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S級探索者は推し活のために探索する  作者: 黒井隼人


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S級探索者達はN級キメラと戦う


「グルァアアアアアアアアアアアアアア!!!」


五体のN級魔物が混ざり合ってできたN級キメラが猛々しい咆哮と共にすさまじい魔力の余波が襲い掛かってくる。

それを物ともせずに傑と流華がノータイムでN級キメラへと駆け出していく。


「怯みもしねぇ」

「連続で戦闘だというのに元気だねー」

「クロウさんから見てあの敵はどれくらいの強さですかね?」

「あー…そうだな…」


駆け出す二人を眺めつつ、遥と雷亜と共にN級キメラの分析を進める。


「…軽く見た感じ、性質としては吸収した五体の特性をそれなりに受け継いでるんだろうニーズヘッグの鱗といい、阿修羅の腕といい、九尾の尻尾といい。どこまでその特性を発揮できるかまではわからんが少なくとも厄介なのは確かだな」

「魔力量は?さっきの咆哮といいかなり持ってるのはわかるけど、どれくらいかわかる?」

「んー…漏れ出てる魔力量から推察するに…ハデスの五倍以上ってのはわかるな」

「…あの二人大丈夫ですかね?」

「死ななきゃ大丈夫だろ」

「適当ですね…」


呆れたように雷亜が笑うが、クロウとしてもあの二人を見捨てたというわけではない。

あの二人もS級探索者だ。きちんと自分の身を守る術を持っている。そしてこの中で真っ先に二人が駆け出したということは、それが必要だと即座に判断したからだ。

流華は曲線的で素早い動きが得意なので相手の攻撃を避けるのは得意だ。雷亜も動きは速いが直線的なせいで距離を取ったりするのが主なので相手の攻撃を避けて即座に反撃ということは少し苦手なほうだ。

そして傑に関してはその肉体の強度から大抵の攻撃を受けても大きなダメージになる事はならない。この二人ならば相手の強さを測るのにちょうどいいのだ。


「とりあえずしっかり見ておけ。おそらく俺達全員でかからないといけない奴だからな」


そう言ってクロウは仮面の奥から鋭い目つきでN級キメラを見据えた。


同時に駆け出した流華と傑は同じ速度でN級キメラへと迫っていく。


「邪魔するなよ流華!」

「あんたもね!!」


互いに悪態をつきながら傑は走り、流華は空中に氷の足場を作って飛び石の上を進むように跳ねながら突き進んでいく。

その二人に気づいたN級キメラが左右の腕を動かし、巨大な拳をそれぞれへと振り下ろした。

その攻撃を流華は空中に展開する氷の足場を増やして縦横無尽に飛び回って回避していく。時々N級キメラによって氷の足場が砕け散るが、そのたびに新しい足場が生成されて移動方向を変えることで危なげなく攻撃を回避していく。

そして傑は…。


「はっはぁ!」


その顔に笑みを浮かべ、迫りくる拳に対して傑も自らの拳を放つ。

ドォン!という衝撃音と共に拳がぶつかり合う。


「む?」


手ごたえに違和感を感じてわずかに顔をしかめる。しかしその間にも次の拳が傑の横から迫ってくる。


「おっと」


その拳を開いている片手で受け止めるが、即座にその反対側から別の拳が迫ってくる。


「阿修羅もそうだったが、腕六本は面倒だ…な!」


受け止めた拳を地面へとたたきつけ、その勢いのままに跳躍して迫ってくる拳を飛び越えて腕に着地し、再度ジャンプする。


「こいつで…どうだ!!」


拳をしっかり握り、そこに魔力を籠めて一本の腕へと叩き込んだ。しかし、やはり殴った手ごたえに違和感を感じた。


「おーい、流華―」

「なによ!」

「こいつら実体ねぇぞ」

「はぁ?」


傑の言葉に首を傾げつつ、即座に迫ってくる拳を躱し、手近にあった腕へと剣を振るう。


「………ああ、そう言うこと。フェニックスと同じなのね」


その一撃で傑の言葉を理解した。

N級キメラはきっちりと姿はある。しかし、それは魔力を組み上げて作られた物であり、フェニックスのようにその形を自在に変化させたり、切り落とされた先ですら自在に操れそうだ。


「面倒ね…これ、どうしたものかしら」


ニーズヘッグの鱗があるのでその分防御力が硬い。しかし、その防御力を突破しても、フェニックスのようにダメージ自体が即座になかったことになるうえ、切り離せばその部分が独立して襲い掛かってきかねない。それぞれ切り落とした先すら無力化させないといけないからなかなかに厄介だ。


「凍らせてどうにかならんのか?」

「さすがにこのでかいのは無理よ。拳ですら私よりでかいのよ?凍らせたとしても砕かれて無力化を維持なんてできないわ」

「そうかー。ま、何とかなるだろ」

「まったくもう…」


能天気な言葉に呆れたようなため息を吐いてしまう。

こんな呑気な会話をしつつも、すさまじい勢いで迫ってくる拳を躱していく。向こうの攻撃は当たらない。しかしこちらの攻撃もまともに効いていない。拮抗状態となってしまった。そんな時に…


ドゴォン!


轟音と共に巨大な雷がN級キメラへと叩き込まれた。

全身に電撃が迸り、そのまま膝を着いた。


「あん?」

「もう観察はいいの?」


それが合図となって傑と流華はN級キメラから距離を取る。その位置には後方で観察していたクロウ達が立っていた。


「ああ。ある程度推察できた」

「倒し方は?」

「こいつを持ってろ」


そう言って五枚の紙を取り出し、そこにそれぞれ魔法陣を焼き付ける。


「何よこれ」

「魔力吸収の魔法陣。あいつ、フェニックスと同じ感じだろ?それなら切り落とした後、一瞬だけだが少し魔力の構築が甘くなるんだ。その瞬間にこれを張り付ければ魔力を吸収する」

「まじかよ。便利だな」

「といってもあくまで切り離した直後の一瞬しか使えん。遅れたら構築が安定して効果なくなるからな」

「わかった」

「それと切り離すまでは効果はない。ニーズヘッグの鱗とかはそれぞれで対処してくれ」

「はいはーい」


話が終わると共に感電から回復したのかN級キメラが立ち上がる。


「んじゃ、本番と行くか」


クロウの言葉を合図にそれぞれが動き出した。雷亜と流華が左右から挟み込むように駆け出し、傑が真正面から向かっていく。その三人の正面に突如魔法陣が展開される。しかし、その魔法陣を気にすることもなく、三人はそのまま魔法陣を通過する。その瞬間に魔法陣は輝き、通過した三人へとその輝きが移っていく。その瞬間に三人の動きが各段によくなった。


「とりあえずこれでバフ関連は大丈夫だな。遥もいるか?」

「私はいいよ。状況次第で矢に付与をお願いしたいくらいかな」

「あいよ。んじゃ俺達は後方支援だな」

「はいはーい」


そう言って遥は弓を構え、クロウは魔法陣を展開する。

遥が放った矢が的確にN級キメラの手や肘、肩へと直撃する。しかし、直撃はしてもダメージは与えられていないようだ。


「やっぱ硬いねー。これは貫通力上げたほうがよさそうだね」


そう言いつつ魔力の練り方を変え、展開される矢を少し変異させる。

ドリルのような螺旋の模様が入っている矢は貫通力を重視した矢だ。


「相変わらず器用なことで」

「君ほどじゃないさ」


クロウの言葉に笑みを浮かべて遥は答える。クロウは展開した魔法陣を巧みに動かし、そこから放たれた魔力弾によってニーズヘッグの鱗を次々に砕いている。

しかもその砕いている場所はそれぞれ傑達が攻撃しようとしている場所。それを先読みして、防御力を下げるために鱗に衝撃を与える魔法弾を叩き込んで一つ一つ砕いているのだ。

そしてそれをわかっているのか、クロウが砕いた鱗の場所を的確に傑達は追撃していく。しかし…。


「やっぱまともにダメージはいってねぇな」


砕けた鱗は追撃をした直後にはすでに元に戻っており、まともな攻撃は一撃くらいしか叩き込めていない。

しかも、内部が魔力を編み上げて作られた物なので、そこまで衝撃によるダメージも入っていないのだ。


「切り落とそうにもなかなかダメージ入らないもんねー。どうしよっか」

「…せめて鱗を何とかできればって感じだな。あれは…フェニックスの再生能力の方かな?」

「だと思うけど…どうにかできる?」

「ああ。フェニックスの再生能力は炎という形のない物であることと、魔素の吸収率の高さと構築スピードによってなせる物だ。つまりそれを妨害できれば…」

「あの鱗の再生を止められるってことだね。で、それはどうやるの?」

「魔法陣を矢に籠めて相手の体内…可能ならあの心臓部分にある魔石あたりに打ち込んでもらう。その部分に打ち込めば再生能力を阻害する魔法陣が展開してあいつが持つ超速再生を撃ち消すことができる」

「…それ、私が放つんだよね」

「他に誰ができると?」

「だよねぇ…仕方ないなぁ…。でも、鱗に関しては何とかしてよ?さすがに貫通力が足りないからね」

「わかってる」


そう言ってクロウは自分の手で矢を作り上げる。それは魔法陣が籠められた特殊な矢。遥が作り出す矢に魔法陣を籠めた場合、遥の魔力とクロウの魔力がぶつかり合って魔法陣に齟齬が発生しかねない。それゆえに矢の作成からクロウが作らねばならない。そうなると普通の矢となってしまい、鱗を貫けるほどの貫通力がなくなってしまう。


「んじゃささっとやるか」

「大丈夫?雷亜君達に言わなくても」

「大丈夫だろ。あいつらなら」


雑に扱っているが、一応即座に対応できるだけの能力は持っている。


「んじゃ行くぞー」


軽く言いつつ魔法陣が籠められた矢を遥へと渡し、クロウは魔法陣を適宜動かす。

雷亜と流華は先ほどまでと違う動きをした魔法陣に気づき、クロウと遥のほうを見た瞬間、二人が何かを狙っていることが分かったので即座に気を散らすために動き回る。傑に関しては気づいているのかいないのかいまいちわからないが真正面から殴り掛かっていた。

移動した魔法陣が輝きだし、無数の魔法弾がN級キメラの胸元へと叩き込まれていく。その魔法弾によってどんどん鱗が剥がれていくが、それと同時に新たな鱗が生成されていく。


「タイミングは任せた」

「うん。いっくよー…」


魔法陣の矢をつがえ、弓をひく。無数の魔法弾が叩き込まれていく。魔法弾と共にそれが着弾したことによって発生した煙が目標を隠すが、その程度の事は遥にとっては何の障害にもなっていない。


「…………フッ」


短く息を吐いて矢を放つ。

無数の魔法弾の間をすり抜け、砕け散った鱗が落ちてその下の柔らかい肉の部分が一瞬だけ露わになった瞬間、放たれた矢が的確に突き刺さった。

そして刺さった直後に矢が輝き、体に張り付くように魔法陣が展開された。


「あれ?表面に出た?」

「ああ、あれはあくまでそう見えるだけ。きちんと内部で発動しているよ」


クロウのその言葉の通り、N級キメラの体を覆っていたニーズヘッグの鱗の再生が止まった。


「肉体の再生に関しては他の魔物の特性もあるから止めれないが…これで厄介な鱗は無効化したぞ」


その言葉が聞こえていたのか、それとも鱗の再生が無くなったのがわかったのか、雷亜の槍と流華の剣にそれぞれが得意とする属性が纏わされる。


「一気に…」

「叩ききる!!」


その言葉と共にそれぞれが六本ある腕の内の一本を切り落とす。そして即座に渡された魔法陣が刻まれた紙をその腕に張り付けると魔法陣が輝き、糸がほつれるかのように腕から魔力の糸が無数に伸びて魔法陣へと吸収されていった。

そして吸収された直後にその紙を再度回収して次の腕へと向かう。

そして即座にそれぞれが二本目の腕を切り落とし、同じように魔法陣を使って吸収する。


「傑!最後の一組行くよ!」

「おう!!」


流華の声にこたえ、傑がそれぞれ左右の手の指を掴んで踏ん張る。


「これで…!」

「どうだ!!」


ズパァン!と斬撃音が聞こえると共に腕が切り落とされ、即座に魔法陣を使って吸収する。


「うっしゃあ!これで腕は全部終わりだ!」

「鱗に関しても大丈夫そうだし、あとは本体だね」


三対六本の腕が無くなり、まともな攻撃手段は多くないだろう。ニーズヘッグの鱗もなくなり、防御面もだいぶ落ちている。あとはとどめを刺すだけとなったのだが…。


「………なんか様子おかしくない?」

「確かに。なんで動かないんだ?」


クロウと遥がそう呟いた瞬間。


ドゴォォォォォォォン!!


すさまじい爆音と共に膨大な魔力がN級キメラから噴き出した。


「きゃあ!?」

「うお!?」

「おっとと…」


近くにいた傑達がその魔力の放出によって吹き飛ばされ、クロウ達の元まで飛んできた。


「大丈夫?」

「ええ…吹き飛ばされただけだから…」

「一体何が…?」


起き上がり、N級キメラのほうを見た瞬間、全員が言葉を失った。


「あれは…あの姿は…」


N級キメラの周囲を膨大な魔力が渦巻いている。その魔力はどんどんN級キメラに張り付いていき、巨大な腕を形作っていく。そしてそれ以外の部分にもどんどん魔力が張り付き、纏っていく。その姿はクロウがフィンとリルを助けた時の姿とほぼ同じだった。


「魔力解放…まさかあいつらも使えるのか」

「…クロウ。あの状態の奴に勝てる案はあるかい?」


雷亜が問いかけてくる。まっとうにやり合っても勝てるか怪しい。それだけの魔力量をN級キメラが纏っていた。身に纏う魔力はそれだけで一つの鎧となっており、あの纏われた魔力を突破するのはクロウ達ですら骨が折れるほどだ。


「…なくもない。ぶっちゃけ使えるかわからんが」

「なに、出し惜しみ?」

「どうなるかわからんってだけだ。まだ試運転もしてないからな…」

「難しいことはわからんがお前なら何とかなるだろ」

「お前は気楽でいいな…。まあいい、わかったやってみる。最悪またあの魔力解放することになるが、仕方ないか」

「あれ、発動させると中断できないからね…。まあ、それは向こうも同じだろうけど。問題はダンジョンコア五個分の魔力を向こうが持っているからどれだけの時間あの状態になるかがわからないってところだけど」

「だな」


とりあえず空間収納から二つの透明な水晶玉を取り出す。


「なにそれ」

「魔力玉。ここ数日の俺の魔力を凝縮して作ったやつ。で、これを…」


両手にそれぞれ持って思いっきりぶつけ合う。ガキィン!!という甲高い音が響くと共に水晶玉が割れ、そこから魔力があふれ出してクロウの両腕へとまとわりついた。


「…よし、第一段階は成功。疑似的な物だけど魔力解放と同じ感じだ。これで高火力技を叩き込む。その隙を作るのは任せた」

「わかったわ」

「任せて」

「俺はいつも通り暴れればいいんだろ?」

「ええ、気を逸らすのはこちらでやりましょう」

「んじゃ仕上げだ。頼むぜ!」




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