してはこちらでやっておくからさ」
「ああ、任せた」
それ以外…主に権力者との応対に関しては基本的にギルマスが行っている。
探索者と探索者ギルドのようなダンジョン関連の物は基本的に国政にはかかわることはない。といってもそれはあくまで表向きの話。あれだけの力を有している探索者、そしてそれをまとめている探索者ギルドに対して接触してくる権力者は少なくない。あわよくば利権を自らの手中に、なんて考えるような輩もいるものだ。過去にもS級探索者に接触してきた政治家もおり、クロウ達にも接触してきた人物たちもいた。まあ、指名依頼でない限りは無視されているのだが。今回の一件でクロウが重要視しているみらいの存在が露呈した。それを知った権力者たちがどう動くかはわからない。だが、それを止めるのがギルマスの役目だ。
「でも、下手にみらいちゃん達を脅しの材料にしたり取り込もうとしたらクロウが滅ぼしかねないよねー」
「否定はしない」
「いや、そこはしてくださいよ」
…止めないと国が滅ぶ可能性もあるので気を引き締めて相手取らなければと考えるギルマスであった。
さて、その後特に何か追加の報告もあったわけではないので各々解散し、クロウは自宅へと帰ってきた。
「ただいま~」
そう声をかけつつ家の中に入るとすかさず奥から飼い猫であるルディがトトトッとかけてきた。
「はいただいまただいま、良い子にしてたかー?」
ゴロゴロと喉を鳴らすルディを抱き上げ、撫でつつリビングへと入る。
「おかえり。報告は終わったかい?」
「ただいま。つつがなくね」
ゆったりとリビングで伏せているマーサに返しつつ外套などを空間収納へと入れてうがい手洗いを済ませる。
「シェルフは?」
「ダンジョン探索が解放されるからってみらいさんのところに今後の配信についての相談に行ったよ」
「そか」
紅茶を淹れ、ソファに座って一息つく。
「……今回の件、いろいろとありがとうね」
「……気にしないで。母さんも、兄さんも姉さんも…それにエメルも。皆助けられてよかったよ」
「そうね…本当に強くなったわね…」
「あれから十年以上も経ってるからなぁ…まあ、母さん達を助けられるようにできることをやり続けた結果ではあるが」
家族であったマーサたちが姿を消した日。何かあったと察し、その何かから助けるために貪欲に力を求め続けた。相手を倒す力だけじゃなく、あらゆる手段に対抗できるように魔術や魔法陣を覚え続けた。幸いにも魔力量は潤沢で魔力の制御能力も高かったがゆえに様々な魔法陣を覚えることができ、そこから法則などを導き出し、様々なオリジナルの魔法陣も作り上げた。それらの努力が実り、今回マーサ達を助けることができた。
クロウにとって一つの大きな目的が解決したのだ。それを自覚してか、どこか張り詰めていた気持ちが緩む感覚があった。
「これからはどうするの?」
「これから?」
「ええ。あなたが長い間、私達のために努力をしてくれた。その努力のおかげで私達は助かった。そして探究者の件はともかくとして、元凶だったハデスは討伐できた…。クロウはこれから何を目指して頑張っていくの?」
「そうだなぁ…」
マーサの言葉の通り、今まで自分を突き動かしていた目標は達成したことでなくなった。だからこそ次の目標へと舵取りをすることになるのだが…。
「ま、みらいちゃんという推しがいるんだし、彼女の応援をしていくよ。シェルフや姉さん、エメルもいるしね」
探索者になる事を望んだみらい。ギルマスの意図が入っているとは言え、姉であるリルや弟でもあるエメルもいる。そしてもともとサポートのためにシェルフも参加させている。そしてどれだけ先になるかはわからないが、ある程度実力が追いつけば兄であるフィンと共に探索をすることとなった詩織も合流するだろう。
これから先どうなるかはわからないが、探究者がおとなしくしているとも思えない。どんな状況でも彼女たちを守れるようにはなっておきたい。
「ま、俺は今まで通りできることを考えていくさ。どんな事態に陥っても解決できるようにな。それが俺のやるべきことだからな」
「そう。あなたがやりたいことなら私もそれを手伝うわよ」
「ありがとう、母さん。ま、とりあえず今はゆっくりしましょうかね」
そう答え、膝の上に乗って寝ているルディの背を優しくなで始めた。
「ふむ…死なないにしてもそれなりのダメージを与えられると思ってたんだけど、それもなし…か」
そう呟くのは探究者。五つのダンジョンコアを混ぜ合わせ、N級キメラを作り上げた奴は最後の大爆発の時にその騒ぎに乗じて自らの領域へと戻っていた。
その領域からクロウ達の様子を映し出して伺っていた。
「いいねいいね、やはり彼には興味が尽きない!人の身でありながらダンジョンと魔物によって育てられた者…。彼はどこまでいけるのだろう、どれだけの事ができるのだろう!」
探究者はただただ愉しそうに空間に映し出されているクロウ達の様子を見ている。
「いろいろと調べたいところだけど、調査は入念な準備から。まずはこちらの準備を終えないとね」
そう言って映し出された映像を消し、歩き出す。
「さあ、最終調整に入ろうか。サンプルとしてもらってきた物だが、奇しくも彼と同じような存在だ。彼と同じようなことが君にもできるかどうか。その実験もさせてもらおうか」
そう告げる探究者の前には一人の少女が静かに眠っていた。
次回キャラ紹介、その後幕間という名の番外編となります




