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S級探索者は推し活のために探索する  作者: 黒井隼人


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19/96

S級探索者は推しと顔合わせする


ギルマスとの相談後、みらいと連絡を取って顔合わせを兼ねた話し合いをすると話してスケジュールを合わせることになった。

そこで問題になったのが移動手段だった。


『私がそっちに行ったほうがいいんだよね?』

『そうだけど…結構遠かったっけ』

『うん、新幹線とか乗らないといけないから、時間どうしようっか…』

『ん~…』


リビングにてスマホで連絡を取っていた宗谷は天井を仰ぎ見つつ考え込む。

事前に泊まるというのもありだが、みらいは母親と二人暮らし。普段だったら問題はないが、母親は魔窟暴走によって死にかけてからまだ1週間ほどしか経過していない。その状態の母親を残して遠出するのは気が乗らないだろう。


「なに悩んでるのマスター?」

「ん?シェルフか。起きてたのか」


今の時間は14時。通常の生活をしている人は起きているが、シェルフは夜型の生活をしているのでもう少し後まで寝ているときがある。


「探索者になるっていう話だから、一応生活スタイルを戻しておこうかなーって」

「いいんじゃないか?探索中に眠くて警戒がおろそかになるとか笑えんからな」


シェルフの実力としてはかなりのものだが、それでも油断した状態で探索できるほどダンジョンは甘くない。

それに現段階で素人であるみらいと共に探索することになれば、ある程度は彼女を守らないといけない。まあ、彼女もちゃんと探索者として活動するのならば、守られるだけの存在ではいてはいけないのだが。


「それで、何を悩んでいたの?」

「ん?ああ、今度の顔合わせの時の移動手段をな。どうしたものかと」

「そういえばマスターの推しさん、探索者ギルドから離れた場所に住んでいるんだっけ」

「そそ。まあ、向こうにもギルドはあるが、ギルマスとの話をするのなら本部のほうに行かんといけないからな」


国内の探索者ギルドもギルドマスターである五月雨五郎が所属している本部の他に、国内の支部が点在している。

そっちの方でも問題なく探索者登録はできるのだが、シェルフの件や探索者ギルド所属の配信者になるという話をするとなったらそこではいささか警備が心もとない。

宗谷がいれば大概の事はどうにもできるのだが、かといって情報漏洩までは手を出しきれない部分もある。情報が外にばれなければそれに越したことはない。


「マスターが連れていくのはダメなの?」

「あー…転移使えばまあ…いやでもなぁ…」


連れていく分には問題ないが、そうなると顔を合わせないといけなくなる。そうなると顔バレする可能性もあるので、どうした物か悩んでしまう。


「……いつもの変装してて通報されないかな…」

「何も言わずに行ったら間違いなく通報されると思うよ」

「だよなぁ…」


買い物するときは顔や姿を変えて黒川宗谷だとばれないようにしているが、探索の時は認識されにくくなる魔法をかけてある全身黒ずくめのローブを着ている。

なぜその状態なのかというと、配信ドローンなどに映った時のためだ。顔や姿を変えたとしても、何かあった時…例えば最初の魔族を見つけた時のように、ハイミノタウロスのようなイレギュラーモンスターに襲われている配信探索者を助けた時など、そういった事で顔が露呈することはある。そうすると日常生活にも支障をきたすことが往々にしてある。

それを防ぐために認識阻害のローブを付けているのだが、それでもあくまで認識されないというだけであり、カメラには映ってしまうので、顔などは隠している。その結果があの不審者スタイルだ。

そしてみらいに対してそれを使うか悩んでいるのは、彼女に身バレしたくないという宗谷の思い故だ。

クロウという一般リスナーでいられるあの環境を好ましく思っている宗谷は、自分がS級探索者であることがバレた後の事が気がかりとなっている。態度自体は変えないかもしれない。それでも見る目は変わるかもしれない。それが嫌だった。だから顔バレすることを恐れているのだ。


「…顔バレしない姿で迎えに行くって話して転移で行くか…。あ、シェルフの写真先に見せてお前に道案内してもらえばいいのか」

「それって私が隠れているマスターのところまでみらいさんを連れていくってこと?」


シェルフの言葉に宗谷は頷く。先にシェルフの写真を見せ、彼女に道案内してもらって人目のつかないところで宗谷が姿を現せば何とかなるのではないかと考えた。


「そうかもしれないけど…思いっきり不審者のやり方じゃない?」

「そこは…うん、今までの信頼関係を信じよう」


推し始めて二年以上経っている。その間にイベントの手伝いや相談などのやり取りもしているので、信頼関係はそれなりにあると思いたい。


「ま、とりあえずその旨を話しておこうかな」



そんなやり取りをしてから数日後。約束の日となった。


「大丈夫?忘れ物とかない?」

「大丈夫だよ。もうお母さん心配しすぎ、子供じゃないんだから」

「そうはいってもねぇ…」


みらいと彼女の母親が玄関でわちゃわちゃと親子で話している。魔窟暴走が起こってから、数日は母親は恐怖から寝つきが悪くなったり、寝れても悪夢にうなされたりしていたが、それもいくばくか落ち着いた。しかし、その後から今度は元来あった心配性の部分がさらに顕著になって、何かにつけて口を出してくるようになった。そんな母親を探索者になるために説得するのはなかなかに骨が折れたが、それでも今では納得して送り出そうとしてくれている。心配性で口うるさいのは変わらずだが。


「じゃあ行ってくるね」

「気を付けてね。クロウさんによろしくね」

「うん」


母親に見送られ、みらいは笑顔で家を出た。

シェルフと待ち合わせしているのは近所の喫茶店。そこで合流してクロウのところへと行き、そのまま探索者ギルドの本部へと移動することになっている。

自宅から少し歩いて待ち合わせ場所の喫茶店へと入る。中に入るとすでにシェルフがおり、ホットケーキとメロンクリームソーダを前に満面の笑みを浮かべていた。


「えっと、シェルフちゃん…で、合ってるかな?」

「あ、みらいさん」

「相席いいかな?」

「うん、いいよ」


シェルフの正面に座ると、すかさず店員がメニューを持ってきた。


「あ、私は…」

「マスターが少し話してから来なって言ってたから何か注文してもいいと思うよ」

「じゃあ…コーヒーを一つ」

「かしこまりました」


ペコリと頭を下げて店員が下がっていく。


「食べなくていいの?」

「うん、結構緊張しているからね」


シェルフの問いかけに微妙な笑みでみらいは答える。


「ところで聞きたいんだけど…」

「マスターの事?」

「うっ」


シェルフに言い当てられて言葉が詰まってしまう。


「怒ったりしてるかなぁ…って、ほら、探索者になりたいからって我儘言ったから…」

「呆れてはいたけど怒ってはいなかったよ。それに不服ではあってもみらいさんの覚悟を後押しするのがファンだって言ってたし」

「そっか…」


シェルフの言葉にみらいは少し嬉しそうな笑みを浮かべる。

みらいからしたら宗谷ことクロウは最古参の一人だ。そんな人でも配信者がスタンスを変えることで推すのをやめるという話はよくあることだ。

今までみらいは雑談やゲーム配信を主にしてきた。ダンジョン配信というのも十分な需要があるのはわかっていたが、それでも配信デビューからずっと、そういった物はやらないと公言していた。おそらく今回の事を配信内で言って、実際にダンジョン配信をし始めたら推しをやめる人もいるだろう。クロウももしかしたら…と、みらいは不安に思っていた。しかし、今回の事を話したとしてもクロウは推しをやめずに変わらず背中を押してくれた。それがどうしようもなくうれしかったのであった。


「それにしても…なんでクロウさんここに来なかったの?」

「あの格好で喫茶店来たら通報待ったなしだからねー」


もぐもぐとホットケーキをほおばりながらシェルフは答える。


「不審な格好で行くとは本人が言ってたけど、そんなになの?」

「少なくともあんな人がいたら私は警戒するね。ダンジョンの中で見たらマスターだと気付かずに攻撃するかもしれない」

「そこまでなんだ…」


シェルフのあからさまな言葉に思わず苦笑を浮かべてしまう。その後お互いの軽い自己紹介や雑談をしてから二人は喫茶店を後にした。


宗谷との合流場所はあまり人目につかない場所がいいとシェルフは聞いている。ということでそのことをみらいへと話すと、みらいは少し考えてから歩き出す。


「ここの近くに小さめの公園があるんだけど、今の時間ならそこには誰もいないんじゃないかな」

「公園なのに?」

「うん。この近くにはもう一つ大きめの公園があってね。そっちの方が遊具とかもあるから遊ぶならそっちの方に行くんだ。トイレとか自販機とかもそっちならあるから大概の子はそっちで遊んでるよ」

「へぇ~」


そういった場所では子供たち遊んでいる印象ではあるが、その公園もそこまで広くない…どころかむしろ狭いので、子供としてもあまり遊びにくかったりもする。

とりあえずみらいの案内でその公園へと向かう。公園が見えてくると確かに周囲には人の目はなく、閑散としていた。


「ここなら確かによさそうだね」


一応周囲を見回して人影がないか確認しておく。特に人影が見えないので問題なさそうだ。


「じゃあ呼ぼうかな。マスター」


シェルフが少し大きな声で呼ぶと二人の前に唐突に小さな竜巻が発生した。砂を巻き上げる竜巻が強風となって周囲へと砂を運ぶ。当然シェルフやみらいのほうには砂は飛んでいかなかった。そして竜巻があった場所には全身黒のローブを着た仮面をつけている人物が立っていた。


「無駄に派手に出てきたねマスター」

「いや、音もなくいきなり姿現したら怖いやん?だからこういう演出あればそこに来るってわかるかなって」

「怖さとかそういう気づかいするならまず恰好を何とかしたら?」

「顔バレ嫌です」


そんなことを言う宗谷に思わずシェルフはため息を吐いてしまう。

そんな中隣にいたみらいは一歩前へと歩く。


「えっと…クロウ…さん?」

「やほ、みらいちゃん。初めまして…でいいのかね?一応初対面ではあるから」


配信やメッセージアプリなどで話すことはあれど、こうやって直接会うことはなかった。もともと宗谷としてもみらいが探索者になると言わなければ会うつもりはなかった。しかし、彼女は探索者(こちら)側の世界に足を踏み込んだ。ならばそれを全力でサポートするためにも、宗谷は彼女の前にクロウとして姿を出すことを決めたのだ。


「………」


みらいも何かしゃべろうとは思いつつも、いろんな言葉が浮かんでは消えていきしゃべることができずにいた。

その様子を見てシェルフがため息を吐く。


「マスター、いつまでもここにいたら通報されるよ?」

「おっと、それは勘弁。んじゃあみらいちゃん悪いけど転移するけどいいかな?」

「あ、はい」


みらいの返事に答えるように宗谷は右手を上げる。そして指を鳴らした瞬間、一瞬のめまいと共に景色がガラッと変わった。

そこは会議室のような部屋だった。四角形に配置された机に、それぞれに座るための椅子。そして部屋の壁の一つにホワイトボードが掛けられており、その前には一人の男性が座っている。


「ようこそ、桜乃みらいさん。私は探索者ギルド日本支部のギルドマスター五月雨五郎だ」


温和の笑みを浮かべるギルマスは静かに自己紹介をする。


「は、初めまして桜乃みらいです!」

「ああ、緊張しなくていいよ。そうだね…適当なところに座ってくれて構わないよ。それでシェルフ君とえっと…」

「この姿の時はクロウでよろしく」

「わかったよ。クロウも適当に座ってくれ」


ギルマスに言われて宗谷は適当な場所に座る。その左隣にシェルフが座り、みらいもおずおずといった感じで右隣に座った。


「さて、桜乃みらいさん。君は探索者になりたいんだったよね?」

「はい、そうです」

「通常であれば君が探索者になるのには、それぞれにある探索者ギルドの支部で手続きをしてくれれば済む話だ。そんな中でココに来てもらった理由だが、君には一つ提案してみたいことがあるからなんだ」

「提案…ですか?」

「うん。桜乃みらいさん。探索者ギルドの公式配信者として探索者デビューしてみる気はないかい?」


ギルマスのその言葉にみらいは驚いたような表情をしていた。




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