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S級探索者は推し活のために探索する  作者: 黒井隼人


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S級探索者は説明配信をする


ノックの音が響き、入出の許可を得てから室内に入る。


「来たか」


そこにいたのは神妙な顔をしたギルマスだった。


「報告は?」

「受けてる。というか、自分で調べてきた」


そう言って雑にギルマスの前にあるソファに座ったクロウが答えた。

ここに来たのはイフの件についてだ。

イフを捕えてから一週間。施設へと送って万全な状態で監視、管理していたのだが、ついこの間そこからイフの姿が消失した。

その報告を受けたクロウは即座に施設へと向かって調査を始めた。イフが消えた理由が死亡によるものか、それとも別の何かかを調べるのが目的だ。


「それで何かわかったか?」


ギルマスの問いかけに首を横に振る。


「痕跡がなにもなかった。侵入した痕跡も脱出した痕跡も。転移だったら何かしらの痕跡が残るはずだがそれもなかった」

「つまり転移での移動ではないと?」

「わからん。少なくとも俺が知る技術による転移でないのは確かだ」

「………死亡した可能性は?」

「それもないな。空気中の魔素を調べたが、精霊特有の魔素がなかった。死亡後の状態がどんな風になるのかはわからないが、それでも完全に消滅するはずはない。たとえ姿が維持できない状態でばらけたとしても、その魔素が空気中に残るはずだ。それがないということは…」

「死亡したわけではなく、どこかに行った…もしくは連れてかれたということか」


ギルマスの言葉に頷く。


「監視カメラに関しては?」

「それも確認したが、その瞬間だけブラックアウトしてた。時間にして1秒ほど。それが戻った時にはイフの姿はなかった」

「…探究者か」

「おそらくな」


イフの姿が消えた瞬間だけブラックアウトしたということは、そのタイミングで何らかの外部干渉があったということだ。そこはセキュリティもかなりのレベルの物を扱っており、他国からの干渉はできないようになっている。それは他国の研究施設にも当てはまっており、どこの国でもかなりのレベルで隠蔽工作が成されている。

そんなものをたやすく突破し、痕跡ない状態でイフを連れ去れるような存在なんて探究者しか思い浮かばないだろう。


「にしても、あいつがやったとしてどうやってやったんだ?」

「さてな…何度かあいつの居場所を探ろうとしたが全くわからなかったからな。へたしたら別次元とかにいても不思議じゃない」

「別次元…ダンジョンや異世界がなければ眉唾物と言いそうな話だな」


荒唐無稽なクロウの言葉にギルマスも肩をすくめてしまう。本来ならばあり得ないと言いたいところだが、そのあり得ないことが何度も起こっているから全くあり得ないとは言えないものだ。

突如現れたダンジョンに魔素。魔素を使った魔法や魔術に、魔物や魔石という存在。そして以前攻めてきた別世界の魔族に精霊界という存在。

昔であればそんな非科学的な物はあり得ない。と言い張れただろうが、今ではその非科学的な物が当然として存在しているんだ。ないと言い切る根拠がなくなってしまった。


「それで、イフがいなくなったわけだが、どう対処する?」

「ああ、それに関しては大丈夫。さすがに同じダンジョンに入らないとわからないが、それでもイフの居場所がわかるような仕込みはしてあるから。今後対処の方を取りつつ時間がある時にダンジョンに潜って場所を特定してみるよ」

「イフが動けるようになればまたいろんなダンジョンで見かけることになるだろう。それに惑わされないようにな」

「わかってるよ」


そんな話をしているとスマホが着信を知らせてきた。


「ん?…みらいちゃん?」


スマホのディスプレイに映っていたのはみらいの名前。はてさて今日は特に配信予定もないし、何かあったというわけではなかったと思うが。首を傾げつつも通話に出る。


「はいもしもし」

「あ、クロウさん今大丈夫?」

「ああ。とりあえず報告も一段落ついたし、問題ないよ」

「何かあったの?」

「ちょっとね。それで何か用事があるのかい?」

「あ、うん。実はコメントの方で説明の方はいつやるのかってコメントが増えてきて…」

「ああ。シェルフの件についてか。そういやあれからそれなりに時間が経ってるがやるの忘れてたな…」


シェルフの正体を隠していたこと。そして今回の精霊に関連する一件。それらに対して説明を行うと言ったが、その後イフの調査や、闇の侵食への対処法などを探っていると想定以上の時間がかかってしまっていた。

それゆえにそういった説明に関しての配信をやっている時間がなかった。


「どうしよっか?」

「近いうちに…って言いたいところだが、何方にしろやることがあるからなぁ…」

「そうだね…クロウさん今日これから予定は?」

「一応家に帰ってもろもろ対策のための準備だが…。まあ、それはある程度ならば後に回せるかな」

「それならこの後で配信してもいいかな?さすがにこれ以上後回しにできなくなっちゃったから」

「だね。それじゃあ場所はギルドの方でいいかな?会議室の一つをこっちで借りておくから」

「うん、お願い」


そう言って通話を切る。


「前に話していた説明に関してかい?」


通話を断片的に聞いていたギルマスが問いかけてくる。


「ああ。シェルフについて説明するって言ってやってなかったからな」

「まあ、こちらとしては問題ないとしてもやはり部外者からしたら不安なんでしょうね」

「ですかねー?リスナーの一部は普通に受け入れてそうですけど」

「まあ、貴方が問題ないと言ったからでしょう。信用されていますね」

「どうしてこうなった」


含み笑いを浮かべるギルマスを横目にクロウはため息を吐いていた。


「ああ、そういえばイフに関してはどこまで話していい?」

「姿が消えたことに関しては話しても問題ないですよ。きちんとそれに関する対処もできているということ込みでですが」

「あいよ、了解」



その後ギルドに来たみらいとシェルフと合流してクロウはギルドの一室へと来ていた。

配信をするのは説明役としてクロウ。そして当事者であるシェルフ。同じパーティーであるみらいの三人。他の面々は今回は特にダンジョン探索などは行わないので待機している。


「じゃあ始めましょうか」

「ういうい」


カタカタとPCを操作し、みらいが配信を始める。


「こんみらいー。今日はちょっと短めだけど、以前言ったシェルフちゃんについての説明に関する配信だよ」

『こんみらい』

『やっと説明が聞けるのか』

『なんでこんなに時間かかってたん?』

「やる事重なって対処してたら忘れてた」

『おい』

「まあ、まだ案件としては解決してないし。対処しなきゃいけない部分もあるからな。というわけで時間が限られているのでさっさと説明しちまうぞ」


コホンと一つ咳ばらいをしてからクロウが話始める。


「さて、まずシェルフについてだが、気づいている人たちも多いと思うが、種族は精霊。風の精霊だな」

『人じゃないってこと?』

「種族上では違うな。まあ、普通に会話もできるし、一緒に暮らしてて問題が起きることもないから、そこまで気にすることでもないんだがな」

『それでいいのかS級探索者』

「N級魔物とずっと一緒に暮らしてた俺に何をいまさら」

『ぐうの音も出ない反論やめろ』

「で、シェルフを拾ったのが今からおよそ二年くらい前だっけ?」

「そう…だね。それくらい経つね」

「たまたま行ったB級ダンジョンでな、ボロボロの状態のシェルフが倒れていたんだよ。で、それを拾って治療やら検査やらいろいろとやって、しばし様子を見て、敵意なし、問題もなし、ということで俺の元での保護観察をしたのが…大体拾ってから二か月くらい経ったあたりかな?」

「うん、それ以降は基本的にマスターと一緒な時しか外出できなかったんだよね。それ以外の時は基本的に家でゲームしてたかな」

『まさかのシェルフちゃん引きこもりゲーマーだった』

「まあ、それしかできる事なかったからね。で、それからしばらく経ってみらいちゃんが探索者になるって決めてね。さすがにソロでやらせるわけにもいかないし、俺が一緒のパーティーになるわけにもいかない。ある程度信用できる人員とパーティーを組んでもらおうと思ったんだがいかんせん俺にはそこまでのツテが無くてな」

『意外だな。クロウさん結構カリスマ性があるからそう言うの結構いると思ったのに』

「基本的にまともに人とかかわらずにソロ狩りばっかしてる奴だから」

『コミュ障なのかクロウさん』

「否定はしない。まあ、そんなわけである程度実力があって万が一の時にみらいちゃんを連れて逃げれる程度の実力を持っていて、俺の信用がある人物となるとシェルフくらいしか浮かばなくてな」

「それでみらいさんがよければってことで顔合わせして、その時に私の正体を教えたんだ」

『それでみらいちゃんは受け入れたの?』

「うん。クロウさんが考えたうえで提案してくれたことだし、クロウさんが信用できるって言うのなら問題ないと思ってね」

「信用してくれるのはありがたいけど、なんでそこまで信用度が高いんだろうねぇ」

『日頃の行いだろ』


コメントに対して反論できずに言葉を詰まらせた。


「当時シェルフは力を解放すればB級相当。力を抑えた状態でもC級に相当する実力を持っているから大抵の事は何とかなると判断したんだ。したんだがなぁ…」

『しょっぱなN級と相対してましたね…』

「あれは完全想定外よ…」


遠い目をしながらN級騒乱の件を思い出していた。本来ならばのんびり配信しながら探索していき、事件はあれどそこまで大事の事件は起こらないと思っていたのだが、初手からのあの一件からかなり大きな事件に巻き込まれてしまっている。どうしてこうなったのか。それがS級であるクロウとかかわった故のものか。それは誰にも分らない。


「さて、それがみらいちゃんと一緒のパーティーになった経緯だな。何か質問はあるか?」

『しおりんがシェルフちゃんの正体を知ったのは?』

「これは少し前に話したと思うが、つい最近だ。今回の一件でシェルフがいた精霊界が関わっている可能性が高いということで、さすがにシェルフの正体を隠す利点がないということで教えた」

『今回の件がなければ教えなかったの?』

「ああ。異世界の住人というだけでトラブルの可能性が出てくるだろ?だから必要以上に広めるつもりはなかったんだ。まあ、今回の件でさすがに隠しきれるとは思わなかったがな」

『じゃあそのうち話すつもりだったんだ』

「ああ。本格的に今回の一件が動き始めたらな」

『つまり今はその一件が動き始めてると?』

「そういうこと。で、話の流れから今回の件についての話をさせてもらおう」


そう言って一度お茶を飲んで喉を潤す。


「さて、今回についてだがまず事の発端である精霊界についてわかっていることを話そう」

『わかっていることあるの?』

「シェルフから聞いた話だがな。そこから推測できている部分も含めて話す」


コホンと咳ばらいを一度してから改めて話し出す。


「精霊界とはシェルフ達精霊が住まう世界を俺達が仮称した物だ。実際にそう呼ばれているかはわからないが、話をそのまま進めていく。その精霊界には大きく分けて三つの階級がある」

『階級?』

「ランクのような物だろう。それぞれの精霊をまとめる大精霊。そしてその大精霊の跡継ぎである次期大精霊候補。そして通常の精霊だ。おそらく大精霊候補にはならないが、それでもそれぞれの属性の扱いに長けている存在もいるであろうが、そこらへんの差がわからないのでひとまとめに通常の精霊として判断する」

『シェルフちゃんはどのランクなの?』

「私は風の大精霊候補だよ」

『上から二番目か。それで実力的にはB級探索者同等なんだっけ?』

『となると大精霊はA級上位くらい?』

「どうだろうな。そこらへんは相対してないからわからん。ただ、この間戦ったイフに関してはA級相当に足ツッコんでるレベルだったな」

「ちなみにイフは炎の大精霊候補だよ」

『同じ大精霊候補なのにイフのほうが実力が上なの?』

「ああ。それに関しては精霊界で発生した問題によるものだと思われる」

『問題って?』

「正確なところはまだ調査中だが、闇の大精霊による洗脳ないし、眷属化のようなものをされているみたいでな。それによる強化が行われているようなんだ」

『そうなの?』

「うん、あのイフに関してもたしかに、喧嘩早いところはあるけど、あそこまで戦闘狂みたいな感じじゃなかったんだよね」

「具体的な状況はわからないが、おそらくだがそういう理性を低下させ、凶暴化させているのではないかというのが俺の推測だ。そしてそれがどこまで影響を与えているかもわからない」

『というと?』

「大精霊には闇の外の地水火風の四属性と光の大精霊がいる。シェルフの話を聞く限りその大精霊も闇の大精霊の魔の手に落ちていると推測できる。そして大精霊候補に関してもね。その状態である以上、他の精霊たちも同じだろうということが推測できる」

『それってかなりやばくない?』

「やばさで言えばな。敵の戦力がまだわからない以上、問題ないとは言えない。とはいえ、対処できないほどではないだろうというのがこちらの見解だ」

『なるほど』

『ちなみに今はどこまでわかっているの?』

「イフが闇に浸食されて変質していたこと。それを治療できる手段がないこと。そしてそれによって通常よりも能力が上がっているであろうってことだな」

『対処法はまだないの?』

「そこらへんは今調べているところだな」

『イフを捕まえたことで進展してるんだ』

「あー…それなんだが。おそらくだが探究者によってイフが連れさらわれてな。姿消しちゃったんだ」

「え!?」


クロウの言葉に真っ先に驚きの声をあげたのはシェルフだった。


「すまんな。シェルフには早めに報告したかったんだが、調査してギルマスに報告した後にこの配信だったからタイミングがなかったんだ」

『探究者が関わっているのは前に言ってたけど、結構がっつり関わってるんだね』

「今回に関してはイフが捕まっているのが向こうにとって都合が悪かったのかもしれないからな。痕跡も何も一切ない状態で消えたからむしろわかりやすかったが」

『逃げられたけど今後はどうするの?』

「とりあえずイフがいる場所を特定して相手の拠点を把握するのが目標かな。それがわかれば後は対策を練って動くって感じかな」

『わかるの?』

「仕込みはしてあるからね」


そう言ってクロウはにやりと笑う。


「ま、いろいろと予想外のところはありはするが、それでも対処できないほどじゃない。いつも通りにこちらでどうにかするから安心してくれ」


その後も細かな質問を受けつつも、大まかな説明を終えてからクロウたちは配信を終えるのであった。



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